始めに
コーマック・マッカーシー『ザ・ロード』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
マッカーシーの作家性
初期作品の『果樹園の守り手』などに見られる、長く重厚な一文や、南部ゴシック的なドロドロとした人間模様は明らかにフォークナーの影響を受けています。
『ブラッド・メリディアン』はメルヴィルの影響が見えます。同作に登場する判事という怪物的なキャラクターは、『白鯨』のエイハブ船長や白鯨そのものの不気味な神性を彷彿とさせます。人間を寄せ付けない圧倒的な自然の描写や、絶対的な悪というテーマにおいて、メルヴィルの視点を引き継いでいます。
またマッカーシーはインタビューで、ドストエフスキーを高く評価しています。マッカーシーの特徴である句読点の省略や、独自のタイポグラフィは、ジョイスの実験的文体からの影響が指摘されています。
ジェームズ王訳聖書は彼の文体を形作る最大の源泉です。接続詞のandを多用する文体や、預言者のような威厳に満ちたトーンは、聖書的なリズムに基づいています。他にもヘミングウェイ、オコナーに刺激されました。
黙示録SF
この物語の核となるのは、絶望的な世界で息子を守り抜こうとする父親の姿です。父親にとって息子は、神の不在とされる世界における唯一の神であり、彼を生かすことだけが生きる目的となっています。自分が死んだ後も、息子が人間として生きていけるよう、技術と心を教え込もうとする切実な愛が描かれています。
作中で繰り返される「火を運ぶ(Carrying the fire)」という言葉は、この作品の最も重要なメタファーです。文明が崩壊し、食料が尽き、カニバリズムが横行する世界で、それでも人を食べない、奪わないという一線を守り続けます。「火」とは、単なる生存を超えた文明の残り火であり道徳心」を指します。
たとえ報われなくても善き人であり続けようとする意志の尊さを問いかけています。マッカーシーの文体は非常に禁欲的で、色彩のない灰色の世界を淡々と描写します。祈りも届かず、奇跡も起きない世界で、父親はしばしば神に対して毒づき、その不在を呪います。全てが灰に帰し、未来が閉ざされた中で、なぜ生きる必要があるのかという根源的な問いが常に背後に横たわっています。
父親が思い出すかつての世界と、息子が知っている現在の死んだ世界の対比がされます。物が消えていくにつれ、それを指す名前も消えていきます。文明が記憶からも消え去ろうとする恐怖が描かれています。
物語世界
あらすじ
名前のない「父親」と「息子」は、冬の寒さを生き抜くために、わずかな食料を積んだショッピングカートを押し、ひたすら南の海岸線を目指して歩き続けます。彼らが持っているのは、略奪者から身を守るための拳銃と弾丸2発、そして互いへの深い信頼だけです。
道中、彼らは凄惨な光景に直面します。食べ物は底をつき、常に凍死の危険と隣り合わせです。 食料がなくなった世界では、人間が人間を狩って食べるカニバリズムが横行しています。父子は彼らに見つからないよう、息を潜めて移動します。
過酷な状況下で、父親は時に非情な決断を下しますが、息子は常に困っている人を助けたいという純粋な倫理観を持ち続けます。父親は息子に自分たちは『火を運ぶ者』であり、決して人を食べない善き人間だと言い聞かせ、絶望の中で人間としての矜持を保とうとします。
長い苦難の末、二人はついに海にたどり着きます。しかし、そこも期待していたような楽園ではなく、灰色に濁った死の海でした。体力の限界に達していた父親は、自分の死期を悟ります。彼は泣きじゃくる息子に、火はお前の中にあると伝え、自分が死んだ後も生き抜くよう諭します。
父親が息を引き取った後、一人残された息子の前に、彼らを尾行していたという見知らぬ男が現れます。その男が善き人であることを信じ、息子は新しい家族と共に再び歩き出します。




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