始めに
アルフレッド・ド・ミュッセ『マリアンヌの気まぐれ』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ミュッセの作家性
ミュッセに最も強烈な影響を与えたのが、イギリスの詩人バイロンです。社会への反抗心、そしてダンディズムを継承します。初期詩集『スペインとイタリアの物語』では、バイロン風の皮肉と情熱が混ざり合った文体が見られます。また、ミュッセの描く自己破壊的でありながら高貴な魂を持つ主人公像は、まさにバイロン的英雄の系譜にあります。
ミュッセの劇作に不可欠なのがシェイクスピアです。当時のフランス演劇の厳しい規則を無視し、悲劇と喜劇、崇高さと卑俗さを混ぜ合わせる手法を学びました。
内面的な告白や、繊細な感情の動きについてはルソーの影響が色濃いです。自らの恋愛や内面の苦悩をさらけ出す告白の文学の精神を継承します。
ミュッセのデビュー当時、フランス・ロマン派の指導者だったのがユゴーです。ユゴーが主宰する文学サロンのセナクルに参加することで、ミュッセはロマン主義運動の最前線に立ちました。ユゴーからロマン主義の技法を学びつつも、ミュッセは後にロマン主義の型にはまることを嫌い、独自の皮肉な視点を持つようになりました。
理性と情熱
この劇の最大のテーマは、主人公であるオクターヴとセリオという対照的な二人の青年の関係にあります。彼らは実はミュッセ自身の内面を二つに分けた存在だと言われています。
セリオは愛に対して真面目で、一途で、内向的。騎士道的な愛を信じていますが、現実世界では無力です。オクターヴは享楽的で酒に溺れ、世の中を冷めた目で見ている放蕩息子です。言葉巧みですが、心は空虚です。
ミュッセは、純粋な愛を求めるセリオと、それを嘲笑してしまう冷笑的なオクターヴが、一人の人間の中で共存できないという絶望を描いています。
気まぐれの悲劇
タイトルにある「気まぐれ」は、単なるわがままではありません。厳しい夫クロワジに縛られたマリアンヌが、自分を口説きの対象としてしか見ない男たちに対し、自らの意思をぶつけることで自由を誇示しようとします。しかし、彼女が誰を愛するかを気まぐれに決めた瞬間、それがオクターヴへの恋となり、結果として誠実なセリオを死に追いやるという皮肉な結末を招きます。
この物語の悲劇は自分の言葉で語らないことから生まれます。セリオは自分の想いを直接伝えられず、友人であるオクターヴに代弁を頼みます。マリアンヌは、オクターヴが語るセリオの愛ではなく、語っているオクターヴ自身に惹かれてしまいます。言葉が本来の目的であるセリオの恋の成就を果たさず、別の方向へ滑り出してしまう怖さが描かれています。
物語世界
あらすじ
舞台はナポリ。若く純粋な青年セリオ、その友人である放蕩息子のオクターヴ、そして厳格な判事の妻であるマリアンヌを巡る、ボタンの掛け違いの物語です。
純情な青年セリオは、人妻マリアンヌに恋をしていますが、シャイで自分では告白できません。そこで、親友のオクターヴに自分の代わりに彼女を口説いてほしいと頼み込みます。
オクターヴは最初こそ乗り気ではありませんでしたが、親友のためにマリアンヌに近づきます。彼は持ち前の弁舌と皮肉な態度で、セリオがいかに彼女を愛しているかを説きます。
夫である判事クロワジの嫉妬に嫌気がさしていたマリアンヌは、最初はオクターヴを拒絶します。しかし、熱心に愛を語るオクターヴ自身に、次第に興味を抱き始めます。
マリアンヌは夫への復讐と自分の自由を示すため、ある気まぐれを起こします。彼女はオクターヴに今夜私のバルコニーに来てと誘いをかけるのです。彼女が本当に呼んでいたのは、セリオではなく、目の前のオクターヴでした。
オクターヴは親友にチャンスを譲ろうと考え、自分の代わりにセリオをマリアンヌのもとへ向かわせます。
しかし、妻の浮気を疑っていた夫クロワジは、すでにバルコニーに刺客を放っていました。暗闇の中でマリアンヌが「オクターヴ!」と呼ぶ声を聞いてしまったセリオは、親友に裏切られたと思い込み、自暴自棄のまま刺客に殺されます。
親友の死を知ったオクターヴは、マリアンヌの前に現れます。彼女は今こそ愛し合えるわと彼を誘いますが、オクターヴは冷たく言い放ちます。「僕は君を愛していない。愛していたのはセリオだ」と。




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