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ウィリアム・トマス・ベックフォード『ヴァセック』解説あらすじ

ベックフォード
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始めに

ウィリアム・トマス・ベックフォード『ヴァセック』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ベックフォードの作家性

​ ベックフォードに最も決定的な影響を与えたのは、ガランによる『千夜一夜物語』の仏訳です。 幼少期から東洋の寓話に没頭し、それが『ヴァセック』の異国情緒あふれる舞台設定の源泉となりました。サミュエル=ジョンソン『ラスラス』もまた東洋を舞台にした哲学的物語であり、当時のイギリスで流行していたこのジャンルの形式をベックフォードは受け継いでいます。


​ ​ベックフォードはフランス語に堪能で、ヴォルテールの『カンディード』などに見られる冷笑的でシニカルな機知や、物語のテンポの速さを継承します。


​ ウォルポールは​ゴシック小説の先駆者で、『オトラント城奇譚』の著者ですが、巨大な建造物や超自然的な恐怖を扱うゴシックの枠組みをここから学びました。

 またアレクサンダー=カズンズからも感化されました。

悪魔との契約の果て

 主人公のカリフのヴァセックは、人間が知るべきではない隠された知識や究極の力を追い求めます。ゲーテの『ファウスト』にも通じる知の探求による破滅という普遍的なテーマです。天に届くほどの高い塔を建て、神を冒涜してまで悪魔エブリスの力を借りようとします。


​ ​ヴァセックは自分の欲望を抑えることを一切しません。彼は五感を満足させるために5つの宮殿を建設しました。​5つの宮殿は宴の宮殿(食欲)、感覚の宮殿(嗅覚・触覚)、旋律の宮殿(聴覚)、満足の宮殿(視覚・美)、回想の宮殿(知的好奇心)ですが、欲望を際限なく満たそうとする行為が、精神的な空虚と最終的な地獄への転落を招く様子が描かれています。


 ​ヴァセックの母カラティスは息子を正しい道に戻すどころか、むしろ積極的に悪魔崇拝や生贄の儀式を促す邪悪な助言者として描かれます。家族愛が救いにならず、むしろ破滅を加速させるという皮肉な構造になっています。


​ 物語の結末であるエブリスの地下宮殿では、禁断の力を手に入れた代償として、ヴァセックたちは胸の中で心臓が永遠に燃え続けることになります。物理的には豪華な宮殿に大勢の罪人と共にいますが、各々が自分自身の苦痛にのみ囚われ、他者と交わることができない究極の孤独が描かれています。

物語世界

あらすじ

 アッバース朝の第9代カリフ、ヴァセックは、知的好奇心と五感の快楽を極めるために5つの宮殿を建てて暮らしていました。彼は非常に気性が激しく、彼が怒って睨みつけると、相手は恐怖のあまり死んでしまうほどでした。


​ ​ある日、見たこともないほど醜く不気味な異邦人が宮廷に現れます。彼は不思議な力を持つ宝物を持ち込みますが、ヴァセックの無礼な態度に怒り、牢に入れられても忽然と姿を消してしまいます。


 ヴァセックはこの男が持つ未知の力と地下世界の財宝に強く惹かれ、彼を追う決意をします。ヴァセックの母カラティスは、息子以上に邪悪で野心的な魔術師でした。彼女は息子をそそのかし、異邦人の主である悪魔の機嫌を取るために、50人の罪のない子供たちを生贄に捧げるという凄惨な儀式を行わせます。ここからヴァセックの道徳的な崩壊は止まらなくなります。


​ ​悪魔の住処であるイスタハルの廃墟を目指して旅に出たヴァセックは、途中でエミールの娘ヌロニハールに出会い、恋に落ちます。彼女もまた野心家であり、ヴァセックと共に永遠の権力を手に入れるため、婚約者を捨てて旅に同行します。


​ ついに二人は目的地である地下宮殿に到達します。そこには、堕天使エブリスが支配する、想像を絶するほど豪華絢爛な空間が広がっていました。当初、二人は望み通りの財宝と知識を目の前にして歓喜します。しかし、すぐに恐ろしい事実に気づきます。​そこにいた先人たちの罪人たちはみな、左手を胸に当て、無言で彷徨っていました。


 実は、この地下宮殿の住人となった者は、代償として心臓が永遠に炎に包まれ、焼き尽くされ続けるという罰を受ける運命だったのです。


 ​ヴァセックとヌロニハールもまた、胸に耐え難い熱さを感じ始め、永遠に続く苦痛と孤独の中で、自分たちの愚かさを呪いながら物語は幕を閉じます。

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