始めに
ロブグリエ『迷路のなかで』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロブグリエの作家性
ロブ=グリエはヌーヴォーロマンの旗手です。種々の作家に影響を受けています。
フローベールの形式主義、そして執拗なまでの客観的な描写は、ロブ=グリエの物自体を凝視するスタイルの原点です。カフカの描く出口のない迷宮や、理由のわからない不安な状況設定は、ロブ=グリエの『迷路の中で』などの作品に色濃く反映されています。
ルーセルの言語的遊戯にも、ロブ=グリエは強い関心を寄せていました。時間の断片化や、複数の視点が入り混じる複雑な構成については、フォークナーからの影響も指摘されます。
カミュは『異邦人』のリアリズム、サルトル『嘔吐』における物の実存などにも触発されました。
またロブ=グリエを語る上で外せないのが、映画の影響です。後に映画監督としても活動しますが、初期の小説からすでにカメラのレンズで捉えたような執拗な視覚描写が特徴でした。
語りの構造
この作品の最も際立った特徴は記述が現実を追い越していく点です。冒頭、部屋にいる「私」が外の雪や街の様子を語り始めますが、いつの間にかその記述の中に登場した兵士が主人公として動き出します。壁に掛かった絵画や、テーブルの上の箱といった物の描写から、新たなシーンが強引に立ち上がります。
物語る行為そのものが迷路を作っているという、メタフィクション的な構造が核になっています。
迷路の中では、時間軸がまっすぐ進みません。兵士が同じ角を曲がり、同じ子供に会い、同じ会話を繰り返します。しかし、細部が微妙に書き換えられていくため、読者は今、物語のどこにいるのかという感覚を失います。広い市街地を歩いているはずが、いつの間にか狭い部屋の中の話にすり替わっています。外の世界と室内の境界が曖昧になり、読者は閉じ込められた感覚を味わうことになります。
この小説には謎の包みを届けるというプロットがありますが、結局その中身や目的は重要視されません。兵士は自分が何をすべきか、どこへ行くべきか、次第にわからなくなっていきます。ただ雪が降り、ただ兵士が歩き、ただ物がそこにある、その徹底した即物性が、かえって戦争の虚無感や人間の孤独を浮き彫りにしています。
物語世界
あらすじ
物語は、外で雪が降っている、静かな部屋の中から始まります。語り手の「私」は、部屋にある家具や、壁にかかった『敗北』という題の絵画、テーブルの上の埃などを執拗に描写します。
やがて、その描写の境界が溶け出し、読者はいつの間にか絵の中の世界あるいは語り手が想起した世界である、雪の降る街角へと連れ出されます。
雪の降り積もる見知らぬ街を、一人の敗残兵が歩いています。彼は茶色の紙で包まれた謎の箱(包み)を抱えています。彼の任務は、戦死した戦友の遺品であるこの箱を、その戦友の家族、あるいは受取人に届けることです。
しかし、彼は街の構造も、待ち合わせの場所も、時間も正確には分かっていません。
兵士は街を彷徨いながら、同じようなカフェに入り、同じような少年や女性に出会います。どの角を曲がっても似たような景色が現れ、さっき通ったはずの場所に戻ってきてしまいます。
部屋の中のカーテンの模様が街の街灯の陰影になり、壁の絵に描かれた人物が実際に目の前の兵士として動き出すといった、室内と屋外の混濁が繰り返されます。
兵士は疲弊し、負傷によって次第に意識が混濁していきます。最終的に、兵士はどこかの家、あるいは病院のような場所に運び込まれ、そこで亡くなります。
すると物語は再び、冒頭の部屋の中へと戻ってきます。結局、兵士が運んでいた箱の中身は、手紙やナイフといったごくありふれた私物に過ぎなかったことが明かされます。




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