始めに
トルストイ『イワン=イリイチの死』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
リアリズムとリベラリズム(ツルゲーネフ、ディケンズ、スターン、ルソー、ゲーテ)
トルストイはディケンズ(『ディヴィッド=コッパーフィールド』)やツルゲーネフ(『猟人日記』)などからの影響が顕著で、そこから独自のリアリズム描写とリベラリズム的な発想を構築しました。またルソーなどの自由主義の影響も顕著で、そこから戦争経験を経て農奴制と戦争への批判的な姿勢が生まれました。
本作においては例えばディケンズ『デイヴィッド=コッパーフィールド』という教養小説(心の成長を描くジャンル)にも似て、主人公が死の運命を目の前にしたことで自己物語を洗練させ、孤独と絶望の中にいつつも自由を獲得するプロセスが描かれます。
またゲーテ『ファウスト』にも似た、老いと死の崇高さを目の前にした、人生の決算を描く内容です。
保守主義、プラグマティズム
代表作のトルストイ『戦争と平和』はナポレオン戦争を描いた戦記文学として知られています。トルストイ自身もクリミア戦争における従軍経験があり、それに由来する反戦思想と農奴制への批判的な発想が起こりました。カフカース地方での生活とクリミア戦争への従軍経験が民衆の偉大さを発見し、それを搾取する構造を持つ戦争という事象と、農奴制に抗いました。トルストイはルソーの自由主義思想の影響も大きく、それが反戦にもつながっていると思われます。
このような、民衆という存在と彼らの実践に立脚する保守主義、プラグマティックな思想がトルストイ文学のルーツです。
そして本作品は死の運命を目の前にしたことで、自己物語を相対化し、公共的な徳を獲得するプロセスが描かれます。
老い、終活、死の崇高さ
本作は老いや死を目の前にした、人生の決算が描かれる点において、私淑したシェイクスピア『リア王』やゲーテ『ファウスト』と共通します。
イワン=イリイチは高級官僚の次男で、自分も法務官僚、検事、裁判官として勤務し、上流階級に属していましたが、死を目前にして結局これまでの人生で自分が得られたものはほんのわずかだったと後悔し、自分を見つめなおしていきます。
影響など
ロシア文学に影響された黒澤明監督に『生きる』があります。これも役人の男が自分の死を目前に人生の決算を展開する内容です。
物語世界
あらすじ
イワン=イリイチは高級官僚の次男で、自分も法務官僚、検事、裁判官として勤務し、上流階級に属していました。
勉強ができ、法学部を卒業し、法曹界で出世をし、よいポストを得ます。器量よしの良家のお嬢さんと結婚し、一男一女に恵まれて、家庭生活も幸せでした。しかし、新しい任地で、マンションに引っ越して、カーテンの取り付け方を職人に見せようとして、脚立から足を踏みはずして床に倒れます。それが腎臓などの内臓に影響があったらしく、体調が悪くなり、死の床に伏します。
妻も、娘も、息子も忙しくて、病気のイワン=イリイッチは厄介な重荷でした。かれは自分の得てきたものに絶望します。イワンに最期まで寄り添ってくれたのは、下男のゲラーシムただ一人でした。
イワン=イリイッチは孤独の中で死にました。かれが人のためにした唯一のことは、自分が死んで他の者を重荷から解放することだけでした。かれが死んだとき、同僚たちの間ではイワン=イリイッチという人間は忘れられていました。
参考文献
・藤沼貴『トルストイの生涯』(第三文明社,2019)




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