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コードウェイナー=スミス『ノーストリリア』解説あらすじ

コードウェイナー=スミス
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始めに

 コードウェイナー=スミス『ノーストリリア』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

コードウェイナー=スミスの作家性

 スミスは幼少期を中国で過ごしました。彼の物語に見られる独特のリズムや、伝説を語り直すような文体は、中国の口承文芸や古典小説の影響を強く受けています。英雄たちの群像劇や、神話的なガジェットの扱いに​『水滸伝』や『西遊記』などの片鱗が見られます。滅びゆく高貴な一族や、緻密な人間関係の描写において、スミスはしばしば​『紅楼夢』への愛着を語っています。また心理学者であり、米軍の心理作戦の専門家でもありました。作品に頻出する下層人類のアイデンティティの葛藤や、深層心理に働きかける文体は、臨床心理学的な知見に裏打ちされています。


​ ​スミスの作品には、SFの枠を超えた普遍的な倫理観や宗教的情熱が流れています。​ダンテ『神曲』とは階層構造を持つ宇宙観や、罪と救済のテーマに影響が見られます。​ルイス・キャロルのナンセンスな言語遊びや、奇妙なクリーチャーの造形が影響を与えています。 晩年に帰依したキリスト教的価値観は、特に人類補完機構の慈悲や自己犠牲のテーマに色濃く反映されています。


​ ​彼はSFジャンルの内部から発生した作家というよりも、主流文学の教養をSFの舞台に持ち込んだ作家です。19世紀のリアリズム文学から、プルーストのような意識の流れの手法まで、幅広いヨーロッパ文学の素養が、彼の物語の複雑な構造を支えています。オーウェルは独裁や管理社会の描写において、スミスの描く人類補完機構の初期の冷徹な統治形態と比較されることがあります。

タイトルの意味

 ​ノーストリリア(古北オーストラリア)は、不老長寿の薬ストルーンを産出する銀河系で最も裕福な惑星ですが、その社会は極めて保守的で質素です。無限に近い寿命を手に入れた人類が、いかにして生の目的や情熱を失わずにいられるか。作中では、あえて厳しい人口抑制や選別を行うことで、生の緊張感を保とうとする社会の歪みが描かれています。


​ ​スミス作品の根幹にある下層人類(アンダーピープル)の問題が、本作でも重要な位置を占めています。動物を元に作られた奴隷階級である下層人類が、主人である人間よりも気高く、精神的に豊かな文化を育んでいるという逆説。主人公ロッド・マクバンと猫娘ク・メルとの交流を通じて、人間とは何かという定義が、生物学的な種ではなく、共感や愛といった精神的な資質へとシフトしていく過程が描かれます。

成長譚

 本作は、一人の少年が莫大な富と力を手にし、異世界を旅して成長する貴種流離譚の構造を持っています。中国の『西遊記』や聖書のヨセフの物語などのプロットが意識されており、未来史を語りながらも、その根底には人類が古来より繰り返してきた物語の型が流れています。ロッドが持つ他人の心は読めるが、自分の心を送れないという欠陥は、成熟過程における孤独と自己確立のメタファーとしても機能しています。


​ ​ロッドが銀河系を買い取るという途方もない行動に出るプロセスは、権力や富の本質に対する皮肉でもあります。宇宙で最も価値のあるはずのストルーンが、個人の幸福や世界の救済に直結しないという現実。究極の富を手に入れたロッドが行き着く先は、物理的な所有ではなく、精神的な解放でした。


​ ​人類補完機構が「人間の再発見(Rediscovery of Man)」と称して、あえて不便さや苦痛、多様な言語を社会に戻そうとする計画が背景にあります。完璧に管理され、苦痛のなくなった停滞した世界から、不確実で危険だが生の実感がある世界への回帰が、物語の大きなベクトルとなっています。

物語世界

あらすじ

 ​主人公のロッド・マクバン151世は、不老長寿の薬ストルーンを産出する超富裕惑星ノーストリリアの農場主の跡取りです。しかし、彼はテレパシー能力に欠陥があり、社会のルールによって不適格者として処刑される危機に瀕します。


 ​生き残るため、彼は先祖が遺した超高性能な旧式コンピュータを使い、銀河系の先物取引を操作。一夜にして全人類の歴史を足し合わせたよりも巨大な富を手に入れ、母なる地球(マンホーム)そのものを買い取ってしまいます。


​ ​暗殺の脅威から逃れるため、そして買い取った自分の所有物を見るため、ロッドは羊に擬態して地球へ向かいます。​そこで彼は、人類補完機構の重要人物ロード・ジェストコストや、猫から作られた下層人類の美少女ク・メルと出会います。


​ 地球を所有しているはずのロッドですが、巨大すぎる富は彼に実質的な自由を与えず、むしろ彼を陰謀の渦中へと追い込みます。彼は地球の地下に潜伏し、差別されながらも豊かな精神文化を持つ下層人類たちの結社と接触。そこで死や愛、そして真の人間性について学んでいきます。


​ ​物語のクライマックスで、ロッドは自身の莫大な富を、人類補完機構が進める人間の再発見(Rediscovery of Man)という計画の資金として提供することを決意します。地球という領土を返上し、単なる一人の人間としてノーストリリアへ帰還します。かつて彼を苦しめたテレパシーの欠陥は、最終的に彼独自の強みへと昇華され、彼は一族の主として成長を遂げます。

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