始めに
スタンダール『パルムの僧院』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロマン主義、演劇的背景(シェイクスピア、モリエール)
スタンダールはフランスのロマン主義を代表する作家です。作家としては演劇的な背景が強く、シェイクスピアやモリエールからの影響が顕著です。
本作はシェイクスピア『マクベス』の如き、青年の野心が描かれます。またモリエール『ドン・ジュアン』の如き色男の活躍を描きます。
とはいえ本作の主人公ファブリスは『赤と黒』のジュリアン=ソレルと比べるとそんなには野心家ではなく、ナポレオンに憧れる青年らしい野心はあるものの、基本的にファブリスは叔母ジーナとモスカ伯爵の野心的な謀略に受動的に従いつつも、それよりもクレリアという女性との恋を優先してしまいます。
ブルジョワ社会と青年の野心
本作は封建制度が崩壊したブルジョア社会における青年の野心と立身出世を描く作品です。その点ではフローベル『感情教育』やバルザック「谷間の百合」と重なります。
身分の差が緩和されたことで、『赤と黒』で貧しい生まれであるジュリアンにナポレオンのような英雄としての自己実現の機会が得られるようになりました。本作でもそうした時代を背景とするファブリスの英雄願望が見えます。
とはいえ本作の主人公で貴族の青年ファブリスは立身出世野望にたいしては受動的です。叔母ジーナとモスカ伯爵の計画で、ファブリスをナポリの神学校に通わせ、卒業後はパルマに来て宗教階級の高位の人物になり、最終的には大司教にさせようとします。
タイトルはなので登場人物の野心を象徴していますが、最終的にパルムの僧院で、ファブリスとクレリアの間で子供や当人らの不意の死という悲劇が起こってしまいます。
年上の女性との恋
本作はフローベール『感情教育』やバルザック「谷間の百合」と同じく、年上の女性との恋愛を描く作品です。
まだ社交の術を身に着けない若い青年が、中年の女性との関係を経て成長していきます。このあたりは『赤と黒』とも重なります。
本作では叔母ジーナが魔性の女性としてあらわれ、甥のファブリスを出世させる計画を立て、互いに惹かれ合っていきます。そんななか、ファブリスはクレリアという女性にも恋し、三角関係が形成されていきます。
物語世界
あらすじ
イタリアの若き貴族ファブリス・デル・ドンゴが主人公です。
ナポレオン戦争のなか、フランス軍がミラノに侵攻し、オーストリアと同盟を組んでいたロンバルディアの静かな地域をかき乱していきます。
1815年3月(百日天下)にナポレオンがフランスに戻ったときに、ファブリスはナポレオンに加わろうとします。17歳のファブリスは理想主義的で、世間知らずです。やがて彼はスパイとして投獄されてしまうものの、ファブリスに好意を抱く看守の妻の助けで脱出し、死んだフランス軽騎兵の軍服を着ます。フランス兵になったつもりの興奮から、ワーテルローの戦いの戦場へとさまよいます。
ファブリスはネイ元帥の護衛に短期間加わり、偶然父親と思われる男に遭遇し、彼と彼の連隊が逃げる途中でプロイセンの騎兵の一人を撃ち、足に重傷を負っただけで幸運にも生き残ります。
他方、叔母のジーナ (父の妹) はパルムの首相モスカ伯爵と出会い、友人になります。モスカ伯爵は、ジーナに、大使として何年も国外にいる裕福な老人サンセヴェリーナ公爵と結婚して、当時の社会規範に従って生活しながらモスカ伯爵と恋人関係を築こうと提案します。彼女は一応同意し、ジーナはパルムの貴族階級の中で新しい社会的地位を占めるようになります。
ジーナ(現在のサンセヴェリーナ公爵夫人)は、甥のファブリスがフランスから帰国して以来、温かい感情を抱いていました。ジーナとモスカ伯爵は、この若者を成功させる計画を立てようとします。モスカ伯爵の計画では、ファブリスをナポリの神学校に通わせ、卒業後はパルマに来て宗教階級の高位の人物になり、最終的には大司教にさせます。ファブリスはしぶしぶ同意し、ナポリに向けて出発します。
ナポリの神学校で数年間過ごし、その間に地元の女性たちと多くの関係を持った後、ファブリスはパル厶に戻ります。ファブリスはやがてジーナに対して恋愛感情を抱きます。ジーナも同じ気持ちでした。
ファブリスは若い女優と関係を持つようになるものの、その女優のマネージャーでかつ愛人の男が腹を立て、ファブリスを殺そうとします。その喧嘩で、ファブリスはその男を殺し、裁判所で正当な扱いを受けられないことを恐れてパルマからボローニャへ逃げます。密かにパルマに戻った後、ファブリスはまたボローニャに戻り、ソプラノ歌手ファウスタとの関係を築こうとします。
その間に、裁判所はファブリスに殺人罪の有罪判決を下します。ここでジーナは、大公のもとへ行き、ファブリスの命乞いをし、彼が処刑されるなら、パルマを去るといいます。大公はジーナがいなくなったら宮廷が退屈になり、ジーナが去ったときに自分について悪く言うのではないかと恐れます。大公はファブリスを解放する意思を伝え、釈放の誓約書に署名するようジーナに要求されるままになります。しかし結局、ファブリスはファルネーゼ塔に幽閉されます。
その後 9 か月間、ジーナはファブリスを解放しようとします。大公はジーナに圧力をかけるために、ファブリスが処刑されるという噂を広めます。一方、ファブリスは塔で司令官の娘であるクレリア=コンティに恋をして幸せに暮らしています。
幸せなファブリスは、ジーナの逃亡計画に抵抗します。しかし、ジーナはついにファブリスを説得し、クレリアにも協力させて3本の長いロープを密かに持ち込ませます。しかしクレリアは、計画には父親にアヘンチンキを与えることが含まれていたため罪悪感を抱いており、二度とファブリスに会わず、父親の言うことに従うと聖母マリアに約束します。
ジーナはパルマ大公を暗殺する計画を実行に移します。この計画はジーナに片思いしているフェランテが実行します。モスカ伯爵はパルマに留まり、王子が死ぬと、地元の革命家による反乱を鎮圧し、大公の息子を王位に就けます。新しい大公はジーナに恋をします。検察官の起訴状が反乱の背後にある真実に近づくと、ジーナは新しい大公にに書類を焼かせます。
モスカ伯爵は、なんとかファブリスを総司教に据えようとします。しかしファブリスは町の牢獄に逃れるかわりに、クレリアのそばにいるために自らファルネーゼの塔に戻ります。復讐のためにコンティ将軍はファブリスを毒殺しようとするものの、クレリアが防ぎます。
取り乱したジーナは大公に彼を移送するよう介入を求め、大公はジーナが自分を差し出すという条件で同意します。3 か月後、大公はジーナにプロポーズするが拒否されます。ジーナは二度と戻ってこず、モスカ伯爵と結婚します。クレリアは父が選んだ裕福な侯爵と結婚し、クレリアとファブリスは不満です。
やがてファブリスの罪が無罪放免になり、ファブリスはカトリック教会の総司祭としての職務を引き受け、彼の説教は町中の話題となります。ファブリスによれば、彼が説教をする唯一の理由は、クレリアが教会に来て、会って話をしてくれることを期待しているからでした。クレリアは毎晩彼と会うことに同意したものの、周囲に隠していました。
1年後、彼女はファブリスの子供を産みます。やがてその子の病気と死を偽装し、ファブリスとクレリアが毎日会いに行ける近くの大きな家に密かにその子を住まわせることにします。数か月後、子供は本当に亡くなり、クレリアもその数か月後に亡くなります。
クレリアの死後、ファブリスはパルマのカルトゥジオ会修道院に 隠棲し、1年も経たないうちに亡くなります。ファブリスをずっと愛していたモスカ伯爵夫人ジーナも、そのすぐ後に亡くなります。
参考文献
・鈴木 昭一郎 (著)『スタンダール 』



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