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ジャンニ・ロダーリ『猫とともに去りぬ』解説あらすじ

ジャンニ・ロダーリ
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始めに

 ジャンニ・ロダーリ『猫とともに去りぬ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロダーリの作家性

 ロダーリが提唱した最も有名な概念の一つ空想の二項対立のヒントとなったのが、ドイツ・ロマン派の詩人ノヴァーリスです。ノヴァーリスの物語は、いわば思考のアンサンブルであるという考えや、事物の意外な組み合わせが新しい意味を生むという思想を、ロダーリは教育的な創作技法へと昇華させました。


​ ​『不思議の国のアリス』の作者であるキャロルからは、ナンセンスの効用と、言語そのものを遊びの対象とする姿勢を強く受け継いでいます。言葉の規則をあえて壊すことで、既存の価値観や権威を相対化するキャロルの手法は、ロダーリの間違いの詩学にも通じています。


​ ​ロダーリは、シュルレアリスムが用いた自動筆記やデペイズマンといった技法を、子供たちの想像力を刺激するためのツールとして再定義しました。日常的な事物を本来の文脈から切り離し、全く別の役割を与える手法は、ブルトンやエルンストらの影響を色濃く反映しています。


​ ​ロシアの民俗学者であるプロップの『昔話の形態学』は、ロダーリの創作理論に決定的な影響を与えました。ロダーリはプロップが抽出した昔話の機能を、物語を解体し再構築するためのプロップのカードとして導入しました。これにより、物語を構造的に捉え、誰でも創作ができる仕組みを整えました。


​ ​イタリアの思想家グラムシの文化的ヘゲモニーや有機的知性人という概念は、ロダーリの教育的・政治的バックボーンとなっています。ロダーリにとって、子供たちに想像力を与えることは、単なる遊びではなく、彼らが将来批判的な思考を持つ市民として社会を刷新するための解放の手段でした。

社会の秩序批判

 ​作品の核心にあるのは人間が人間らしく生きられない社会構造への異議申し立てです。主人公のビジネスマンが、時計の針や仕事のノルマ、都会の喧騒に追われる生活を捨てて猫になることを選ぶ姿は、マルクス主義的な文脈における労働の疎外からの脱却を象徴しています。猫になることは退行ではなく、システムに縛られた自我を捨て、本来の自由を取り戻すための積極的な逃走として描かれています。


​ ​ロダーリは、人間中心主義の視点を捨て、猫の視点から日常を描き直します。 猫の目を通すことで、人間が当たり前だと思っている都市の境界線、所有権、社会的なヒエラルキーがいかに滑稽で不自然なものかを浮き彫りにします。 慣れ親しんだ街並みが、猫の視点に切り替わった瞬間に未知のジャングルへと変貌する様子は、ロダーリが影響を受けた異化の技法そのものです。


​ ​マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』をパロディ化したタイトルからも分かる通り、本作にはロダーリ流のユーモアと皮肉が込められています。壮大な歴史絵巻である本家に対し、ロダーリが描くのは猫と一緒にどこかへ行ってしまうという極めて個人的で、一見すると無意味な行動です。しかし、この生産性や効率を重視する社会から、ふいっと逸脱してしまうことこそが、ロダーリが考える最大の抵抗であり、人間の自由の証明でもありました。

物語世界

あらすじ

 主人公は、イタリア・ローマに住む平凡な会社員、アントニオさんです。彼は毎日、時計の針に追われ、満員バスに揺られ、窮屈な背広を着て仕事へ向かうという、絵に描いたような単調で息苦しい都会生活を送っていました。


​ ​ある日のこと、アントニオさんは通勤途中に一匹の猫と目が合います。その猫のあまりに自由で堂々とした様子に惹きつけられた彼は、吸い込まれるように仕事へ行くのをやめ、その猫の後を追いかけ始めます。


​ ​猫の後をついていくうちに、アントニオさんは、普段見慣れているはずのローマの街の中に、人間には見えないもう一つの世界があることに気づきます。それは、古代の遺跡(ラルゴ・ディ・トーレ・アルゼンティーナなど)を中心とした、猫たちの自由な王国でした。そこでは、人間社会のルールや時間は一切通用しません。


​ ​アントニオさんは、自分を縛り付けていたネクタイや背広、そして会社員という肩書きが、いかに重く無意味なものだったかを痛感します。彼は猫たちの仲間に入りたいと切望するようになります。次第に彼の身体にも変化が起き始めます。思考は鋭くなり、身のこなしは軽やかになり、ついには言葉ではなく猫の鳴き声で世界を理解し始めます。


​ ​物語の結末で、アントニオさんはついに人間としての生活を完全に捨て去ります。彼は探しに来た家族や社会のしがらみをすり抜け、しなやかな猫の一匹となって、夜のローマの遺跡へと消えていきました。

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