始めに
ブラッドベリ「見えざる棘」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ブラッドベリの作家性
エドガー=ライス=バローズ 『火星のプリンセス』などの「火星シリーズ」は、ブラッドベリの火星への憧憬の原点です。ジュール=ヴェルヌとH.G.ウェルズというSFの父と呼ばれる二人からは、科学的ガジェットよりも別の世界へ行くという物語の構造を学びました。リー=ブラケットはスペース・オペラの女王と呼ばれ、ブラッドベリの初期のメンターでした。彼女のハードボイルドかつ詩的な文体は、彼の文体形成に影響を与えています。
ブラッドベリは10代の頃にポーの全集を読み込みました。ゴシックな恐怖や象徴主義的な表現は、『火星年代記』の一編「アッシャーII」に直接的なオマージュとして現れています。
ブラッドベリがSF作家でありながら詩人と称される理由は、純文学系の作家たちからの影響にあります。トマス=ウルフはブラッドベリが最も愛した作家の一人です。ウルフの饒舌で情熱的な、奔流のような散文スタイルは、ブラッドベリの独特なリズムを持つ文体のモデルとなりました。スタインベックの描く市井の人々へのまなざしや土地への執着は、『たんぽぽのお酒』などの日常を描く作品に色濃く反映されています。ヘミングウェイの無駄を削ぎ落とした簡潔な描写も研究対象でした。シェイクスピア、ロバート・フロストからの影響もあります。
愛の腐食
タイトルの通り、テーマはほんの少しの不機嫌や無作法が、長い年月をかけて取り返しのつかない憎しみへと変貌するという点です。劇的な裏切りや大きな事件ではなく、日々の小さな衝突や冷淡な態度が塵も積もれば式に積み重なり、最終的には殺意にまで発展します。ブラッドベリは、日常の何気ない悪意が持つ腐食の力を強調しています。
未来の自分からお前は将来、妻を殺すことになると告げられる設定は、運命が決定しているかのような恐怖を与えます。未来の自分自身と出会うという構成は、現在の自分がなり得たかもしれない最悪の姿と対峙することを意味します。未来の自分は過去の不満を蓄積し、愛を失った成れの果て。現在の自分はまだ愛があり、修正の余地を残している状態です。過去に戻って警告すれば未来は変えられるというタイムトラベルの定番テーマを使いながら、ラストの一言がもう始まっていると示唆することで、運命からは逃げられないかもしれないという暗い問いを残します。
物語世界
あらすじ
1979年のある夜、29歳間近のジョナサン=ヒューズが電車に乗っていると、奇妙な新聞を読む老人に気づく。その新聞の日付は1999年5月2日で20年後のものだった。 さらに衝撃的なことに、一面には「妻アリシアを殺害した容疑者ジョナサン=ヒューズ」の記事が。老人は実は20年後の自分自身だったのです。
老人(未来の自分)は過去に戻ってきた理由を打ち明けます。妻への愛が徐々に憎しみへと変わり、最終的に殺してしまった。その運命を変えるために、若い自分に警告しに来たというのです。
二人は自宅に戻り、妻のアリシア(アリス)と夕食を共にします。老いた自分はアリシアをじっと見つめ、どこに破綻の種があるのかを探そうとするが、何も見つけられません。最後に老人は若い自分に一丁の拳銃を手渡して去っていきます。
最後にアリシアが「ドアを閉めて」と声をかけますが、その声に、ほんの少しの不機嫌さ(petulance)が滲んでいました。若いジョナサンはその声に微妙なものを感じ、少しよろめきます。



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