始めに
ユゴー『エルナニ』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ロマン主義の作家として
ユゴーはロマン主義を代表する作家です。
特に影響を受けたのがフランソワルネ=ド=シャトーブリアンで、個人の自我やキリスト教の美を描く、そのロマン主義を継承しました。他にウォルター=スコットの歴史劇、ジャンジャック=ルソーの個人主義や主体性の発露といったロマン主義、ヴォルテールの古典主義、ラマルティーヌのロマン主義より影響が大きいです。
また、代表作『エルナニ』も、三一致の法則を守らないなど、ロマン主義のルーツであるシェイクスピアからも影響が顕著です。
形式的実験
テーマは、文学における自由です。当時の演劇界を支配していた三一致の法則(時間・場所・筋の統一)や高貴な言葉遣いという厳しい縛りを、ユゴーはあえて無視しました。悲劇の中に喜劇的な要素を、崇高な愛の中に泥臭い復讐を混ぜることで、ありのままの人間を描こうとしました。これが後にロマン主義の決定打となりました。
主人公エルナニは、単なるヒーローではなく、自分では制御できない大きな力に流される存在」として描かれています。彼は父親を王に殺されたという過去に縛られ、復讐心という呪いを背負っています。 エルナニ自身、自分のことを目に見えない力に突き動かされる力と表現しており、幸福を掴もうとするたびに影が差し込む、ロマン主義文学特有のダークヒーロー像を確立しました。
名誉
この物語を終わらせる角笛(コル)の約束は、当時のスペイン的な名誉の規範を象徴しています。ユゴーはあえて愛よりも個人の誇りを優先するという極端な設定を置くことで、人間の精神の崇高さと、その裏にある残酷さを際立たせました。
第4幕、シャルルマーニュ(カール大帝)の墓前でのドン=カルロスの独白は、作品の思想的クライマックスです。彼は皇帝の地位に就く際、ドニャ=ソルへの執着やエルナニへの敵意を捨て、寛大な支配者へと脱皮します。これは偉大な個人が歴史を作るというユゴーの歴史観が投影されています。
物語世界
あらすじ
ドニャ・ソルを巡る3人の男たちの愛と、残酷なまでの名誉の物語です。無法者の首領エルナニは、貴族の娘ドニャ=ソルと愛し合っています。しかし、彼女には婚約者である老貴族シルヴァ公爵がおり、さらにスペイン王ドン・カルロスまでもが彼女に横恋慕して寝室に忍び込むという、修羅場から物語は始まります。
ある時、王に追われたエルナニは、敵であるはずのシルヴァ公爵の城に逃げ込みます。公爵は客人を守るという騎士道精神からエルナニを隠しますが、王は代わりにドニャ=ソルを連れ去ってしまいます。
怒ったエルナニは公爵に誓います。今は共に王へ復讐しましょう、もしあなたが私の命を欲しくなったら、この角笛を鳴らしてください、その音を聞けば、私はいつでも命を差し出します、と。
やがてドン=カルロス王が神聖ローマ皇帝(カール5世)に選ばれます。皇帝としての自覚に目覚めた彼は、自分を暗殺しようとしたエルナニたちを許し、ドニャ=ソルとの結婚まで認めます。エルナニも実は元貴族であったことが明かされ、ハッピーエンドに向かうかに見えました。
エルナニとドニャ=ソルの結婚式。二人が幸せに浸っている夜、静寂を破ってあの角笛の音が響き渡ります。復讐に燃え、嫉妬に狂ったシルヴァ公爵が、約束通りエルナニに死を求めてやってきたのです。名誉を重んじるエルナニは、ドニャ=ソルの必死の命乞いも振り切り、約束通り毒を飲みます。それを追ってドニャ=ソルも毒を仰ぎ、二人は重なり合って息絶えます。その凄惨な光景を見たシルヴァ公爵も、自ら命を絶つのでした。



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