始めに
アンジェラ・カーター『ワイズ・チルドレン』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
カーターの作家性
ポーからはゴシックホラーへの執着や、不気味な雰囲気の演出に強い影響を受けました。スウィフトの風刺精神と、想像力豊かな旅、ピカレスクから刺激を受けました。ディケンズのロンドンの街並みの描写や、キャラクター描写も継承します。
代表作『血染めの部屋』などに象徴されるように、童話の脱神話化は代名詞です。カーターはペローの童話を英訳しており、残酷さとエロティシズムが共存する彼の物語をフェミニズムの視点から書き直しました。グリム兄弟、ホフマンからも影響が見えます。
1960年代末から70年代初頭にかけての日本滞在は、彼女の作風を決定づける転換点となりました。谷崎潤一郎、川端などからも刺激されました。
ほかにもサド、ジューナ=バーンズから影響されました。
文学以外にも、視覚的なイメージから多大な影響を受けています。ブニュエルやデュシャン、マックス=エルンストらの現実を異化する手法を文学に応用しました。ジャンリュック=ゴダールやフェリーニのモダニズムからも刺激があります。
血統への風刺
この小説の最も中心的な問いは誰が誰の子であるかと、それに付随する社会的地位についてです。偉大な演劇一家であるハザード家(正当な血統)と、その私生児として日陰を歩んできた双子の主人公ドラとノラのチャンス家(不当な血統)の対比が描かれます。血筋という虚構よりも、実際に誰が誰を愛し、共に生きたかという絆のほうに真実があると描きます。
作品全体がシェイクスピアへのオマージュに満ちており、パフォーマンスとしての人生がテーマとなっています。主人公たちはミュージックホールの踊り子であり、彼女たちの父メルキオールは高名なシェイクスピア俳優です。
登場人物たちは常に何かを演じており、虚構と現実、舞台の上と下との境界線が曖昧になっています。これは自己は固定されたものではなく、演じることで作られるというカーター流のアイデンティティ論でもあります。
カーターはこの作品で、文化的な上下関係を解体しています。シェイクスピアなどの高尚文化とミュージックホールやヴォードヴィルなどの低俗大衆文化を等価に扱い、混ぜ合わせます。偉大な芸術も安っぽいダンスも、同じように人間を活気づけるエンターテインメントであるという、民主的で陽気な芸術観が示されています。
シェイクスピア的ポリフォニー
この作品には多くのシェイクスピア作品(『テンペスト』『真夏の夜の夢』など)のパロディが含まれています。
物語は75歳の誕生日を迎えた双子の視点で語られますが、そこには悲哀ではなく、圧倒的なエネルギーがあります。彼女たちは過去を振り返りながらも、今この瞬間の食べ物、酒、セックス、そしてダンスを楽しみます。
「賢い子供は自分の父親を知っている」という格言を逆手に取り、出自に縛られず、笑い飛ばして生き抜く女性たちのたくましさが描かれています。この小説の根底には、人生の不条理や残酷さを認めつつも、それを笑い飛ばして肯定するカーニバル的な精神が流れています。
物語世界
あらすじ
舞台はロンドン。物語は、かつてミュージックホールの踊り子として活躍した双子の姉妹、ドラとノラ=チャンスの75歳の誕生日から始まります。2月11日。南ロンドンのブリクストンにある古びた家で、ドラとノラは自分たちの75歳の誕生日を祝おうとしています。しかしこの日は、彼女たちの実の父親である偉大なシェイクスピア俳優、サー=メルキオール=ハザードの100歳の誕生日でもありました。これまで父メルキオールから一度も娘として認知されてこなかった二人のもとに、父の誕生祝賀会への招待状が届くところから物語が動き出します。
語り手であるドラは、自分たちの数奇な身の上を回想し始めます。ハザード家は 伝統ある演劇一家で、高潔で、シェイクスピアを愛する「正統」な血筋です。チャンス家として、ハザード家の私生児として、ミュージックホールのショービジネスで生きてきたドラとノラ。物語は、彼女たちの出生の秘密、若き日の華やかなステージ、ハリウッドでの映画撮影、そして複雑に絡み合う親族たちのスキャンダルを、ドラのユーモアたっぷりの語りで展開します。
父メルキオールの屋敷で開催される100歳の誕生パーティーが開かれます。そこには、認知されていない親族、かつての愛人、絶縁していた兄弟たちが一堂に会します。ここで、長年自分たちを娘と認めなかった父メルキオールが、ついに彼女たちを自分の娘として受け入れます。
パーティーの最中、ちょっとした不注意と積年の恨みや混乱から屋敷で火災が発生します。
その後、ドーラとノラは行方不明だった親戚のティファニーが生んでいた、双子の赤ん坊を託されます。75歳にして、彼女たちは再び新しい双子の母として、新しい人生をスタートさせることになります。
物語は、夜明けのロンドンの街を、老いた姉妹が赤ん坊を抱え、ステップを踏みながら帰っていくシーンで終わります。



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