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ブレット・イーストン・エリス『アメリカン=サイコ』解説あらすじ

ブレット・イーストン・エリス
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始めに

ブレット・イーストン・エリス『アメリカン=サイコ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

エリスの作家性

 ジョアン=ディディオンは​エリスに最も大きな影響を与えた作家の一人です。『プレイ・イット・アズ・イット・レイズ』に見られる、L.A.の乾いた虚無感、感情を排した文体、断片的な叙述は、エリスのデビュー作『レス・ザン・ゼロ』のプロトタイプです。


​ ​ヘミングウェイの氷山理論や、短い文章を重ねるミニマリズムは、エリスの文体の基礎となっています。また​エリスは『グレート・ギャツビー』を熱狂的に愛読していました。


​ ​ポストモダン文学の巨匠であるデリーロからは、消費文化、メディア、テクノロジーが人間に与える不気味な影響を捉える視点を学んでいます。ほかにダーティ・リアリズムの旗手であるカーヴァーの影響があります。

資本主義の疎外

 ​主人公パトリック=ベイトマンとその仲間たちは、着ているスーツのブランド、通っているジム、予約の取れないレストランといった所有物や記号だけで自分を定義しています。全員が同じような髪型をし、同じブランドの服を着ているため、作中では頻繁に人物の取り違えが起こります。
 中身が空っぽだからこそ、外側を高級品で固めるしかないという悲哀が描かれています。


​ この世界では何をしたかよりもどう見えるかが重要視されます。ベイトマンが人を殺す際も、被害者の人間性より、その部屋のインテリアやオーディオ機器のスペックに意識が向いています。

 ​ベイトマンが凄惨な殺人を繰り返すのは、彼が悪魔だからというより、あまりにも退屈で空虚な日常の中で、生の実感を得るための唯一の手段として暴力がエスカレートしていくからです。彼がどれだけ異常な行動をとっても、周りの人間は自分のことにしか興味がないため、誰も彼の正体に気づきません。この徹底的な無関心が描かれます。

語りの構造

 物語はナルシストで虚栄心の強いマンハッタンの投資銀行家パトリック=ベイトマンの一人称で語られます。ベイトマンは連続殺人犯という二重生活を送っています。

 ​しかし物語の終盤にかけて、読者はこれらは本当に起きたことなのか、それともベイトマンの病的な妄想なのかという問いを突きつけられます。もし彼が本当に殺人を犯していたとしても、エリート層のコミュニティがそれを見なかったことにすることで、彼は裁かれません。この誰も見ていない、誰も気にしないという絶望が描かれます。

物語世界

あらすじ

 ​舞台は1980年代後半のニューヨーク、ウォール街。26歳のパトリック=ベイトマンは、投資銀行の副社長を務めるハンサムなエリート(ヤッピー)です。​彼の生活は徹底的なルーティンに支配されています。​念入りなスキンケアと筋トレ、​高級ブランドのスーツ、予約が取れないことがステータスの一流レストランでのディナー。常に同僚たちと「誰の名刺が一番クールか」「誰の時計が最高級か」を競い合う日々です。


​ ​表向きは洗練された紳士ですが、内面では凄まじい怒りと虚無感が渦巻いています。彼は次第に、その衝動を抑えきれなくなり、夜な夜な残虐な殺人を繰り返すようになります。


 ​最初は路上生活者や犬を標的にしていましたが、次第に標的は自分より良い予約を取った同僚や、街で拾った女性たちへと移り、その殺害方法は目を覆うほど凄惨かつ猟奇的なものへとエスカレートしていきます。


 ​殺人の合間に、彼はポップミュージック、ヒューイ=ルイス&ザ=ニュースやフィル=コリンズなどについて、まるで音楽評論家のような冷徹な分析を長々と披露します。


​ ​ライバルの一人、ポール=アレンを殺害したことで、ベイトマンはついに捕まるのではないかという予感に怯え始めます。しかし、奇妙なことが起こります。


 ​彼が死体を隠したはずの部屋は、次に行くと何事もなかったかのように綺麗に改装され、売りに出されています。​探偵が調査に来ますが、ベイトマンを疑うどころか、彼を有能な若者としてしか見ていません。​彼がどれだけ大胆に犯行を重ねても、誰も彼を特定できません。なぜなら、周りの人々もまた、記号としてしか人間を見ておらず、ベイトマンと他の似たようなエリートの区別がついていないからです。

 ​ついに精神が限界に達したベイトマンは、弁護士の留守番電話に自分が今まで犯したすべての罪を告白します。​しかし後日、その弁護士に会うと、彼は告白をジョークだと笑い飛ばします。さらにはポール=アレンなら数日前にロンドンで会ったぞと告げます。


 ​自分が殺したと思っていた人間が生きているのか、自分の犯行はすべて妄想だったのか、あるいは、この社会そのものが彼の罪を隠蔽して存在しなかったことにしているのか。結局、彼は何の救いも、何の罰も得られないまま、再び予約の取れないレストランへと消えていきます。

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