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春樹『アフターダーク』解説あらすじ

村上春樹
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始めに

春樹『アフターダーク』解説あらすじを書いていきます。

 

背景知識、語りの構造

語りの実験

 全18章において、23時56分から6時52分まで、異質物語世界の語り手と共に、「私たち」という等質物語世界の語り手の視点から複数の場面を捉えつつ物語は進みます。

 この「私たち」という語り手は、肉体を離れ、実体をあとに残し、質量を持たない存在で、自由に空間を飛び回るものの、介入することはないという特異なデザインになっています。物語世界内の登場人物でありつつ、物語にはほとんど影響しない存在です。

 少しナボコフ『透明な対象』と近い語りです。

 また私たちという一人称複数の語り手は松浦『最愛の子ども』においても用いられています。

一人称視点のリアリズムを生かした心理劇

 本作品とコンセプトとして重なるのは漱石『こころ』やロブグリエ『嫉妬』、谷崎潤一郎『』『痴人の愛』、芥川『藪の中』、フォークナー『響きと怒り』、川端『眠れる美女』、リンチ監督『ブルーベルベット』などと言えます。

 集合行為における一部のアクターを語りの主体にしたり、または一部のアクターにしか焦点化をしないために、読者も登場人物と同様、作中の事実に不確かな認識しか得られるところがなく、限定的なリソースの中で解釈をはかっていくことしかできません。

 特にリンチ監督『ブルーベルベット』とは印象として近く、浅井エリの監禁理由、顔のない男の正体など、多くの部分が解釈に委ねられています。

眠れる美女の浅井エリ

 本作は『眠れる美女』である、浅井エリが登場します。彼女はラブホテルのアルファヴィルに監禁されています。彼女を監視するのが顔のない男というキャラクターです。なぜなのかはわかりませんが、顔のない男はエリを監禁して監視しています。

 また、妹マリの話によると、エリは眠ったきり目を覚さない状況であるらしく、そのことから、監禁されているエリは、エリの本体ではなくてその半身ではないかと解釈できます。

 その半身が、顔のない男に捕らえられています。

ゴダール監督『アルファヴィル』

 本作はゴダール監督『アルファヴィル』の影響が顕著です。この作品は春樹がオマージュを捧げた『1984』の影響が顕著なディストピアものです。

 『アルファヴィル』では、一九八四年のある晩、探偵レミー・コーションが、星雲都市アルファヴィルに到着します。この都市には新聞も雑誌もなく、人々はアルファー60という電子指令機の命令で動いています。やがて、探偵はアルファビルでは思考が符号化され、アルファー60は完全な技術社会を目指していると知ります。論理を尊重せず感情を抱いた人間たちは殺されます。そんな全体主義の恐怖を描くSFです。

 本作におけるアルファヴィルとはなんでしょうか。

大衆消費社会の悪の象徴としての顔のない男とアルファヴィル

 個人的な解釈として、このアルファヴィルと顔のない男は、『羊をめぐる冒険』の羊に代表される、大衆消費社会におけるアレント的な悪の象徴ではないかと思います。

 『羊をめぐる冒険』の羊は大衆社会の悪の権化のような存在で、人の無意識に取り込み支配する悪霊です。全体的に、羊の群れるイメージからこれをデザインしている印象です。これはフロイトのタナトス概念、アレントの保守主義からの影響が見えます。

 つまるところ、自分の顔を隠して他者を快楽のために都合のいいものとして観察しようとする顔のない男の行為は、大衆の悪そのものです。

 また同様に、「私たち」という顔のない語り手は読者の象徴として解釈できます。つまるところ本作は某有名ミステリみたいに「読者=犯人」みたいなデザインになっていて、顔のない大衆であるところの読者の象徴として「私たち」を設定し、これは悪ではないものの、顔のない男と性質としてはニアミスしかねない加害性を秘めています。

 自身は安全なところからただ眼差しを向けるだけで見られることのない私たちは、読者の大衆としての加害性に批判的に言及します。

物語世界

あらすじ

 時刻は真夜中近く。深夜の「デニーズ」では様々な人間がいます。ある若い女性の一人客が熱心に本を読んでいます。大きな黒い楽器ケースを肩にかけた若い男(高橋)が中に入ってきて、彼女に君は浅井エリの妹じゃないか、と話しかけます。君の名前はユリだった、と男が言うと、 彼女はマリだと訂正します。

 部屋の中は暗いものの「私たち」の目は暗さに慣れていきます。ベッドにマリの姉のエリが眠っています。エリの部屋の、コンセントが抜かれたテレビに、部屋の真ん中の椅子に座る男性が映っています。

 マリに話しかけた男が立ち去ると、金髪の大柄な女が店内に入ってきます。女はマリの向かいのシートに腰を下ろし、話しかけます。女はカオルといい、ラブホテル「アルファヴィル」のマネージャーだと言います。カオルはマリに中国語の通訳を頼みます。

「アルファヴィル」の部屋では、客に殴られ身ぐるみを剥がされた中国人の娼婦が声を出さずに泣いています。娼婦の名は郭冬莉で、マリと同じ19歳です。カオルは従業員のコオロギとコムギとともに、防犯カメラのDVDを調べ、殴った男(白川)の映像を見つけ出します。

「アルファヴィル」の防犯カメラに映っていた殴った男の白川は、同僚が帰ったあとのオフィスでコンピュータの画面に向かって仕事をしています。

 すかいらーくでは、マリが読書をしています。そこに高橋が訪れます。やがて2人は外に出て話しながら通りを歩きます。

 テレビの中に映る浅井エリが、目を覚ましました。しかし状況を飲み込めていません。

 マリと高橋は公園のベンチにいます。マリはエリは目を覚まさないと言います。

 白川は、仕事を終えると準備を済ませて、タクシーで家へ向かいます。

 一方マリと高橋は、もう一度あのラブホテル「アルファヴィル」に向かいます。アルファヴィルの前で、マリと高橋は別れ、マリはアルファヴィルに入ります。エリは、テレビの画面の向こう側からこちら側に何かを伝えようとします。

 また、マリはコオロギと一緒に「深海の生物たち」という番組を観ています。コオロギは何かから逃げ続けて全国のラブホテルで働いているようでした。マリは、エリのことを話します。2ヶ月眠り続け、しかし生きてはいます。医者にも原因は不明です。マリはコオロギと話し終わったあと、安心します。

 そして、練習が終わった高橋はマリに電話をします。2人はデートをする約束をします。家に帰り、マリはエリのベッドに潜り込んで眠りました。

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