PR

徳田秋声『黴』解説あらすじ

徳田秋声
記事内に広告が含まれています。

始めに

 徳田秋声『黴』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

元禄文学の影響と露伴

 徳田秋声は研友社の作家ですが、むしろ幸田露伴の影響が顕著です。

 近代になって、明治二十年代ごろ(1887~96)や1900年代前後に、日本の江戸文芸である元禄文学が着目されていきます。これはナショナリズムの高まりと連動していて、井原西鶴や近松門左衛門のリアリズムが再度着目され、西洋文学とすりあわされるなかで再解釈されていきました。

 最初の元禄文学ルネサンスには一葉(『たけくらべ』)と紅葉(『多情多恨』『金色夜叉』)、露伴(『五重塔』)、第二の波では自然主義の作家が元禄文学を参照にして、リアリズムを展開していきました。露伴もこの元禄文学再評価の流れに影響されて、元禄文学のリアリズムから影響されました。特に西鶴を好んで、その文学的師匠とした露伴でした。

 また露伴は戯作文学の影響が顕著です。戯作は、洒落本、滑稽本、談義本、人情本、読本、草双紙などがあり、さらに草双紙は赤本、黒本、青本、黄表紙、合巻に分けられます。傾向としては露伴は読本という中国の伝奇的な幻想文学(志怪小説、伝奇小説、白話小説など)などを水源とする文学ジャンルの影響が大きいですが、人情本的な世界も得意です。

 秋声もそのようなモードを継承します。

自然主義?

 秋声は自然主義に括られますが、微妙なポジションです。

 日本の自然主義を代表するのが独歩(「竹の木戸」『武蔵野』)、花袋(『蒲団』『一兵卒の銃殺』)、藤村ですが、自然主義はフランスのゾラ(『居酒屋』『ナナ』)に始まります。

 ゾラ(『居酒屋』『ナナ』)はフランスの自然主義を代表する作家です。ゾラが自然主義の理論書たる『実験小説論』で構想したのはベルナールの医学、行動を決定する要素の科学、テーヌの歴史学を参照にしつつ、人間の社会的実践の構造的理解を試み、それを美学的再現のレベルで反映しようとしたものでした。

 ダーウィン『進化論』やベルナール『実験医学序説』など、行動を決定する要因についての医学、遺伝学、社会学的知見を背景に、人間の社会的実践の美学的再現を、家族や遺伝的要因に焦点を当てて試みようとするコンセプトから、ルーゴン・マッカール叢書は展開されていきます。

 またゾラはフランスの暗い現実に焦点を当てることでそれを改善しようとしたのでした。ドレフュス事件における社会派としての活躍に見られるように、人類の未来のために創作や政治活動を通じて現実社会にコミットしました。

 ただ、秋声は自然主義の作家に括られるものの、このようなジャンルに強くコミットしようとしたわけでもなく、もっぱら下層の女性の年代記や描写を展開したとか写実的なタッチとかゾラなどとの様式的な類似性でそれとして語られるのであって、それに強く根ざしたわけではありません。

 実際、創作は近世文学ベースで写実主義もリファリンスしているような感じです。

物語世界

あらすじ

 笹村の炊事など、世話はいっさい雇婆さんがしてくれるものの、婆さんが弟の重病で田舎に行ったために、かわりに娘のお銀がやって来ます。かゆいところに手の届く若い女の世話に助けられます。

 婆さんが戻ってくるまでに二人の関係はもつれ、まもなくお銀は妊娠します。俳友Bが今のうちに別れろと忠告するものの、医者に診せるともう4か月です。笹村はM先生の大仕事を引き受けて牛込の下宿にひとりで移るものの、家のことが気になり仕事が手につきません。

 お銀は男児を産みます。笹村が里子にやろうとするものの、お銀は手放しません。別れ話は友人がなかに立つものの、結局立ち消えます。

 下宿は引き払います。お銀の父が上京してきて、まもなく籍が送られます。ただ芸術上の努力だけにすがってきた笹村は、お銀の将来のことなど頭にありません。お銀とは気性もあわないうえに、商売屋にいたことのあるお銀の態度もよくないし、昔の男のことも気になります。

 第二子が産まれるます。笹村はいらだたしい日日を送ります。長男が大病をしたときは二人はすべてを忘れて心配するものの、笹村は落ち着きません。

 或る日、笹村はお銀と言い争い、家を飛び出すのでした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました