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横光利一『日輪』解説あらすじ

横光利一
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始めに

 横光利一『日輪』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

モダニズムと新感覚派

 横光利一は川端(『眠れる美女』『みづうみ』)と並んで、文藝時代の新感覚派を代表するモダニズム作家です。

 モダニズムとはジョイス(『ユリシーズ』)やプルースト(『失われた時を求めて』)、フォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)に代表される前衛的な文学運動で、意識の流れなどを特徴とします。また、同時期の前衛文学にシュルレアリスムがあって、そうした潮流と連動しつつ展開されていきました。

 川端もモダニズム、シュルレアリスムの影響が大きく、『眠れる美女』『みづうみ』などを展開しました。シュルレアリスムはまた、映画とも連動して展開されていったのですが、川端康成や横光利一も衣笠貞之助監督の『狂った一頁』に協力しています。

歴史劇

 本作はフロベール『サランボー』に影響されたと思しき歴史劇です。2つの勢力の間で引き裂かれるメロドラマという点が共通します。

 主人公は卑弥呼で、古代日本の不弥(うみ)の国の姫だった卑弥呼は、同じ国の卑狗の大兄(ひこのおおえ)との結婚を控えていました。

 しかし卑狗の大兄と卑弥呼の婚礼がおこなわれた夜、長羅の率いる奴国の軍勢が来襲します。長羅は卑狗の大兄を殺し、奴国兵は王と王妃を殺害、卑弥呼は長羅に拉致されます。しかし逃亡した卑弥呼と訶和郎は耶馬台(やまと)に近づきます。

 耶馬台では君長の反絵の横暴が募ることで卑弥呼に対する尊崇が高まりますが、そこに奴国が卑弥呼を奪いに来襲するという報が伝わると、即座に出兵が決まります。卑弥呼は長羅を引き寄せるため、甲冑の上に赤い衣を着て出陣し、結局は長羅と反絵が相討ちになって、物語は締めくくられます。

タイトルの意味

 卑弥呼は、卑狗の大兄への思慕を募らせつつも、いつか不弥と奴国と耶馬台の三国の上に自分が日輪のごとく君臨することを思い描きます。

 それがタイトルの意味するところで、日輪のごとき輝く卑弥呼の周囲に渦巻く愛憎入り混じった感情に言及するタイトルです。

物語世界

あらすじ

 古代日本の不弥(うみ)の国の姫・卑弥呼は、同じ国の卑狗の大兄(ひこのおおえ)との結婚を控えていました。

 ある夜、外にいた二人の前に道に迷ったという若者が現れます。卑弥呼は若者に食べ物を与えるべきだと大兄に進言し、若者は贄殿でもてなしを受けます。しかし若者を見た一人の宿禰は彼が奴国の王子であると見破り、奴国の王がかつて不弥を攻めて神庫(ほくら)に放火し王母を略奪したために若者を殺そうとします。形勢逆転して若者が宿禰に剣先を向けると、卑弥呼が現れ、若者に立ち去るよう命じます。若者は自分を卑弥呼の傍に置けと言って去ります。

 若者は奴国の王子の長羅でした。父の君長(ひとこのかみ)は妃を失って以来、毎夜若い女性を集めて酒宴を開き、女性の一人を夜の相手にしていました。

 不弥から戻った長羅は、父から好きな女性を娶れと言われます。長羅の気持ちは卑弥呼にしかなく、父から不弥を攻める許しを得ます。しかし軍事を司る兵部の宿禰は、時期尚早だと反対します。兵部の宿禰の娘である香取は長羅に思いを寄せており、兵部の宿禰自身も香取が長羅に嫁ぐことを望んでいました。

 兵部の宿禰は香取を長羅に会わせる一方、不弥を攻める準備に鏃に塗る毒空木の汁を作らせ、卑弥呼殺害をもくろむものの、長羅は毒汁の壺を蹴って処分します。

 奴国から不弥に派遣されていた密偵たちが戻り、数日後には卑弥呼の婚礼があると長羅に伝えると、長羅は即座に出兵を決意し、反対した兵部の宿禰を斬殺します。兵部の宿禰の息子(香取の兄)訶和郎(かわろ)はそれを知って長羅への復讐を決意します。

 卑狗の大兄と卑弥呼の婚礼がおこなわれた夜、長羅の率いる奴国の軍勢が来襲します。長羅は卑狗の大兄を殺し、奴国兵は王と王妃を殺害、卑弥呼は長羅に拉致されます。父の君長は卑弥呼をわがものにしようとして長羅に殺されます。それを見た祭司の宿禰との間で争いになり、騒ぎの隙にその場を抜け出した卑弥呼は、近くにいた訶和郎から長羅は自分たちの敵だと言われ、訶和郎の馬に乗って逃れます。

 卑弥呼は両親と夫を殺されて一人残った自分を殺せと訶和郎に迫るものの、訶和郎は、自分はそれらの者に代わって長羅に復讐して卑弥呼を不弥と奴国の王妃にすると話し、二人は婚姻します。

 卑弥呼は不弥に残った兵士たちを集めて訶和郎とともに奴国に攻め込む計画を立てます。しかし逃亡する二人は耶馬台(やまと)に近づいていました。

 二人は鹿の群の間で耶馬台の兵士に囲まれ、そこに耶馬台の君長の反耶(はんや)が現れます。卑弥呼は耶馬台の君長を味方にして奴国に攻め込むことを考えます。すぐ不弥に行くことを主張する訶和郎に対し、卑弥呼が反耶の招きに応じて耶馬台の宮に同行すると言ったところで、訶和郎は反耶の弟の反絵(はんえ)に捕縛され、卑弥呼から引き離され、殺されます。卑弥呼は石窖(いしぐら)に入れられます。

 反耶は卑弥呼が帰りたいときまで宮にいてよいと話し、卑弥呼は訶和郎を傍に置くことを求めます。卑弥呼は奴隷に玉を与えて訶和郎を連れてくるよう頼むものの、もたらされたのは遺骸でした。

 石窖を出た卑弥呼は宮の一室を与えられ、訶和郎の遺骸を傍らに眠ります。その間に反耶の命で卑弥呼の寝室を飾るように使部(下僕)が遣わされるものの、部屋の前にとどまっていた反絵はそれを妨害し、訶和郎の遺骸を断崖で遺棄します。

 夜、反耶の酒宴の席に卑弥呼は呼ばれます。寝室を飾るために遣わされた使部は、命を守らなかったために鞭打ちの刑で死にます。宴席には反絵も現れ、卑弥呼は二人の間で愛想よくし、やがて反耶と反絵はともに眠ります。

 寝室に戻った卑弥呼は、卑狗の大兄への思慕を募らせつつも、いつか不弥と奴国と耶馬台の三国の上に自分が日輪のごとく君臨することを思い描きます。

 翌朝、反耶が卑弥呼の寝室に現れるものの、嫉妬に狂った反絵は反耶を殺します。妻となることを迫る反絵に対して、卑弥呼は奴国を攻めて長羅を殺せれば応じると話します。反絵はそれを受け入れます。 

 反絵は反耶の後を継いで君長となるものの、卑弥呼は同衾を許さず、不満のはけ口として反絵は兵士を傷つけます。

 長羅は卑弥呼を失ってから生気を失い、祭司の宿禰は国から美女を選んであてがおうとしました。その一人に香取が選ばれます。香取は父が殺された原因を作り長羅の心を奪った卑弥呼を恨み、長羅を思い続けていました。

 香取は長羅の寝室に入ったものの、長羅は彼女に関心を向けません。香取は舌をかみ切って自害します。このことが奴国の人々から賞賛されると、次に長羅の元に遣わされた女性はやはり自害し、若い娘を持つ親は娘が目立たないようにしました。

 そこへ、卑弥呼が耶馬台にいるという知らせがもたらされます。長羅は耶馬台を攻めることを決意します。

 耶馬台では反絵の横暴が募ることで卑弥呼に対する尊崇が高まります。そこに奴国が卑弥呼を奪いに来襲するという報が伝わると即座に出兵が決まります。卑弥呼は長羅を引き寄せるため、甲冑の上に赤い衣を着て出陣します。

 奴国が苦戦する中、長羅は卑弥呼の居場所を知り、そこに突進します。長羅の前に反絵が現れ、二人は格闘になり、周りには耶馬台の兵士がいたものの、反絵の暴政を恐れる彼らは助けません。

 長羅は反絵を倒した後、傷ついた体で卑弥呼の名を呼びながら息絶えます。卑弥呼は振り上げた剣を落とし「大兄よ、我を赦せ。彼を刺せと爾はいうな」と泣き崩れます。

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