始めに
テネシー=ウィリアムズ『欲望という名の電車』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
影響した作家
テネシー=ウィリアムズは、ロレンス(『チャタレイ夫人の恋人』)、ランボー、ロルカなど、同性愛やモラルと衝突する恋愛をモチーフとする作家に着目し、影響されました。特に、ロレンス(『チャタレイ夫人の恋人』)のことは、終生強く尊敬していて、そのリベラリズム、肉体的世界、ロマン主義から影響されています。
ほかにもモーパッサン、O=ヘンリー、オニール、シェイクスピアの作品からの影響も顕著で、モーパッサンやO=ヘンリー、オニールのシニズムやプロットの構成力、シェイクスピアの構成力、ロマン主義、同性愛テイストから影響されています。
その足跡と、姉ローラの不幸
ウィリアムズは音楽教師の祖母、両親、姉弟とともに祖父の牧師館で育ちました。靴のセールスマンをしていた父親は粗暴で、両親は仲が悪く、喧嘩が多かったのでした。母親はヒステリックで、黒人の乳母が優しい世話役でした。また2歳違いの姉ローズとは親友のように惹かれあっていました。
8歳のときに、父親の仕事でミズーリ州セントルイスに引っ越し、相対的には恵まれた社会的階級のなかでの南部の穏やかな生活から、工業都市のアパートに移り、環境の変化や都市生活の孤独になやみます。このあたりは本作や『ガラスの動物園』の背景でもあります。
また愛する姉ローズは精神障害により精神病院の中で暮らすことが多く、しかも両親は彼女に対するロボトミー手術を行い、このことがウィリアムズの両親への怒りと姉への罪悪感を生みました。ローズは本作のブランシュのモデルです。
大まかなプロットと、映画との違い
大まかなプロットは、虚言癖のあるブランシュが、既婚の妹ステラとスタンリー夫婦のもとに居候するものの、スタンリーと不和になり、やがて過去に自身が起こした性的なスキャンダルをスタンリーによって暴かれ、スタンリーの友人のミッチと惹かれ合っていたにも関わらず破局し、ミックからの拒絶、スタンリーからの性暴力によって精神病の悪化したブランシュが入院するまでが描かれます。
映画では、ラストの展開が異なっていて、原作では結局ステラはスタンリーから離れられず、姉のいうスタンリーからのレイプの件についても信じないのですが、映画ではステラは強くブランシュの側に立ち、最後もスタンリーと完全に決別したような描かれ方をしており、どちらかというと映画のほうがむしろウィリアムズ自身の、姉を傷つけた両親との決別を体現するラストになっています。
タイトルの意味
本作の題名はニュー・オーリンズに実在した「欲望街」線の路面電車で、ブランチはこれに乗り、「墓場」線に乗り換え、「極楽」で下車して妹の家にたどり着くという設定です。
タイトルは、ブランシュの迎える環境の変化を象徴すると同時に、人間の人生や、アメリカ南部のニューオーリンズ社会の象徴です。
南部アメリカ、ニュー・オーリンズ、移民
本作に描かれる南部は、下層民も多く住んでいて道徳的にも荒んだ、欲望の渦巻くグロテスクな世界として描かれています。
先述したロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』においては、ロウアークラス、ワーキングクラスの青年の肉体が艷やかに、そして道徳的なリベラリズムや理想主義、ヒューマニズムと結びつけて描かれるのとは、本作は対照的です。本作のスタンリーはポーランド移民で粗野なマチズモとミソジニーを体現し、南部に典型的な人物描写で、どちらかというとフォークナーの文学作品などを連想させます。
そんな南部のグロテスクな保守性に脅かされ、ブランシュは狂気へと駆り立てられます。
物語世界
あらすじ
債権者のせいで実家を失ったブランシュ=デュボアは、ミシシッピ州ローレルからニューオーリンズのフレンチ=クォーターへ移り、既婚の妹のステラとその夫スタンリー=コワルスキーと一緒に暮らします。30代のブランシュにはお金がありません。
ブランシュはステラに、緊張病により英語教師の職を休職したと告げます。ブランシュはスタンリーがうるさくて乱暴で嫌いです。一方スタンリーもブランシュを疑い、嫌います。
ブランシュは神経質で落ち着きがなく、明るい光の中で見られることを嫌がり、酒に溺れ、また虚言癖があります。
スタンリーはブランシュに以前の結婚について質問します。ブランシュは若いときに結婚したものの、夫は自殺しています。ブランシュは夫の同性愛を知ったときの自分の反応とそれが手伝った夫の自殺に関して、罪悪感に苦しんでいます。
スタンリーは遺産を騙し取られたのではないかと疑い、かつての大農園でデュボア家の家だったベル=レーヴに何が起こったのかを問いただします。それからステラにナポレオン法典について話し、夫は妻の財政を管理できると述べます。ブランシュはベル=レーヴに関する書類を手渡します。書類のなかにスタンリーは手紙の束があるのに気づき、ブランシュは亡くなった夫からの個人的なラブレターだと言います。
その後、スタンリーはステラが子供を産むことをブランシュに伝えます。
ブランシュが到着した翌晩、スタンリーがポーカーをしているときブランシュはスタンリーのポーカー仲間のミッチと出会います。彼は礼儀正しく、ブランシュを魅了し、2人はお互いに好意を抱きます。
しかしスタンリーは、酔った勢いで激怒し、ステラを殴りつけます。ブランシュとステラは、上の階に住むユーニス=ハベルのもとに避難します。スタンリーは正気を取り戻すと、下の庭からステラに戻ってくるように何度も彼女の名前を呼び、ステラが降りてきて許すまで叫びます。ブランシュは、姉が夫に暴行された直後に夫のもとに戻ったのを見てショックを受けます。
ステラがスタンリーのもとに戻った後、ブランシュとミッチは中庭の階段の下に座り、ミッチはスタンリーの粗暴な振る舞いを謝ります。
翌朝、ブランシュはステラのもとに駆けつけ、スタンリーを侮辱します。スタンリーは会話を聞いていたが、黙っています。スタンリーが入ってくると、ステラは彼を抱きしめてキスします。
数週間が経ち、ブランシュとスタンリーの不和は広がります。ブランシュはミッチに惹かれ、一緒にどこかへ出ていきたいと思います。ブランシュはミッチに、かつては若い男アラン=グレイと結婚していたものの、後に年上の男性とグレイの性行為を目撃したことを話します。ブランシュがグレイに嫌悪感を抱いたこと告げると、彼は自殺しました。ミッチもまた誰かを亡くしており、ブランシュの状況に共感します。
その後、スタンリーは、ローレルに縁のある怪しいセールスマンから聞いた、ブランシュが未成年の生徒と関係を持ったために教師の職を解雇され、売春宿に住んでいるという噂をステラに伝えます。スタンリーがミッチにすでに話したことを明かすと、ステラはスタンリーの冷酷さに怒ります。
その夜遅く、ブランシュの誕生日パーティーで、テーブルにはミッチの席が空いています。スタンリーはブランシュに誕生日の「プレゼント」として、グレイハウンドバスでローレルに戻る片道切符を渡します。ここでステラとスタンリーの間で口論になるものの、ステラは陣痛に襲われ、夫に病院に運ばれます。
ブランシュが一人で家で待っていると、ミッチがやって来て、スタンリーが語った話をブランシュに伝えます。ブランシュはその話が本当だと告白し、許しを請います。そこで怒りと屈辱を感じたミッチは彼女を拒絶しますが、それでもミッチはブランシュにセックスを要求し、長い間何も得られずに待っていたのだからそれは自分の権利だと示唆します。ブランシュは、火事だと叫んで彼に出て行くように言います。
スタンリーが家に戻ると、アパートにはブランシュが一人でいます。ブランシュは、昔の求婚者がやって来て経済的援助をし、ニューオーリンズから連れ去ってくれるという妄想に浸っています。ブランシュはまた、ミッチが許しを求めたものの、拒絶したと嘘をつきます。スタンリーはそれに付き合った後、ブランシュの嘘、偽善、振る舞いを侮辱し、ミッチについての彼女の嘘を非難します。スタンリーはブランシュに近づき、それに応じて、彼女は割れた瓶で攻撃すると脅すものの、押さえられます。ブランシュは床に倒れ、スタンリーが意識を失った彼女をベッドに運びます。
その後、コワルスキーのアパートでポーカーをしている間、ステラとユーニスがブランシュのわずかな持ち物をまとめています。ブランシュは精神崩壊し、緊張病の状態で入浴しています。ブランシュはステラにスタンリーにレイプされたことを話したがものの、ステラは姉の話を信じません。
医者と看護婦がブランシュを病院に連れて行こうと到着すると、抵抗し、看護師は辛そうにして彼女を拘束します。ポーカーに同席していたミッチは泣き崩れます。医者は優しい態度でブランシュに向き合い、ブランシュは喜んで彼について行き、「私はいつも見ず知らずのかたのご親切にすがって生きてきました」と話します。ポーカーは中断されることなく続きます。
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