始めに
シェイクスピア『間違いの喜劇』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
典拠
この劇はプラウトゥスの『メナエクミ』を現代風に翻案したものです。
そちらは、エピダムノスのメナエクモスとシラクサのメナエクモスという双子の兄弟が巻き込まれる、人違いを題材にした喜劇です。滑稽な娼婦、滑稽な奴隷、横暴な妻、老いぼれた義父、藪医者など印象的なモチーフが多く、多くが『間違いの喜劇』へ継承されています。
『メナエクミ』はペニクルスというたかり屋が、夕食をご馳走してもらおうと兄メナエクミの家にやってくるところから始まります。兄メナエクミは、意地悪な妻と口論しながら出てきます。彼はペニクルスに、隣に住む恋人の娼婦エロティウムにマント(実は妻の)をあげるつもりだといいます。二人はエロティウムを説得して夕食に招待し、待っている間にフォルムに飲みに行きます。一方、その双子の兄弟、シラクサのメナエクミも奴隷のメッセニオを連れてシラクサからやって来て、長い間行方不明だった双子の兄弟を捜します。エロティウムは暖かく彼を迎え、夕食に招き入れ、その後、マントを渡し、それを直してほしいと頼みます。誤解が続き、兄のメナエクミは、気が狂ったと考えた義父と医者に縛られますが、メッセニオに救出されます。二人の兄弟はついに出会う。兄メナエクミは、妻を含む全財産を競売にかけ、弟とともにシラクサに戻ることを決意します。
『メナエクミ』からの最大の脚色は、主人公である双子の兄弟の召使いも、生き別れの双子という設定にしていることです。
またサブプロットとして双子の主人公の父親の裁判という要素も脚色として追加されており、デウス・エクス・マキナ的に、ラストのハッピーエンドに繋がります。
大まかなプロット
二重の同じ名前の双子の設定によって、少し物語がわかりにくいですが、構造自体はシンプルです。
生き別れになった双子の兄弟とその双子の召使いがおり、その兄と兄、弟と弟がペアになっていて、弟のペアのほうが兄たちの暮らすエフェソスにやってきて、周囲がこの双子たちを混同するすれ違いによってドタバタが展開されていきます。
サブプロットとして、この2人の父親イジーオンがエフェソスに捕らえられていて処刑されそうになっているものの、イジーオンの妻エミリアがエフェソスの修道院長であることが明かされて、デウス・エクス・マキナ的なハッピーエンドになります。
三一致の法則
『テンペスト』と同様に、『間違いの喜劇』はおおむね時間、場所、行動の三一致の法則に従う内容です。
3劇中の時間で1日のうちに、1つの場所で、1つの行為だけが完結するべきというのが三一致の法則で、シェイクスピアの作品はこれに従わないものが多いため、例外的作品です。
三一致の法則は、古典主義演劇において重要と見られ、そこからフランス古典主義の方面からシェイクスピアをネガティブに捉える向きもあったものの、別にこの規則は名作の必要条件ではないため、その硬直化した運用はしばしば不合理な教条主義を招きます。そうしたことへの異議申し立てとして、スタンダール(『赤と黒』『パルムの僧院』)はシェイクスピアを評価してロマン主義を展開しました。
物語世界
登場人物
- 兄アンティフォラス:「エフェソスのアンティフォラス」。イジーオンの子で、弟とは双子。エフェソスで結婚。
- 弟アンティフォラス:「シラクサのアンティフォラス」。イジーオンの子で、兄とは双子。兄を探す旅でエフェソスに着きます。
- 兄ドローミオ:「エフェソスのドローミオ」。兄アンティフォラスに仕えます。
- 弟ドローミオ:「シラクサのドローミオ」。弟アンティフォラスに仕えます。
- イジーオン:シラクサの商人。アンティフォラス兄弟の父。息子を探す途中エフェソスに入り捕らえられる。
あらすじ
法律によりシラクサの商人がエフェソスに入ることは禁じられており、年老いたシラクサの貿易商イジーオンは市内で発見され、罰金か、さもなければ処刑されそうになります。彼は弁明として、エフェソス公爵ソリヌスに悲しい物語を語ります。
イジーオンは若いころ結婚し、アンティフォラスという名前の双子の息子をもうけました。同じ日に、職のない貧しい女性も双子の男の子ドローミオを出産し、彼はこれを息子たちの召使いとしました。その後まもなく、家族は航海に出たとき、暴風雨に見舞われてしまいます。イジーオンは息子1人と召使い1人を連れてメインマストに残り、妻は残りの2人の幼児を連れていきます。妻は1隻の船に救助され、イジーオンは別の船に救助されました。最近、成長した息子のアンティフォラスと息子の召使いドロミオは兄弟を探すためにシラクサを離れました。アンティフォラスが戻ってこなかったため、イジーオンは彼を探しに出かけました。
公爵はこの話に心を動かされ、イジーオンに罰金を支払うための猶予を与えました。
その同じ日、アンティフォラスは兄を探してエフェソスに到着します。そっくりのエフェソスのドローミオ(兄ドローミオ)が現れ、アンティフォラスは、誤解してエフェソスのドローミオ(兄ドローミオ)を殴ります。
エフェソスのドロミオは兄アンティフォラス妻のエイドリアーナのもとに戻り、彼女の「夫」が家に帰ろうとせず、知らないふりをしていたと告げます。これにエイドリアーナは不倫を疑います。
シラクサのアンティフォラス(弟アンティフォラス)は、シラクサのドロミオ(弟ドロミオ)と会います。突然、アドリアナがシラクサのアンティフォラスに駆け寄り、自分から離れないでと懇願します。アンティフォラスとドロミオはこの見知らぬ女性と出かけ、一人は夕食を食べ、もう一人は門番をします。
家の中で、シラクサのアンティフォラスは、エイドリアーナの妹であるルシアナにとても惹かれていることに気づき、愛を告げます。
シラクサのアンティフォラス(弟)は、アンティフォラスが彼に鎖を注文したと主張する金細工師のエフェソスのアンジェロと対峙します。アンティフォラスは鎖を受け取らざるを得なくなり、アンジェロは支払いのために戻ってくるそうです。
エフェソスのアンティフォラス(兄)は夕食のために帰宅し、門番をしているシラクサのドロミオに自分の家に入ることを拒否されます。彼はドアを破壊しようとするものの、友人たちは騒ぎを起こさないように説得し、代わりに娼婦と食事をすることにします。
エフェソスのアンティフォラスは、エフェソスのドロミオにロープを買わせ、妻のエイドリアーナを締め出したことで殴らせようとしたところ、アンジェロに呼び止められ、鎖の代金を返せと要求されます。しかし鎖など知らないと否定し、すぐに兄アンティフォラスは逮捕されます。
連行される途中、シラクサのドローミオが到着し、アンティフォラスは彼をエイドリアーナの家に送り返して保釈金を調達させます。その後、シラクサのドローミオは誤ってその金をシラクサのアンティフォラスに届けます。娼婦はアンティフォラスが金の鎖を着けているのを目撃し、指輪と引き換えに鎖を約束したと言いますが、シラクサの2人はこれを否定し、逃げます。娼婦はアドリアナに夫が正気ではないと告げようとします。
エフェソスのドローミオは、ロープを持って、捕らえられたエフェソスのアンティフォラスのところに戻ります。エイドリアーナ、ルシアナ、娼婦が、ピンチという名の呪術師とともに入って来ます。ピンチはエフェソスの2人を悪魔払いしようとするものの、彼らは縛られてアドリアナの家に連れて行かれます。
剣を持ったシラクサの2人が入り、皆は恐怖のあまり逃げ出します。彼らはエフェソスの2人が何とかして逃れて復讐に来たのだと信じます。
エイドリアーナは手下たちとともに再び現れ、シラクサの二人を拘束しようとします。彼らは近くの修道院に避難し、そこで修道院長が断固として彼らを保護します。突然、修道院長がシラクサの双子を連れて入ってきて、誰もがその日の混乱した出来事を理解します。2組の双子が再会しただけでなく、修道院長は自分がイジーオンの妻、エミリアであることを明かします。
公爵はイジーオンを赦免する。全員が修道院に出て、家族の再会を祝う。
参考文献
・高橋 康也 (編集)『研究社シェイクスピア辞典』
・倉橋健 編『シェイクスピア辞典』



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