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フロベール『三つの物語』解説あらすじ

フローベール
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はじめに

フロベール『三つの物語』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロマン主義、古典主義、ルネサンス文学の影響

 フローベールはロマン主義や古典主義、ルネサンス文学に傾倒しつつも、自身はそこから写実主義を展開したと説明されます。オースティン(『傲慢と偏見』)がリチャードソンの影響から風刺作品を展開したのと似ているでしょうか。

 とはいえロマン主義(ゲーテ[『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)]、ユゴー[『レ・ミゼラブル』]、シェイクスピア)、古典主義(ヴォルテール)、ルネサンス文学(ラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』)のリアリズム描写や主題はフローベールに継承されていますし、それが公共圏へのコミットメントの中での自己実現を巡る作品であるという点ではそうした作品からの影響が濃厚です。

 また本作はロマン主義的な傾向が特に強い作品で、いずれもキリスト教を前提とした、聖人たちの物語です。

ゲーテ『ファウスト』。生の哲学

 本作もゲーテ『ファウスト』の影響を伺わせます。

 ゲーテ『ファウスト』では、学級と人生に絶望したファウストが主人公になっていて、メフィストフェレスとの駆け引きの果てに、人生の意味を、永遠に続いてほしい瞬間を、ようやく見出します。そしてその魂を愛する人の祈りによって救済されて天国に至ります。

 本作は三作のオムニバスですがいずれも聖人伝としてのドラマで「純な心」「聖ジュリアン伝」は生前の行いにより、天国へと至るまでが描かれます。

 「純な心」においては素朴で地味な女性フェリシテが終生他者への献身を貫き、そのために天国へと至ります。聖ジュリアン伝では、かつての愚行と罪の懺悔につとめたジュリアンが救済されるまでを描きます。

サロメブーム

 フランスの芸術家ギュスターヴ=モローが「出現」を手がけました。これは聖書の登場人物サロメが、洗礼者ヨハネの生首の幻視とともにヘロデ=アンティパスの前で踊っている様子を描くもので、『新約聖書』におけるマタイによる福音書第14章6~11節とマルコによる福音書第6章21 ~29節に語られているエピソードを下敷きにしていました。

 以降、サロメのブームが起こり、連作の一つの「エロディアス」、ワイルド『サロメ』など、このテーマによる多くの芸術作品がものされました。

 ワイルド『サロメ』などの印象から悪女の代表みたいな印象が強いサロメですが、もともと『新約聖書』ではモブキャラで、ヨハネを殺そうとしたのは母のエロディアスです。サロメは母の言いつけに従っただけに過ぎなかったのですが、本作はそれを踏まえていて、サロメは脇役でエロディアスと聖人ヨハネを中心とする物語です。

物語世界

あらすじ

素朴な心

 フェリシテは、舞踏会で気に入った青年に出会い、結婚を申し込みます。しかし彼は徴兵逃れに裕福な女性と結ばれます。

 フェリシテははたらいていた農場を去り、ポンレヴェックへ向かいます。そこでポールとヴィルジニーという 2 人の子供を持つ若い未亡人であるオーバン女史に雇われます。

 フェリシテは、時々訪ねてくる甥のヴィクトルと交流していたものの、ヴィクターは長距離船員となってしまいます。それに加えて、その後キューバで甥は黄熱病で亡くなり、悲しみに沈むフェリシテでした。

 数か月後、今度はヴィルジニーが胸部炎症により死亡します。フェリシテは亡くなった子供を二日二晩見守り、母親は絶望に陥る。家の工事と19世紀前半の出来事のリズムをたどりながら、年月が経過します 。

 1828 年、新しい副知事がオーバン女史を訪ねます。知事には、黒人の召使とオウムがおり、フェリシテを魅了しました。オウムがアメリカ大陸から来たものであり、甥のヴィクトルを思い出すのでした。知事は、オウムをオーバン夫人に別れの挨拶として残しますが、オーバン夫人はそれをフェリシテに与えます。フェリシテはオウムをルルと名付け、愛情を込めて世話します。

 ある日オウムが逃げ出すと、フェリシテはオウムを探しに行って見つるものの、耳の感染症にかかり、そこからフェリシテはほとんど耳が聞こえなくなります。

 1837 年の冬、ルルはうっ血で亡くなり、夫人の勧めでフェリシテがルルを剥製にします。フェリシテはそれを自分の部屋に置きます。

 1853 年にオーバン女史が 亡くなり、家は売りに出されました。物件に買い手が見つからない間、フェリシテはそこに留まることができます。しかし屋根が劣化し、部屋に雨漏りが生じたことで、フェリシテは肺炎を患ってしまいます。

 最後に年老いて病気になったフェリシテは、老朽化し​​たオウムの剥製に最後の別れのキスをした後、それを司祭に差し出します。 

 やがてフェリシテの魂は、巨大なオウムに天国へ運ばれます。

聖ジュリアン伝

 ジュリアンは生まれたときから偉大なことを成し遂げると予言されていました。父親はジュリアンが偉大な皇帝の家族と結婚すると告げられ、母親は彼が聖人になると告げられました。両親はジュリアンを溺愛していました。

 しかしジュリアンが教会でネズミを殺した後、動物に対する残酷さが増し、ついには谷の鹿を虐殺してしまいます。雄鹿はジュリアンに両親を殺すように呪いをかけます。やがて母を殺しかけてしまい、ジュリアンは逃げ出します。

 ジュリアンは浮浪者の一団に加わり、やがて彼らは大きな騎士団に成長します。名声を得て金持ちと結婚したものの、狩りをすることはしませんでした。しかし妻に狩りに行くよう説得され、殺した動物の霊に悩まされます。

 あるとき妻を驚かせようと家に戻ると、男と女が妻のベッドにいました。実はジュリアンの両親が会いに来ていて、妻は2人にベッドを与えていました。ジュリアンは妻の不貞を疑い、結局呪い通りに2人を殺してしまいます。ジュリアンは自分の悪行に気づき、再び家を出るのでした。

 ジュリアンは全財産を妻に譲り渡し物乞いになります。やがて人気のない川の渡し場に行き当たり、渡し守としての人生を送ることを決意します。

 ある日、大嵐が起こり、一人のハンセン病患者が川を渡ろうとします。ジュリアンはそれを助け、川を渡るとハンセン病患者の要求は増えていきます。食べ物とワイン、ジュリアンのベッド、そして最後にジュリアンの体の温もりを願います。ジュリアンがためらうことなくその男にすべてを与えると、ハンセン病患者はイエス=キリストその人であることが明らかになり、ジュリアンを天国に連れて行くのでした。

ヘロディアス

 ヘロディアスは、2 番目の夫ヘロデ=アンティパスの誕生日を盛大に祝います。ヘロディアスは、夫に内緒でヨハネの斬首を計画していました。ヘロデを娘サロメに恋させ、彼女が望むことは何でも約束させるという内容でした。そうしてサロメは、母親の指示に従い、盛大な祝宴の最中、サロメは踊りを披露し、客全員を魅了します。アンティパスが望むものはすべて捧げると宣言すると、サロメは大皿に乗った洗礼者ヨハネの首を要求します。

 ヨハネは王族を何度も侮辱していたため、王はサロメの願いを叶えるのにそうためらいませんでした。パーティーに集まった群衆は、死刑執行人マンナエウスがヨハネを殺すのを眺めます。

 翌日、以前ヨハネによって派遣された二人の男が到着し、ファヌエルはヨハネの首を持って一緒にガリラヤに向けて出発します。

参考文献

Winock, Michel. ”Flaubert ”

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