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ジッド「贋金つかい」解説あらすじ

ジッド
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はじめに

ジッド「贋金つかい」解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロマン主義、象徴主義、モダニズム

 ジッドはゴーティエ、ハイネを愛読し、ロマン主義に影響されました。また古典主義者のピエール・ルイスと知り合い文学的に影響し合いました。

 やがてルイスを通じてポール・ヴァレリーと知り合い、またステファヌ・マラルメの「火曜会」に出入りします。ここから『贋金つかい』など、マラルメ、ヴァレリー風の形式主義的実験を展開していきました。

 ゲーテはジッドが最も崇拝した存在の一人です。ゲーテの古典主義的な節度と生の全肯定は、ジッドがキリスト教的な禁欲主義から脱却し、調和を目指す上での指針となりました。


​ ドストエフスキーの人間の魂の深淵や矛盾、多面性を描く手法に強く惹かれました。ジッドは『ドストエフスキー論』を執筆するほど彼を深く研究しました。ほかに『背徳者』を執筆する際、ニーチェの既成道徳への挑戦や超人的思想が共鳴しました。


​ ジッドの簡潔で明晰な文体は、スタンダールの影響を強く受けています。過剰な装飾を排し、心理の機微をドライに描く手法を学びました。フランス古典主義劇作家であるラシーヌからは、形式の美しさと、抑制された表現の中に漂う情熱の描き方を吸収しました。


​ またアルジェリアでワイルドと出会ったことは、ジッドの人生における大きな転機となりました。ワイルドはジッドに対し、自分自身の同性愛に忠実であることを教唆し、彼が自己を解放するきっかけを作りました

語りの構造

 小説の構造は非常に複雑で、さまざまなストーリーが絡み合い、視点や語り手も複数設定されています。日記、手紙なども挿入されて、複数の語りの形式が取り入れられ、物語を展開します

 非線形の、実験的語りによる心理劇的デザインは、ジッドが着目したフォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)やハメット(『マルタの鷹』『血の収穫』)の作品とも重なります。

純粋小説

 本作の創作背景を描いた『贋金づくりの日記』があって、そこで掲げる純粋小説の理想を本作は実践したものとされます。

 純粋小説は小説から小説的でない要素、小説にとって固有の特徴でないものを極力排除することを志向する発想です。たとえば、絵画の目的が「写実」であったとしたらそれは写真や映画に負けてしまうから、それのみを追求するべきではないわけです。小説も同様に、小説メディアならではの特徴を明らかにして、それを追求するべきだと考えたのがジッドでした。

 とはいえ、純粋小説の理想はそのような大まかな理想を伝えるばかりのもので、具体的な方法論レベルでは、なかなか定式化されていません。けれども、本作にも顕著なように、全知の(焦点化ゼロの)語り手を廃したスタイルによる朦朧とした非線形の語りは、語り(語り手の設定、視点の設定、描写、時間といったナラティブ)による芸術であるところの小説の固有の魅力の一端を伝えています。

 純粋小説の理想は「機械」の横光利一などに示唆を与えました。

タイトルの意味

 タイトルの「偽金つくり」ですが、作中においてヴィクトールが偽札事件を起こしており、このことを示していますが、それだけではなく「贋金」というモチーフは、作品のテーマ全体を象徴するものです。

 物語の主人公格のベルナールは、スイスのサースフェーでローラとエドゥアールとの話し合いの中で、血の絆が偽りの価値観であること、プロフィタンデューを自分を育ててくれた人として、そして父親として受け入れなければならないことを理解します。ここにおいて、結局「血縁」やそれを重んじる既存のモラルは「贋金」と何ら変わらず、歴史的に形成された信頼によって本物らしく見えて流通しているものの、実際のところ、通貨のまがい物です。そんなまがい物をまがい物とベルナールは終盤に発見します。

 また純粋小説の理想は小説のまがいもの(小説ならではの特徴をなおざりにする作品)が流通していることに対する懸念から展開されたものですが、それも贋金と重なります。

ジッドとキリスト教

 父ジャン・ポール・ギヨーム・ジッドは南仏ユゼス出身でプロテスタントの家系、パリ大学法学部教授をつとめました。母ジュリエットは北仏ルーアン出身の裕福な織物業者ロンドー氏の娘でした。

 プロテスタントの父の下に育ったジッドは幼い頃からプロテスタントの厳格な教育を受けます。そして宗教を体に染み込ませられる中で、自身の性的指向との間で悶えるようになります。

 キリスト教から同性愛についての見解は、教派、教役者、聖職者によって異なりますが、それを罪とする立場がかなり広く見られます。このためジッドは自身のキリスト教とセクシャリティの間で悩みました。

 本作もジッドの苦悩を反映して、同性愛というものが群像劇の中で重要な役割を果たしています。

物語世界

登場人物

  • ベルナール:私生児であることから家出する。
  • オリヴィエ:ベルナールのクラスメイト
  • エドゥアール:作家。オリヴィエの叔父。
  • ヴィンセント:オリヴィエの兄。遠縁のいとこ(エドゥアールの友人ローラ)が彼女を妊娠させたことから、不倫関係を経験します。彼は彼女を捨て、パッサヴァン伯爵の友人だがさらに冷笑的なグリフィス夫人に夢中になります。小説の最後に、アルマンドの兄が書いたヴィンセントと思われる男性について言及した手紙は、ヴィンセントが狂気に負けてアフリカ旅行中に愛人を殺害したことを示唆します。
  • ジョルジュ:オリヴィエの弟。打算的な少年で、恐れることなく非行に走り、パッサヴァン伯爵の手下に操られます。
  • アルマン・ヴェデル:オリヴィエの友人。皮肉屋です。牧師の息子である彼は、自分の育ちが自分を不幸で不誠実にしていると考えています。しかし、彼は高潔な妹のレイチェルに大きな愛情を持っています。余暇には詩人として活動していた彼は、ひねくれ者のパッサヴァン伯爵から文芸雑誌のディレクターとしての職をオファーされます。
  • ベルナールの父親:捜査判事であり、偽札事件を追うものの、ジョルジュはその事件に巻き込まれていることに気づきます。
  • ラ・ペルーズ:オリヴィエの父。苦悩に満ちた老オルガン奏者で、行方不明の孫を見つけることを夢見ていたが、孫に会ってひどく失望します。
  • ローラ:ヴィンセントの愛人。結局夫の許しを受け入れて夫と一緒に暮らすことに戻ります。
  • ヴィクトール・ストロヴィルー:パッサヴァンよりもさらに冷笑的で、偽札事件の扇動者です。
  • ボリス:オルガン奏者の孫で、エドゥアールとベルナールが山の療養所で出会った、か弱い幼い子供。やがてエドゥアールやベルナールを含め、誰からも見捨てられ、自殺します。

あらすじ

 物語の中心となるのは、高校時代の友人であるベルナールとオリヴィエ、そしてオリヴィエの叔父で作家のエドゥアールという3人です。

 バカロレアの合格を目前に控えたベルナールは、母親に宛てたラブレターを発見し、自分が母親の不倫の愛から生まれたと知ります。彼は、父親ではなく自分を育て、一度も愛したことがないと感じる義父に深い軽蔑を感じます。

 ベルナールは家から逃げ、友人でクラスメートの一人であるオリヴィエに避難します。

 エドゥアールはサン・ラザール駅の荷物室にスーツケースを置いたまま、無意識のうちに切符を地面に落とし、ベルナールはそれを拾い上げ、隙を見てスーツケースを手に取ります。彼は財布を手に入れ、日記を読んで、ローラについて知ります。この若い女性は、オリヴィエの弟であるヴィンセントによって妊娠、ヴィンセントは彼女を捨てました。

 エドゥアールはスーツケースのことを怒らずに面白がり、ベルナールをローラと一緒にスイスに滞在するよう誘い、秘書になることも申し出ます。やがてベルナールは作家とローラを同じように愛するようになります。

 ベルナールが友人のオリヴィエに語る熱狂的な物語に、オリヴィエはひどく嫉妬し、パッサヴァン伯爵に誘惑されることを許してしまいます。伯爵の影響で、オリヴィエはますますうぬぼれていきます。

 やがてオリヴィエは、アルコール中毒になって昏睡状態になります。彼はエドゥアール叔父に保護され、世話をされます。

 ベルナールは、スイスのサースフェーでローラとエドゥアールとの話し合いの中で、血の絆が偽りの価値観であること、プロフィタンデューを自分を育ててくれた人として、そして父親として受け入れなければならないことを理解します。

 他にも種々のサブプロットがあります。

 

参考文献

・クロード=マルタン『アンドレ=ジッド』

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