始めに
有島武郎『一房の葡萄』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
自然主義、白樺派
有島武郎はイプセン(『民衆の敵』『人形の家』)など自然主義の作家からの影響が強く、リアリスティックな心理が特徴です。
また白樺派に括られる作家で、これは学習院の同人誌白樺の作家を中心とするグループに与えられる名前であって、志賀直哉(『城の崎にて』)、里見とん(『多情仏心』)、武者小路実篤(『友情』)など、おのおの作家性もまちまちでしたが、理想主義や人道主義を掲げ、またこのコミュニティでは広くトルストイやニーチェは読まれて共有されていました。
トルストイと本作の理想主義
トルストイはクリミア戦争における従軍経験があり、それに由来する反戦思想と農奴制への批判的な発想が起こりました。カフカース地方での生活とクリミア戦争への従軍経験が民衆の偉大さを発見し、それを搾取する構造を持つ戦争という事象と、農奴制に抗いました。トルストイはルソーの自由主義思想の影響も大きく、それが反戦にもつながっていると思われます。
このような、民衆という存在と彼らの実践に立脚する保守主義、プラグマティックな思想がトルストイ文学のルーツです。
本作は『赤い鳥』に掲載された有島武郎の創作童話です。語り手は少年時代、ふとしたことから盗みというモラルからの逸脱的なことしてしまったところ、憧れの女の子先生が優しく調停してくれて、被害者の生徒と和解することができた思い出があります。けれどもその先生の手が、語り手の目の前に現れることはもうなくて、それはほろ苦い余韻を残します。
本作は、このように、少年時代の過ちから徳を獲得するプロセスを描いた、王道の児童文学になっています。
物語世界
あらすじ
小さい頃絵を描くことが好きだった主人公の「僕」は、横浜の山の手に続く美しい海岸通りを絵に描こうとします。しかし手持ちの絵具では、理想の色合いの絵には描けません。
ある日西洋人の同級生・ジムの持つ舶来の絵具が羨ましくて盗んでしまうものの、すぐにバレてしまい、美しい憧れの先生に言いつけられます。
泣き続けていた僕を先生は優しく許し、一房の葡萄を渡しました。翌日学校へ行くと、ジムがなぜか優しく「僕」を先生の元へと連れていきます。そこで2人は葡萄を分け合い仲直りします。
それから時は過ぎ、秋には葡萄の房はいつでも紫に色づいているものの、先生の白い手が僕の目の前に現れることはもうありません。
参考文献
・佐渡谷重信『評伝 有島武郎』




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