始めに
岡本好貴『帆船軍艦の殺人』レビュー、感想を書いていきます。
| ランク |
| B |
基本情報
著者
岡本好貴。1987年岡山県生まれ。鳥取大学大学院修了。2023年、「北海は死に満ちて」で第三十三回鮎川哲也賞を受賞。『帆船軍艦の殺人』と改題のうえデビュー。
数度の最終選考落選を経た、執念の入賞です。
あらすじ
十八世紀末、フランスと交戦状態にある英国海軍が舞台。強制徴募の若者たちを乗せ、戦列艦ハルバート号は北海を目指すものの、新月の夜に人目のある中で水兵が何者かに殺害されます。事件は続けて起こり、ネビル=ボートを探偵役に展開されます。
所感
本格として
全体的に力作で受賞はわかるんですが、面白くはなかったです。
まずミステリとしては1つ目の事件の脱出トリックは類例はあるものの前例はなく面白いですがなぜかこれが捨てネタです。このトリックは鮎川哲也賞でもギミック単位では最上位のものだと思います。しかしあとは特にこの舞台でなくても成立する無数のバリエーションのある典型的かつ微妙な物理トリックです。
選評でも二人に近いことを言われてますが最初の脱出トリックをメインにアリバイの消去法をデザインして解決する流れにしたほうが絶対面白かったと思います。
これまでの選評からうかがうに、著者さんは歴史劇や伝奇ものが書きたくて、賞のためにミステリとしてチューニングしている印象で、それゆえミステリとしては勘所を外していて、謎解きとドラマが有機的に結びついている感じがしません。
それといずれもトリックが図を見てもわかりにくく、横溝『本陣殺人事件』みたいに映像化しないとまず伝わらない内容と感じます。
歴史劇として
歴史ミステリとして考証は健闘していて新人離れしており感服するものの、人物描写、人間ドラマとか一部のセリフは安っぽくコテコテで急に漫画みたいで、こまかい生活や船上の描写とか光る部分があるからこそ出来不出来のコントラストがもったいなく感じます。
クライマックスの展開も安手のB級映画みたいでがっかりしました。打ち切り漫画みたいに急にハッピーエンドになるのですが、選評ではこれを好意的にみるむきもあり、首を捻りました
総評
全体的に力作で、心意気を評価したいし作家としてのポテンシャルを評価したいので受賞には肯定的ですが、面白いかつまらないかでいったらあまり面白くなかったです。
ただ新人賞というレースの枠組みを離れて歴史劇の方面で自由に筆を振るえた時に、この作家は本領を発揮できる気がしますので応援します




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