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大江健三郎『叫び声』解説あらすじ

大江健三郎
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はじめに

大江健三郎『叫び声』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

実存主義的な青春物語

 大江健三郎はサルトルとカミュ(『異邦人』『ペスト』)などの実存主義から顕著な影響を受けており、本作もそこからの影響が見えます。

 大江健三郎の実存主義の影響の最良の部分は、アートワールド(芸術史の伝統)への主体のコミットメントとその中における自己実現に際しての新古典主義者としてのモデルを提供したことで、それが『取り替え子』などにもあらわれていますが、本作はまだそんな感じはしません。

 本作は若者のアイデンティティクライシスとして実存主義を展開しています。カミュ『異邦人』のようなドラマになっています。

小松川事件、アメリカの自然主義とリアリズム、シュルレアリスム

 本作は小松川事件がモデルになっています。

 大江健三郎は米文学の影響が顕著で、ドライサー『アメリカの悲劇』のような犯罪者の孤独が描かれます。

 大江健三郎は、グロテスクな性描写、肉体的口語的語り口、実際の事件への着目など、全体的にシュルレアリスムからの影響も顕著で、シュルレアリスムに影響された安部公房(『砂の女』『箱男』)にも着目しました。シュルレアリストのコクトー『恐るべき子供たち』もティーンの世界を描いたグランギニョルな青春物語です。また、シュルレアリストのブルトンは既成芸術やブルジョア社会へのカウンターとして、実際の若い犯罪者に着目するなどし、またモロー(「出現」)の絵画に描かれるファム・ファタル表象に着目しました。シュルレアリスムの影響が顕著な三島由紀夫の『金閣寺』や中上健次(『千年の愉楽』)の永山則夫への着目もこうしたモードの中にいて、グランギニョルな青春物語を展開しました。

 本作も小松川事件に着目し、犯罪の背景にあった孤独と疎外感を描きます。

物語世界

あらすじ

 語り手の二十歳の大学生の「僕」は「黄金の青春の時」に、黒人兵士と日系アメリカ人女性との間に生まれたハーフの「虎」、在日朝鮮人の呉鷹男とともに、スラヴ系アメリカ人で同性愛者のダリウス=セルベゾフの居所で共同生活していました。僕らはヨット「友人たち号」を建造して四人でアフリカに旅立つことを計画していました。

 ある日セルベゾフが少年誘拐、監禁事件を起こします。セルベゾフは保釈された後、国外退去となります。セルベゾフの資金に頼っていた「友人たち号」建造を諦めきれない僕らですが、うまくいきません。僕は喀血し、重度の結核だと判明して大学のサナトリウムに収容されます。銀行強盗を計画した「虎」は玩具の自動小銃とアメリカ兵の外套を手に入れ、横須賀の基地そばの酒場街で「虎」がそれらを身につけていると、米軍憲兵に見つかり射殺されます。

 残された呉鷹男は、朝鮮人集落に戻り暮らします。疎外感に苛まれる呉鷹男は、「authentique」な日常生活者の「他人ども」に対峙する「怪物」としての自分を夢想します。そして彼は、女子高校生の強姦殺人事件を犯します。呉鷹男は逮捕され、やがて死刑判決が確定します。僕はサナトリウムを退院し、呉鷹男と面会、黄金の青春の時の思い出を話し合います。

 僕のもとにセルベゾフから手紙が届きます。僕はセルベゾフに「虎」の死や呉鷹男の犯罪事件を伝える手紙を送ります。僕はセルベゾフの招きに応じて大学に退学届を出してからパリに向かいます。パリに到着した僕はOAS反対のデモで騒然とするバスティーユのキャフェでセルベゾフと面会します。二人きりになってしまった自分たちは独自の仕方で愛しあってゆかなければならない、とセルベゾフは口説きます。僕は自分の内奥にひびく、荒涼として痛ましい夜明けの叫び声をききます。それは呉鷹男と自分の恐怖の叫びのようでした。

参考文献

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)

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