始めに
スウィフト『ガリヴァー旅行記』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
風刺作家
スウィフトは古今論争(古典こそが至高か、現代が優れているか)において古典派を支持していました。サモサタのルキアノスは2世紀の風刺作家ですがら架空の旅行記を通じて社会を皮肉る手法は、後の『ガリバー旅行記』の直接的な原型と言われています。ホラティウスとユウェナリスはローマの詩人で、スウィフトの風刺には、ホラティウスのような滑稽な皮肉と、ユウェナリスのような激しい憤りの両面が混在しています。
ラブレーはフランス・ルネサンス期の作家で、『ガルガンチュワとパンタグリュエル』で知られますが影響があります。。巨大な身体、猥雑なユーモア、そして学問や宗教に対する徹底的なパロディ精神は、スウィフトに大きな影響を与えました。
サー・ウィリアム・テンプルは作家というよりは政治家・外交官ですが、若きスウィフトが秘書として仕えた人物です。テンプルから政治の裏側や、明晰でバランスの取れた散文スタイルを学びました。また、テンプルの古典擁護の姿勢が、スウィフトの保守的な思想の土台となりました。
スウィフトは『桶物語』『書物合戦』などで作家として認められ、これはアレキサンダー=ポープやジョン=ゲイ、ジョン=アルバスノットなどとの交流をもたらします。そして結成されたスクリブレルス・クラブの核を形成しました。こうした作家同士のつながりもあり、風刺的な内容の作品を展開しました。
ピカレスク
本作はピカレスクのモードを踏まえる内容です。
ピカレスクはスペインの文学ジャンルで、特徴としては自伝的な記述の一人称で書かれます。社会的地位が低いアウトローの主人公が機転を利かせて立ち回る、小エピソード集の形式です。平易な言葉やリアリズム、風刺などがしばしば見えます。「悪漢小説」と訳されるものの、ピカレスクの主人公が重大な犯罪を犯すことは少なく、むしろ世間の慣習や偽善に拘束されない正義を持ったアウトローとして描かれやすいです。主人公は性格の変化、成長はあまりしません。
英文学はこのスペインの文学ジャンルを継承し、ダニエル=デフォーなどもその典型ですが、デフォー『ロビンソン・クルーソー』もそうしたピカレスクの様式を踏まえ、『ガリヴァー旅行記』はそれを継承しています。
トーリー党とアイルランド
スウィフトはイングランド系のアイルランド人で、トーリー党に共鳴しました。本作も対立政党のホイッグ党への対抗パンフレットとしての性質が濃厚です。
トーリー党政権の凋落のまえにスウィフトはイングランド教会への赴任を望んでいたものの、スウィフトがアン女王の友人のサマセット公チャールズ=シーモアの妻エリザベス=シーモアを戯詩『ウィンザーの予言』で激しく非難したため女王に妨害されます。その後スウィフトはダブリンの聖パトリック寺院の首席司祭に転任したのち、ホイッグ党の復帰で進路を閉ざされます。
失意のままアイルランドに帰り、本作をホイッグ党への当てつけとしてものしました。
各篇の風刺
第一篇
リリパット国の社会と政治体制は、18世紀のイギリスをもとにしていて、トーリー党を表す「高踵党」と、ホイッグ党を表す「低踵党」の2つの政党があります。
リリパット国は、2世代にわたり隣国のブレフスキュ国と交戦下にあり、ブレフスキュ国がフランスをもとにしています。戦争の理由は、卵の殻の剥き方についての意見の違いからでした。これはヘンリー8世よりはじまったイングランド国教会とカトリック教徒の諍いに基づいており、卵は復活祭のシンボルで、キリスト教を象徴します。「卵の大きな方」はカトリック教徒を表しており、「卵の小さな方」は国教徒を表しています。
このパートは特にラブレー『ガルガンチュアとパンタグリュエル』の影響をうかがわせます。
第三篇
ラピュータで扱われているテーマは王立協会とニュートンへの風刺です。
ここでスウィフトは、科学における啓蒙主義運動を批判し、科学のための科学ではなく、人間のための科学を志向しようとしました。
第四篇
馬の姿をした種族フウイヌムはエリート主義的かつ官僚的でカースト制度を保持しています。これによりイギリスの貴族制を風刺します。
またフウイヌムとそれに支配されるヤフーの関係はイギリスとアイルランドを連想させます。
物語世界
あらすじ
第一篇: リリパット国渡航記
最初の航海中、ガリバーは難破船で陸に流れ着き、身長が6インチ (15 cm) にも満たない小人の一族の捕虜となります。神話に登場する小人たちとよく似ており、彼らはリリパット島に住みます。
ガリバーは行儀が良いと保証され、リリパットに住居を与えられ、リリパット王宮廷の寵臣となります。またリリパット王から、臣民を傷つけないという条件で、街中を歩き回る許可も与えられます。
リリパット国の社会と政治体制は、18世紀のイギリスをもとにしていて、トーリー党を表す「高踵党」と、ホイッグ党を表す「低踵党」の2つの政党があります。
最初、リリパット人はガリバーを歓迎したものの、ガリバーの体の大きさが脅威となることを警戒していました。リリパット人は些細なことに重きを置いており、例えば卵のどちらの端を割るかが、その国に深い政治的亀裂をもたらす原因となりました。また権威の誇示や力の行使を喜びました。
ガリバーは、リリパット人が近隣のブレフスク人から艦隊を盗んで征服するのを手伝います。しかし、虐殺を拒否し、王と王室の不興を買います。
さらにガリバーは、火を消している最中に首都で放尿したなどの罪で反逆罪に問われ、有罪判決を受けます。親切な友人の宮廷の重要人物の助けを借りて、ブレフスクに逃げました。そこで、ガリバーは放棄された船を見つけて回収し、通りかかった船に救助され、連れていたリリパット人の動物たちとともに無事に家に戻りました。
第二篇: ブロブディンナグへの航海
ガリバーはすぐに再び出発します。帆船アドベンチャー号が嵐で進路を外れ、真水を求めて陸地を目指して航海を余儀なくされ、ガリバーは仲間に見捨てられ、北アメリカ大陸の西海岸の半島に取り残されました。
ブロブディンナグの草は木と同じくらいの高さです。ガリバーは、その後、身長約 72 フィート (22 メートル) の農夫に発見されました。
巨人の農夫はガリバーを家に連れて帰り、娘のグルムダルクリッチがガリバーの世話をします。農夫はガリバーを珍品として扱い、金のために展示します。しばらくすると、ガリバーは展示中に病気になり、農夫は王国の女王にガリバーを売ります。
グルムダルクリッチ は、この小柄な男の世話をするために女王に召し出されます。ガリバーは小さすぎるため巨大な椅子、ベッド、ナイフ、フォークを使うことができないため、女王はガリバーを運ぶための小さな家を建てるように依頼します。これは「旅の箱」と呼ばれています。
巨大なスズメバチと戦ったり、猿に屋根に運ばれたりするなどの冒険の合間に、ガリバーはブロブディンナグの王とヨーロッパの状況について話し合います。国王はイギリスの社会、戦争、司法、金融制度に関わるあらゆる事柄をガリヴァーから聞きます。火薬の製法を教示しようというガリヴァーの提案は、ブロブディンナグ国の国王を戦慄させ、人類はかつて地球上に置かれた最も哀れな種族だと受け止めます。
海辺への旅行中、ガリバーの旅行用の箱が巨大な鷲に奪われ、ガリバーと箱は海に落とされますが、船員に拾われてイギリスに連れ戻されます。
第三篇: ラピュタ、バルニバービ、ラグナッグ、グラブダブドリブ、そして日本への旅
再び出航したガリバーの船は海賊に襲われ、インド近くの荒涼とした岩だらけの島の近くに取り残されます。ガリバーはやがて空飛ぶ島ラピュタに助けられます。ラピュタは音楽、数学、天文学の芸術を重んじる王国ですが、それらを実用的に使うことはしません。ラピュタでは軍隊を使う代わりに、地上の反乱に岩を投げ落として鎮圧します。
ガリヴァーは、ラピュタから支配されている王国バルニバルビを、下級廷臣の客として巡り、実用的な成果のない科学の盲目的な追求によってもたらされた破滅を目の当たりにします。
バルニバルビのラガド大アカデミーでは、キュウリから太陽光線を抽出したり、枕に使うために大理石を柔らかくしたり、匂いで絵の具を混ぜる方法を覚えたり、疑わしい人物の排泄物を調べて政治的陰謀を暴いたりするなど、途方もない計画の研究に多大な資源と人材が投入されています。
ガリヴァーはまたラングデン(イングランド)の誰かに呼ばれてトリブニア(イギリス)を訪れたことにも触れています。その後、ガリヴァーはバルニバルビの主要港であるマルドナダに連れて行かれ、日本に連れて行ってくれる貿易商を待ちます。
船の到着を待つ間、ガリバーはバルニバルビの南西にあるグルブダブドリブ島に寄り道します。グルブダブドリブ島で、ガリバーは魔術師の住居を訪れ、歴史上の人物の幽霊と歴史について話します。幽霊には、ジュリアス・シーザー、ブルータス、ホメロス、アリストテレス、ルネ=デカルト、ピエール=ガッサンディなどが現れます。
ラグナッグ島で、不死の民であるストルルドブルグスに出会います。永遠の若さを持っているのではないので、老齢による衰弱に苦しみ、80歳で法的に死亡したとみなされます。
日本に到着した後、ガリバーは天皇に踏み絵を免除してほしいと願い、天皇はそれを受け入れます。ガリバーは帰国し、残りの人生をそこで過ごそうとします。
第4篇:フウイヌムの地への旅
ガリバーは家に残るつもりだったものの、外科医の仕事に飽きて商船の船長として海に出ます。この航海で乗組員が反乱を起こし、しばらくガリバーを監禁した後、最初に出会った陸地に置き去りにし、海賊となります。
上陸用のボートに置き去りにされたガリバーは、奇形で野蛮な人型の生き物に遭遇し、反感を抱きます。その後言葉を話す馬の種族であるフウイヌムに出会います。フウイヌムは支配者であり、人間に似たヤフーを従属させています。
ガリバーは馬の家の一員となり、フウイヌム族とその生活様式を賞賛し、見習うようになり、自分たち人間を、自然が与えた悪徳を悪化させる、理性的な面を持つヤフー族にすぎないと拒絶します。しかし、フウイヌム族の集会は、理性的な面を持つヤフー族であるガリバーを、文明にとって危険であると裁定し、ガリバーに、生まれ故郷の土地に泳いで戻るよう命じます。ガリバーを家に連れてきたフウイヌム族は、出発させてやるためにカヌーを作る時間をガリバーに与えます。
悲惨な航海の後、ガリバーはポルトガル船に救出されます。ガリバーは、自分がヤフー族だと思っていたペドロ=デ=メンデス船長が、賢明で寛大な人物であることに嫌悪感を抱きます。
ガリバーはイギリスの自宅に戻るものの、「ヤフー」たちの間で暮らすことに慣れず、隠遁生活を送って家にこもり、家族や妻を避け、馬小屋で馬と話をしながら一日に数時間過ごすようになります。




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