始めに
アラン=ルネ・ルサージュ『びっこの悪魔』(『悪魔アスモデ』)解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ルサージュの作家性
『びっこの悪魔』を書くにあたり、最も直接的なインスピレーション源となったのが、スペインの作家ゲバラです。ル・サージュの同名小説は、ゲバラの作品の翻案から始まりました。屋根を持ち上げて中をのぞくという独創的な設定はゲバラのアイデアです。ゲバラの原作が誇張されたバロック様式だったのに対し、ル・サージュはそれを当時のフランス社会に合うよう、より洗練された、鋭く写実的な風刺へと昇華させました。
ル・サージュの代表作『ジル・ブラース物語』に見られるように、彼はスペインのピカレスクの伝統を深く吸収していました。セルバンテス『ドン・キホーテ』における人間観察の深さと、旅を通じて社会を描く構造。マテオ・アレマン『グスマン・デ・アルファラーチェ』の社会の底辺から世の中を冷笑的に眺める視点。フランシスコ・デ・ケベードの風刺作品『夢』などに見られる、人間の醜悪さをグロテスクかつ滑稽に描く手法。
ル・サージュは小説家であると同時に優れた劇作家でもありました。そのため、フランス喜劇の父モリエールの影響を強く受けています。
17世紀の道徳家・作家であるラ・ブリュイエールの影響も見逃せません。人々の性格や奇癖を短文でスケッチするように描くラ・ブリュイエールの手法は、ル・サージュが『びっこの悪魔』の中で次々と市民の私生活をスケッチしていくスタイルに共通しています。
ピカレスク
根底にあるのは社会の偽善を暴くことです。悪魔アスモデが魔法で家の屋根を持ち上げ、人々の私生活を主人公に見せるという構成です。外向きの顔と、家の中での醜い本性や秘密の対比が描かれます。当時のパリの腐敗、強欲、不倫、虚栄心をマドリードに喩えて皮肉たっぷりに批判しています。
時代が変わっても変わらない、人間の滑稽な本質をテーマにしています。
物語世界
あらすじ
舞台はスペインのマドリード。若き学生ドン・クレオファスは、不法侵入の疑いで追われ、逃げ込んだ先である魔法使いの研究室に迷い込みます。そこで彼は、ガラス瓶の中に閉じ込められていた悪魔アスモデの助けを求める声を聞き、瓶を割って彼を解放します。
自由になったアスモデは、命の恩人であるクレオファスを街で一番高い聖救世主教会の塔の上へと連れて行きます。そこでアスモデは魔法を使い、マドリード中の家の屋根をすべて取り払ってしまいました。 外からは見えない家の中の様子が、まるで劇場のように二人の目の前にさらけ出されます。
クレオファスは、アスモデの解説付きで人々の私生活をのぞき見します。貞淑を装う婦人が、裏では浮気に励んでいる姿。敬虔な信者が、心の中で強欲な計算をしている様子。遺産を待つ親族が、病人の死を今か今かと待ちわびる醜い争い。アスモデは、人間の虚栄、嫉妬、情欲、そして偽善を次々と指摘し、社会の表の顔がいかに嘘で塗り固められているかを少年に見せつけます。
数々のエピソードを通じて人間社会の裏側を学び、冒険を終えたクレオファスは、最終的にアスモデと別れて現実の世界へと戻ります。彼は短い時間で、どの大学でも教えない人間の真実を深く理解することになったのです。




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