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シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』解説あらすじ

シャーリイ・ジャクスン
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始めに

 シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

シャーリイ・ジャクスンの作家性

​ ジャクソンは、アメリカ北東部の閉鎖性や悪の遍在を描く伝統を継承しています。ホーソーンの清教徒的な罪悪感、受け継がれる呪い、そして一見平穏な村に潜む闇を描く手法は、『くじ』などの作品に色濃く反映されています。ポーの内面的な狂気や崩壊してゆく家屋の象徴性は、『山荘綺談』などの心理的ホラーの土台となっています。


​ ​彼女は学生時代から広範な読書をしていました。​サミュエル・リチャードソン:は18世紀の書簡体小説の大家で、ジャクスンは彼を深く信奉しており、家庭内の詳細な描写や、閉鎖的な空間における人間関係の機微を捉える術を学びました。またジャクスンはフィッツジェラルドの流麗な散文に心酔しており、彼女の初期短編に見られる、冷徹ながらも洗練された文体にはその影響が見て取れます。『孤独な娘』などで知られるウエストの、グロテスクで冷笑的な視点や社会への違和感は、彼女の作品に漂う悪意の感覚と共鳴しています。


​ ​​ヘンリー・ジェイムズは特に『ねじの回転』に見られるような、信頼できない語り手や心理的な多義性は、ジャクスンが『山荘綺談』で突き詰めた手法の先駆けです。また同時代の作家ではボウエンを高く評価していました。日常の中に忍び寄る不気味なものや、家という場所が持つ心理的な重圧を扱う点において共通しています。


​ ​マーガレット・マレーは魔女宗に関する歴史研究者です。ジャクスンは膨大な魔術関連の書籍を所有しており、儀式や生贄、スケープゴートといったモチーフの理論的裏付けとして、これらの研究書を読み込んでいました。

閉鎖的世界

 主人公メリキャットにとって、ブラックウッド家は単なる住居ではなく、彼女のアイデンティティそのものを守るための聖域です。メリキャットが家の周囲に呪物を埋める行為は、外部という不浄なものから自分たちの純粋な世界を守るための魔術的な防衛策です。姉のコンスタンスとメリキャットの二人の世界は、外部の介入を許さない完結した円環を成しています。家を守ることは、この病理的とも言える密接な関係性を守ることと同義です。


​ ​ジャクスンの代表作『くじ』でも扱われたテーマですが、本作では村人という集団が放つ無自覚な残虐性が描かれます。村人がブラックウッド家に向ける憎悪は、単なる階級的嫉妬や過去の事件への恐怖だけでなく、異質な存在を排除することで自分たちの結束を確認する集団心理の現れです。終盤、村人たちによる略奪と放火を経て、家は物理的に破壊されますが、それによって外部との繋がりが完全に断絶され、姉妹のお城は精神的な完成を見ます。

語りの構造

 メリキャットの語りは、きわめて詩的で強固な論理を持っていますが、同時に深刻な認知の歪みを含んでいます。彼女は自分の思考や行為が現実を規定すると信じています。この意識のモデルが読者に共有されることで、読者はいつの間にか彼女の異常な論理の中に引き込まれていきます。殺人という大罪すら、彼女の主観においては自分たちの平和を乱す障害の除去という平坦な事実に置き換えられます。善悪の彼岸にある、純粋な主観性の恐ろしさが描かれています。


​ ​掃除、料理、庭の手入れといった日常の家事労働が、本作では聖域を維持するための儀礼として機能しています。本来、生命を維持するための料理が毒殺の手段となったことで、家庭という安全なはずの場所が、最も危険で不気味な空間へと変貌しています。最終的に、廃墟となった家の中で、壊れた食器を使い、外部から隔絶されて暮らす二人の姿は、世俗的な価値観からは悲劇ですが、彼女たちの主観においては至福として描かれます。

物語世界

あらすじ

 ​物語の語り手である18歳のメリキャット(メアリ・キャサリン・ブラックウッド)は、姉のコンスタンス、そして車椅子生活のジュリアン叔父さんと共に、村外れの大邸宅でひっそりと暮らしています。


 ​6年前、ブラックウッド家の夕食に出された砂糖に砒素が混入しており、両親、叔母、弟の4人が毒殺されるという惨劇が起きました。当時、料理を担当していたコンスタンスが容疑者として裁判にかけられましたが、証拠不十分で無罪となります。しかし、村人たちは今もなお彼女たちが犯人だと信じ、一家を忌み嫌い、激しい悪意を向けています。


​ ​外界との接触を避け、メリキャットが庭にお守りを埋めるなどの魔法的な儀式で守っていた姉妹の平穏は、従兄のチャールズの来訪によって破られます。​チャールズは親しげに振る舞いますが、その真の目的はブラックウッド家に眠る莫大な遺産でした。彼は家長のように振る舞い、ジュリアン叔父さんを蔑み、コンスタンスを家から連れ出そうと画策します。メリキャットは自分たちの聖域を侵すチャールズを激しく憎み、彼を追い出すための策を講じます。


​ ​ある夜、メリキャットがチャールズのパイプをゴミ箱に落としたことがきっかけで、屋敷に火の手が上がります。​駆けつけた消防隊によって火は消し止められますが、集まった村人たちの抑圧されていた悪意が爆発します。彼らは消火を助けるどころか、魔女を焼き殺せと言わんばかりに屋敷を破壊し、略奪の限りを尽くします。この混乱の中で、身体の弱っていたジュリアン叔父さんは息を引き取ります。


​ ​焼け落ち、屋根を失った屋敷の残骸の中で、メリキャットとコンスタンスは再び二人きりになります。​村人たちは、自分たちが犯した野蛮な行為への罪悪感と恐怖から、家の前に食べ物を供えて立ち去るようになります。屋敷はもはやお城というよりは廃墟ですが、メリキャットにとっては外部の人間が誰も入ってこない、完璧に守られた場所となりました。


 ​物語は、焼け残ったキッチンで二人が身を寄せ合い、メリキャットが満足げに告げる言葉で締めくくられます。​「ああ、コンスタンス、私たちは本当に幸せね」と。

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