始めに
テオドール・シュトルム『白馬の騎手』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
シュトルムの作家性
シュトルムの初期の詩作や、作品に漂う郷愁は、ロマン派の作家たちから強く影響を受けています。ヨーゼフ=フォン=アイヒェンドルフの自然描写と内面的な感情を融合させる手法を継承します。若き日のシュトルムはハイネの詩に傾倒し、簡潔ながらも感情に訴えかける表現を学びました。シュトルムにとって、同時代の詩人エドゥアルト=メーリケは、最も尊敬し、親近感を抱いた対象の一人です。二人は書簡を通じて深く交流し、互いの作品を批評し合いました。日常の何気ない風景に深い意味を見出す詩的リアリズムの精神を共有します。
ロシアの文豪ツルゲーネフとの出会いおよび彼の作品も、シュトルムの後半期の作風に影響を与えました。1860年代に二人は直接面会しており、シュトルムはツルゲーネフの心理描写の緻密さや静謐な悲劇性に共鳴しました。
親友であったポール=ハイゼとの交流もありました。
理想と共同体
主人公のハウケ=ハイエンは、数学的才能に溢れ、合理的な思考を持つ近代的な人間として描かれています。ハウケは科学的な根拠に基づき、より強固な堤防を築こうとします。村人たちは古くからの慣習に固執し、海を生贄を求める魔物のように恐れ、ハウケの革新を不吉なものとして拒絶します。新しい時代を切り開こうとする理知が、閉鎖的な共同体の迷信や妬みによっていかに孤立し、追い詰められていくかを描いています。
舞台となる北ドイツの海岸地方では、海は常に生命を脅かす脅威です。ハウケは堤防を築くことで自然を支配しようとしますが、最終的に自然は猛烈な嵐となって襲いかかります。ここには、人間の知恵や努力が、時として抗いがたい巨大な自然の力の前に屈服せざるを得ないという、自然の非情さが表現されています。
タイトルの意味
ハウケは正義感と使命感に燃えていますが、同時に非常にプライドが高く、他者を見下す傾向もありました。彼は自分の正しさを信じるあまり、村人との対話を軽視し、結果として誰からも理解されない孤独な存在となります。彼の悲劇は、単に迷信深い村人のせいだけではなく、彼自身の完璧主義や過信にも起因しています。これは古典的なギリシャ悲劇の構造に近いテーマです。
タイトルの白馬の騎手は、嵐の夜に現れる不吉な幽霊として村人に語り継がれています。ハウケが乗っていた痩せた白馬が、実は悪魔の化身ではないかと噂されます。優れた人間が、死後に伝説や怪談として人々の記憶に刻まれていくプロセスがあります。理性の人であったハウケが、皮肉にも最も嫌った迷信の一部になってしまうという皮肉が込められています。
物語世界
あらすじ
この作品も『みずうみ』同様枠構造です。「私」が、子供の頃に読んだ古い雑誌の記憶を回想します。その雑誌の中に書かれていた、ある旅人の手記で、旅人が嵐の夜、堤防の近くの宿屋に逃げ込みます。宿屋にいた学校の先生が、旅人に堤防にまつわる伝説(ハウケ・ハイエンの物語)を語り始めます。
ハウケ=ハイエンは、貧しい小農民の息子でしたが、数学に天才的な才能を持っていました。彼は北海の荒波を眺めながら、今の堤防の形ではいつか決壊する。もっと緩やかな傾斜の、科学的な堤防を作るべきだという確信を抱きます。彼はその才能を認められ、村の堤防監督官(ダイヒグラーフ)の助手として働くようになります。
ハウケは監督官の娘エルケと愛し合うようになり、監督官の死後、彼女と結婚して自らも監督官の地位に就きます。その頃、ハウケは痩せさらばえた不思議な白馬を安値で買い取ります。村人たちは、あの馬は死んだ馬が生き返った悪魔の化身だと噂し、ハウケを魔術を使っていると不気味がるようになります。
ハウケは合理性を重んじ、古くからの迷信を信じる村人たちを軽蔑していました。そのため、彼は村の中で次第に孤立を深めていきます。
ハウケはついに、自分の理想とする新型の堤防の建設に着手します。しかし、村人たちは新しいことをすると海の神が怒る、人身御供(生贄)が必要だ、と反対して、建設を妨害しようとします。ハウケはそれらを力でねじ伏せ、ついに強固な堤防を完成させました。
数年後、かつてないほど巨大な嵐が村を襲います。ハウケが作った新型の堤防はびくともしませんでしたが、村人たちが管理を怠っていた古い堤防がついに決壊します。
その混乱の中、ハウケの妻エルケと幼い娘を乗せた馬車が、濁流に飲み込まれてしまいます。最愛の家族を目の前で失ったハウケは、絶望の叫びを上げます。「主よ、私だけを召し上げ、他の者たちは助けたまえ!」と。彼は自ら白馬に跨り、激流渦巻く堤防の割れ目へと飛び込み、波間に消えていきました。
嵐が去った後、ハウケの作った新しい堤防は村を救いました。しかし、村人たちの間では今でも嵐の夜には、海に向かって駆け抜ける白馬の騎士の幽霊が現れるという伝説が語り継がれるようになります。




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