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ジャン・ラシーヌ『べレニス』解説あらすじ

ラシーヌ
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始めに

ジャン・ラシーヌ『べレニス』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ラシーヌの作家性

 ラシーヌの師は、古代ギリシャの詩人たちです。​エウリピデスはラシーヌが最も深く傾倒した作家です。『アンドロマック』や『フェードル』など、彼の代表作の多くがエウリピデスの劇をモデルにしています。劇の構成や緊密なプロット、そして運命の不可避性という点において、ソポクレスの劇作術を理想としていました。


​ ​ラシーヌは幼くして孤児となり、厳格なカトリックの一派であるジャンセニスムの拠点、ポール=ロワイヤルで教育を受けました。師たちの教えである人間は堕落しており、神の恩寵なしには救われないという決定論的な人間観は、ラシーヌの描く欲望に抗えず破滅していく登場人物に色濃く反映されています。


 ​当時のフランス演劇界の巨匠たちからも、対抗心を含めた強い影響を受けています。コルネイユは当時の演劇界の第一人者です。ラシーヌは、コルネイユの意志の力で困難を乗り越える英雄というスタイルに対し、情熱に負けて自滅する等身大の人間を描くことで、独自の地位を確立しようとしました。


 ​セネカはローマの哲学者・劇作家で、残酷で情熱的な悲劇の文体も、ラシーヌの激しい感情表現の参考になっています。

​『べレニス』の悲劇性

​ ローマ皇帝は外国の女王を妻にしてはならないという鉄の掟があります。ローマ皇帝となったティテュスは、心から愛するパレスチナの女王ベレニスを王妃にしたいと願いますが、皇帝としての責務を守るためには、彼女を捨てなければなりません。結局、ティテュスは愛よりも国家と自己の栄光を選びます。


 『ベレニス』では誰も死にません。​しかし、愛し合っている二人が、お互いを愛したまま、義務のために永遠に別れなければならないという生きたままの決別こそが、死よりも残酷で崇高な悲しみとして描かれます。
​ 
 ​物語の終盤、ベレニスの態度の変化がこの劇の格調を決定づけます。最初はティテュスの決断に絶望し、激しく抵抗するベレニスですが、最終的に彼の苦悩を理解し、自ら身を引くことを決意します。​彼女が最後に放つ「さようなら」という言葉には、運命を受け入れ、高潔に去っていく人間の尊厳が込められています。

物語世界

あらすじ

 ローマ皇帝ヴェスパシアヌスが亡くなり、息子ティテュスが新皇帝に即位します。パレスチナの女王ベレニスは、ティテュスと5年来の恋仲であり、彼が即位すればようやく結婚できると信じて疑いません。彼女は幸福の絶頂にいました。

 ​一方、ティテュスの親友である国王アンティオキュスも、実は密かにベレニスを愛し続けていました。彼は二人の結婚を確信し、絶望してローマを去る決意をします。しかし、去り際にベレニスへ長年の想いを告白しますが、彼女に冷たくあしらわれてしまいます。


​ ​皇帝となったティテュスを待っていたのは、過酷な現実でした。ローマの元老院と民衆は外国の女王を妃に迎えることを絶対に許しません。ティテュスは激しい葛藤の末、愛を捨て、ローマ皇帝としての義務を取ることを決意します。


 ​しかし、彼は自分ではベレニスに別れを切り出すことができません。あろうことか、恋敵であるアンティオキュスを呼び出し、「私の代わりに、彼女に『国へ帰れ』と伝えてくれ」と頼んでしまいます。


​ ​アンティオキュスから別れを告げられたベレニスは、激しく動揺します。彼女はティテュスを直接問い詰めますが、ティテュスの苦渋の表情を見て、ついに真実を悟ります。


 ​ベレニスは、愛を裏切るなら死ぬとティテュスを脅し、ティテュスもまた、彼女が死ぬなら自分も皇帝の座を捨てて自害すると言い出します。二人は極限状態の心理戦を繰り広げます。


​ ​最後には、三人が一堂に会します。ベレニスは、ティテュスの涙と彼の真剣な苦悩を目の当たりにし、彼の皇帝としての名誉を守るために、自ら身を引くことを決意します。


​ ​ベレニスはパレスチナへ帰り、ティテュスはローマに残り、アンティオキュスもまた去っていきます。三人が二度と会うことのない孤独へと歩き出すところで幕が降ります。

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