始めに
コレット『気ままな生娘』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
コレットの作家性
ウィリー(ヘンリー=ゴーティエヴィラール)は最初の夫であり、コレットにペンを取らせた張本人です。当時の流行作家、プロデューサーであり、コレットに少女時代の思い出を書けと命じました。母シドはコレットの文学においてインスピレーションの源です。『シド』や『わが母の家』に描かれる母の姿は、彼女の倫理観や審美眼の土台となっています。
またコレットはバルザックを非常に崇拝しており、彼の写実主義から多くを学んだと言われています。「欲望」「金銭事情」「物」に対する緻密な描写は、バルザック的な写実主義の流れを汲んでいます。
プルーストはライバルであり、友人でもありました。ほかにピエール=ロティは当時のフランスで人気を博した、エキゾティズム漂う作家で影響を受けました。
主人公の成長
主人公のミンヌが、少女から一人の女性へと成長する過程で、自分の肉体的な充足や快楽をいかにして見出すかが中心に据えられています。当時としては非常にスキャンダラスかつ先駆的なテーマでした。
ミンヌは幼い頃から、自分を連れ去ってくれる王子様や危険な情事に憧れを抱いています。夜の街の不良や情熱的な愛への夢と従兄アントワーヌとの結婚生活や退屈な日常。 この二つの間で揺れ動きながら、最終的に彼女が本当の満足をどこに見出すのかが描かれています。
原題の L’Ingénue libertine が示す通り、純真な少女でありながら、奔放な欲望を秘めているという二面性がテーマです。社会が女性に求める清楚さと、内側に秘めた生々しい欲望を隠すことなく肯定しようとします。
この小説は、コレットの処女作『クローディーヌ』シリーズの成功を経て、彼女がより心理描写を深めていった時期の作品です。単なるロマンス小説ではなく、女性が自分の身体の主権を取り戻すプロセスを描きます。コレット独特の、植物や動物、あるいは肌の質感を思わせる瑞々しい文体も大きな魅力です。
物語世界
あらすじ
パリのブルジョワ家庭で育つ美少女ミンヌは、退屈な日常に飽き足らず、新聞の三面記事に出てくるような暗黒街の首領や危険な恋人に強い憧れを抱いています。
彼女はある夜、家を抜け出して、自分が夢想する縮れ毛の美男子(ならず者の首領)を探しにパリの夜の街へと繰り出します。しかし、そこで遭遇したのはロマンティックな冒険ではなく、寒さと薄汚れた現実、そして得体の知れない恐怖だけでした。結局、彼女は何の成果もなく家へ連れ戻されます。
成長したミンヌは、従兄のアントワーヌと結婚します。アントワーヌは彼女を深く愛していますが、ミンヌは彼との夜の生活に全く喜びを見出せません。
愛の快楽というものが存在するはずだと信じている彼女は、それを求めて他の男性たちと不倫を重ねるようになります。しかし、どの愛人も彼女を満足させることはできず、彼女は肉体的な不感症と、精神的な虚無感にさいなまれていきます。彼女にとって、現実の男性たちは、かつて夢見た王子様の足元にも及ばない退屈な存在でした。
物語の結末で、ミンヌに転機が訪れます。ある夜、彼女はついに夫アントワーヌの腕の中で、これまで追い求めても見つからなかった本物の快楽を経験します。
遠くの幻想や、危険な情事の中に答えがあると思っていた彼女は、実は自分を心から愛し、尊重してくれる夫との間にこそ、真の充足があることに気づくのです。こうして彼女は、彷徨える気ままな生娘から、一人の成熟した女性へと脱皮を遂げます。




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