はじめに
大岡昇平『萌野』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
ロマン主義などの影響
大岡は傾向としては英米文学とフランス文学からの影響が顕著です。
特にスタンダールに影響されました。そのダイナミックな描写力は大岡に継承されています。本作も『パルムの僧院』のような戦争文学です。またスタンダール『パルムの僧院』を高く評価したトルストイ『戦争と平和』(大岡も高く評価した作品)のような、文豪と呼ぶにふさわしい筆力が特徴です。
他にもゲーテ、芥川、漱石などから影響をうけました。ゲーテ的なロマン主義者の筆力と、芥川や漱石にも似た、モラリスト的な主知主義が大岡の特徴です。
ただここまで褒めてきましたが、筆力はあるものの、似たようなフランス文学をルーツとする三島由紀夫などと比べると構成力はあまり高くなく、そのため「野火」みたいな虚構性の強いものよりも、『俘虜記』『萌野』のような自伝的で虚構性、物語性の低いもののほうが秀でています。
あと卒論がジッド(『田園交響楽』『狭き門』)でメタな形式的実験に興味があるものの、そういう方面でも優れず、そのベクトルでは石川淳と大差ないです。
伝記的背景
「萌野」とは大岡の孫の名前で、長男夫婦がニューヨーク滞在中に儲けた女の子です。
1972年4月8日、大岡は長男が出産するという知らせを受けて渡米します。
ちょうどこの頃、川端の自殺が1972年4月16日にあって、衝撃を受けたことが綴られています。そこから三島の自殺のことも回想されていきます。自身にも迫る死と、自殺について考察します。
最後には萌野が生まれ、その子が二重国籍になるので、日本かアメリカのどちらかを選ばなくてはいけないことが示唆されます。自身の老いや盟友たちの死の体験から、新しい世代の誕生日へのまなざしがうまれています。
またオンタイムであったベトナム戦争のことにも感慨が綴られます。
ほかにもキューブリック監督『時計じかけのオレンジ』、コッポラ監督『ゴッドファーザー』を鑑賞したときのことが書かれています。
物語世界
あらすじ
1972年4月8日、大岡氏はニューヨークの長男が出産するという知らせを受けて渡米します。
長男が子供の名を「萌野」とすることで揉めます。大岡はこの名が気に召さず、こんな名前の子は俺の孫じゃないといって別れます。しかしそのあと、タクシーのなかで激しく後悔します。ニューヨークに来てから、長男夫婦に対する苛立ちがあり、口をついたのでした。
ホテルに着いて「ニューヨーク・タイムス」の朝刊を見て驚きます。川端康成の自殺があったとのことでした。すると間もなくホテルにある雑誌社からこの件に関して何か書いてくれという電話がありました。しかし氏は「何も書けない」と断わります。詳細もまだわからないのに書くことは出来ません。
さらに語り手の大岡は三島由紀夫のことを思い出します。やはりあの時も応えることができませんでした。「鉢の木会」という作家の集まりがあり、大岡も三島も参加していました。大岡が『花影』を書いた時も、三島が認めてくれたのでした。三島の死から得た感慨として、文学者は言葉を武器とすべきで、他のどんな手段にもよるべきではないと思うのでした。
最後には萌野が生まれ、その子が二重国籍になるので、日本かアメリカのどちらかを選ばなくてはいけないことが示唆されます。




コメント