はじめに
イシグロ『浮世の画家』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
セルバンテス、ドストエフスキー流のバロック喜劇。サヴォイオペラ、バーレスク
イシグロのステレオタイプがもたらすグロテスクな笑いは、イシグロが私淑したドストエフスキー(『罪と罰』『悪霊』)などのロシア作家に加え、それに影響したセルバンテス(『ドン=キホーテ』)、セルバンテスを水源とするバーレスクやサヴォイ=オペラを連想させます。
たとえばサヴォイ=オペラの代表作『ミカド』のように、誇張されたエスニシティ、ステレオタイプを駆使してグロテスクな風習喜劇が展開されます。
語りの構造
この本は小野という等質物語世界の、信頼できない一人の語り手のみによって展開されていきます。過去に罪を犯してしまった語り手の不誠実な語りとしての内容は、特に『遠い山並みの光』『日の名残り』と近いです。
小野の物語は、過去のあれこれへの否認が特徴です。全体的に真相に関する重要なことがあいまいにしか語られないので、解釈していくよりありません。小野の犯した罪は、プロパガンダへの協力と、警察への密告ですが、そのあたりについてはかなりぼやかして語ります。
たとえば、小野の絵画に関する説明は絵画技法に焦点を当てて、プロパガンダ的な主題には言及しようとしません。とはいえこれも、小野自身の罪悪感や自己正当化などに由来するものなのか、大戦当時からそういう風にプロパガンダ的なテーマ性を透明にするファシズム的空気の感化を受けていたせいなのかは、わかりません。
また小野が警察の密告者としての活動の結果に関して語るとき、警察の残虐行為を抑えて語ります。このあたりも罪悪感や自己正当化の感情などが読み取れるものの、正確なところはわかりません。
物語世界
あらすじ
第二次世界大戦が近づくにつれ、将来有望な浮世画家であった小野は、浮世画の表現において美的理想を目指す師匠の教えから離れます。小野は極右政治に関与し、プロパガンダ的な芸術を作り始めるのでした。
後に、内務省文化委員会の委員および非国民活動委員会の公式顧問として、小野は警察の密告者となり、元教え子の黒田に対するイデオロギー的魔女狩りに積極的に参加しました。1945年の敗戦と大日本帝国の崩壊後、小野は「国を誤った方向に導いた」「裏切り者」のして信用を失います。一方、かつて小野自身が非難した人々を含む国家弾圧の犠牲者たちは復権し、普通の生活を送ることを許されます。
参考文献
・「ノーベル文学賞 カズオ・イシグロが語った日本への思い、村上春樹のこと」.文春オンライン.2017/10/06.
・新井潤美『不機嫌なメリー=ポピンズ』(平凡社.2005)



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