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大江健三郎『日常生活の冒険』(64)解説あらすじ

大江健三郎
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はじめに

大江健三郎『日常生活の冒険』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

伊丹十三の自殺、トリックスター

 本作は義理の兄である伊丹十三の自殺を描いています。ただ、本作は『取り替え子』などとは異なり、伊丹十三が自殺するよりも前に書かれた作品でした。

 そのため本作は予言書めいてもいますが、そもそも本作で伊丹十三の自殺を描いたのは、そのような兆しを実際の観察から推察していたからであろうと思います。

 伊丹十三という存在はギー兄さんなどの名前で大江健三郎作品にしばしば現れるのですが、結局、伊丹十三は大江健三郎にとって、繊細でちょっと脆いところのあるバッドボーイなトリックスターでありつづけたのだと思います。

伊丹十三とロキ

 大江健三郎には、伊丹十三を神話のロキと重ねる部分があります。ロキは北欧神話のトリックスターで、既存の秩序を撹乱し、変身などを通じて神のコミュニティにおいてさまざまな役回りを演じます。また、捕縛されて拷問されるなど、受難者としてのイメージもあります。

 本作でも伊丹十三であるところの犀吉は、最初スエズ戦争の義勇兵志願の高校生として登場し、その後、新進映画俳優、夜警、バンタム級ボクサーのパトロン、演劇集団の立ち上げなど、次々と職業や立場を変えます。しかし何をやっても完遂できず、そのために自殺します。

 寺山修司にも並ぶポップスターでありつつ、器用貧乏で繊細な人柄が、ここに伺えます。ロキのようにさまざまなフィールドで立ち回りつつも、クリエイターとしては今ひとつ線が細い印象のある伊丹の悲劇を描いています。

自死より前の伊丹十三の死

 伊丹十三の死のモチーフは本作以外にも、伊丹の生前からしばしば見受けられます。『懐かしい年への手紙』なども、伊丹十三の死を描くものです。

物語世界

あらすじ

 語り手「ぼく」のもとに、北アフリカから手紙が届きます。手紙は「ぼく」の友人の斎木犀吉の情人のイタリア人夫人M・Mからのものです。犀吉が現地のホテルで自殺したということです。

 犀吉は根本的なモラルについて瞑想する哲学的なモラリストでした。同時に犯罪者的な素質も持っていました。

 彼は多現実世界のなかで自由に冒険し、遂に北アフリカまでたどり着きました。

 犀吉は最初、スエズ戦争の義勇兵志願の高校生として登場し、その後、新進映画俳優、夜警、バンタム級ボクサーのパトロン、演劇集団の立ち上げなど、次々と職業や立場を変えます。しかし何をやっても完遂できず、そのために自殺します。

 「ぼく」は自殺の報を受けてもやや信じられず、狂言なのではないかとも想像します。

参考文献

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)

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