始めに
アイザック=アシモフ『鋼鉄都市』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
アシモフの作家性
『タイム・マシン』や『宇宙戦争』で知られるウェルズを、アシモフはSF界における最大の巨星として尊敬していました。社会的な視点と科学的なアイデアを融合させる手法に影響を受けています。スペースオペラの父と呼ばれるエドワード・E・スミスの作品から、銀河規模の壮大なスケール感を受け継ぎました。スタンリー・G・ワインボウム『火星のオデッセイ』に衝撃を受け、それまでのSFに登場した単なる怪物ではない、独自の論理で動く知的なエイリアンの描き方に影響を受けました。
ジョン・W・キャンベルは伝説的な雑誌『アスタウンディング・サイエンス・フィクション』の編集者で、彼との議論の中から、有名なロボット三原則が磨き上げられ、『ファウンデーション』シリーズの構想も生まれました。
アシモフの作風は、SF以外のジャンルからも強く規定されています。エドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』は『ファウンデーション』シリーズの直接的なモデルです。銀河帝国の崩壊と再建という構想は、ギボンの描いた歴史的変遷から着想を得ています。
アシモフは熱烈なミステリファンであり、自身もミステリを執筆しています。SFに論理的な謎解きの要素を持ち込む手法は、クリスティらの本格ミステリからの影響が色濃く反映されています。
P.G. ウッドハウスはイギリスのユーモア作家で、アシモフはその軽妙な文体とユーモアを愛し、自身の随筆や物語のトーンに取り入れました。
ロボットとの共存
ロボット嫌いのベイリがダニールと協力するうちに偏見を克服していく過程を通じて、人間とロボットは対立するものではなく、パートナーになれると描いています。結末でベイリがダニールと腕を組んで歩く場面がその象徴です。
地球人はロボットに仕事を奪われることを恐れ、中世主義者のような反ロボット運動が生まれています。この偏見こそが今回の殺人事件の根本原因でもありました。アシモフは悪いのはロボットではなく、恐怖から生まれた人間の偏見だと訴えています。
地球の人口爆発により、人々は鋼鉄都市に閉じ込められ、外の世界を恐れるようになっています。物語はこの閉塞した社会を打破するためには宇宙移住しかないというメッセージで締めくくられます。
ラストでダニールが悪を滅ぼすことより、悪を善に変えることの方が大切だと語る場面があり、犯人への寛大な扱いを主張します。これはロボットが単なる機械を超えた道徳的存在として描かれる印象的な瞬間です。
物語世界
あらすじ
舞台は3000年後の未来。地球の人々は鋼鉄都市と呼ばれる巨大な地下都市に住み、ロボットは地上の農場や鉱山で働いています。「スペーサー」と呼ばれる別の人類グループは、太陽系外の50の惑星に植民しており、長寿で豊かな生活を送り、ロボットを積極的に活用しています。一方、地球は人口過密に悩まされています。
物語の冒頭、ニューヨーク市警の刑事イライジャ「ライジ」・ベイリは、スペーサーのロボット科学者サートンがスペースタウンで射殺されたという事件の捜査を命じられます。犯人は地球人と思われています。
両陣営の政府は、外交関係の崩壊や暴動・戦争を防ぐため、この事件を迅速かつ内密に解決する必要がありました。ベイリはロボット嫌いにもかかわらず、スペーサーのロボットR・ダニール・オリヴォーと組んで捜査することを命じられます。
捜査の中でベイリは何度も見当違いの推理をしてしまいます。ダニールが実はサートン本人ではないかと疑ったり、ダニール自身が犯人だと考えたりするが、いずれも否定されます。また、妻が秘密結社中世主義者に関わっていることも発覚します。
やがて二人は、この殺人事件が地球の権力者によって仕組まれたものであることを突き止めます。ロボットの普及による大量失業を恐れた者たちが、反ロボット暴動を引き起こそうと企てたのでした。事件解決を通じてベイリは大きく成長し、人類が地球の人口過密を乗り越えるためには、スペーサーの計画に協力して宇宙への移住を推進する必要があると悟ります。
犯人はエンダービー警視総監でした。スペースタウンは厳重に管理されており、普通は凶器を持ち込めません。そこでエンダービーはロボットのR・サミーに命じ、ドームの外の田舎を通って凶器のブラスターをスペースタウンまで運ばせました。この地域は監視が手薄で、地球人はほぼ誰も立ち入りません。エンダービー自身は正規の入口からスペースタウンに入り、サミーから凶器を受け取って犯行に及び、終わったらすぐサミーに返却しました。これにより凶器はスペースタウン内で発見されることはありません。またサミーはなぜ凶器を運ぶのかを知らされていなかったため、ロボット三原則の第一条に違反したことにもなりません。
エンダービーは犯行への緊張から無意識に眼鏡を拭いてしまい、誤って落として壊してしまいました。そのため視力が落ち、被害者のサートンと、サートンそっくりに作られたロボットのR・ダニールを見分けられませんでした。つまり本来の標的を確認できないまま殺してしまった可能性があります。
ベイリは犯人を特定し、事件を解決します。 物語の結末でベイリは、スペーサーたちが地球人を再び屋外の土地で生活させる計画を立てていることに気づきます。これは人口過密という地球の危機を救うために不可欠なステップでした。ベイリはこの取り組みに協力することを決意し、彼の内面的な変化を象徴する場面で物語は幕を閉じます。




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