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ローラ・インガルス・ワイルダー『大草原の小さな家』解説あらすじ

ローラ・インガルス・ワイルダー
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始めに

 ローラ・インガルス・ワイルダー『大草原の小さな家』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ローラ・インガルス・ワイルダーの作家性

​ 開拓時代の厳しい生活環境において、彼女が触れることのできた書籍は限られていました。それゆえに、数少ない蔵書が彼女の文体や価値観の基礎となりました。​ジェームズ=トムソンやテニスン、ロングフェローは父チャールズが愛読し、朗読して聞かせた詩人たちです。これらの詩の持つリズムや叙情性は、後に彼女が自然描写を行う際の文体的な素養となりました。​ジョン=バニヤン『天路歴程』は当時のアメリカ開拓民の家庭で聖書の次に読まれていた作品ですがら困難を乗り越えて進む旅という構造は、『大草原の小さな家』シリーズ全体のプロットに強い影響を与えています。またキング・ジェームズ版聖書は、彼女の簡潔かつ格調高い散文の源流です。過剰な装飾を排し、事実を淡々と積み重ねるリアリズムの精神は、聖書的なナラティブから受け継がれたものです。


​ ​ローラが作家として成功した最大の要因の一つは、娘であるローズ・ワイルダー・レーンの存在です。ローズは当時、すでにベストセラー作家であり、ジャーナリストとして活躍していました。ローラが書いた初期稿は、事実の羅列に近い備忘録的なものでした。ローズはそこに、現代的なプロット構成や劇的なテンポ、そして心理的な陰影を加えました。ローズは強いリバタリアニズムの持ち主であり、彼女の影響によって、物語には個人の自立や政府の介入への抵抗といったテーマが、フロンティアスピリットとして強調されることになりました。


​ ​ローラが執筆を開始した1930年代は、アメリカ文学において郷土愛やリアリズムが再評価されていた時期です。​サラ・オーン・ジュエットやウィラ・キャザーは、同じ中西部の開拓地を舞台にした女性作家たちの系譜に位置づけられます。特に、自然の厳しさと美しさを等価に描くキャザー的な視点は、ローラの作品にも通底しています。

リバタリアニズム

 テーマは、エマーソン的な自己信頼です。衣食住のすべてを自分たちの手で作り上げるプロセスが詳細に描かれます。これは単なる生存技術の記録ではなく、外部に依存しない自由の獲得を意味しています。荒野という無秩序な空間に対し、丸太小屋という秩序ある空間を維持しようとする家族の意志が描かれます。母キャロラインが持ち込む磁器の人形やアイロンがけは、野蛮に飲み込まれないための文明の象徴です。


​ ​物語は、常にここではないどこかへ移動し続ける父さんと、定住を望む母さんの対立軸を孕んでいます。鉄道が敷かれ、町が形成される過程は、利便性をもたらす一方で、父さんが愛した手つかずの自然を破壊するプロセスでもあります。 執筆当時の読者にとって、この物語は古き良き、自立したアメリカへの回帰という、一種のナショナル・ミソロジーとして機能しました。

自然との闘い

 ワイルダーの描写における自然は、決して愛でるだけの対象ではありません。美しい花々や広大な草原を描く一方で、イナゴの襲来、猛吹雪、火災、病といった、人間を容赦なく排除しようとする圧倒的な力としての自然が描かれます。空腹や寒さ、肉体労働の疲弊が極めて即物的に描かれる点は、当時の児童文学としては異例のリアリズムであり、生存の厳しさを浮き彫りにしています。


 ​近年の研究では、娘ローズ・ワイルダー・レーンによる編集が、物語に強い政治的・文学的な方向性を与えたことが指摘されています。実際には一家は何度も困窮し、借金に苦しみましたが、物語の中では勤勉であれば道は開けるというリバタリアニズム的な色彩が強められています。 先住民との遭遇シーンでは、当時の白人開拓民の限界ある視点がそのまま描かれており、現代の視点からはマニフェスト・デスティニーの残酷な側面を検証するテキストとしても読み解かれます。

物語世界

あらすじ

 物語は、ウィスコンシンの深い森にある丸太小屋から始まります。ここでは、親族に囲まれた自給自足の円満な生活が描かれます。しかし、父さんの開拓者の本能により、一家は幌馬車で西を目指します。ミズーリ川を渡り、インディアン居留地であったカンザスの大草原に家を建てますが、政府の政策変更により立ち退きを余儀なくされるという、国家と個人の摩擦が早くも描かれます。


​ ​次に一家はミネソタ州のプラム・クリークのほとりに落ち着きます。 麦の豊作を期待して贅沢な家を建てますが、未曾有のイナゴの大群の襲来により農作物は全滅。父さんは出稼ぎに出て、一家は極貧生活を経験します。猩紅熱により、聡明な姉が視力を失うという悲劇が一家を襲います。これが、ローラが姉の目として風景を言葉で描写する、語り手として自覚する重要な転機となります。


​ ​一家はさらに西のサウスダコタへ移動し、鉄道建設のキャンプを経て、シルバー・レイクのほとりに定住します。記録的な猛吹雪により鉄道が遮断され、町全体が飢死の危機に瀕します。小麦粉をコーヒーミルで挽いて食いつなぐ、極限状態のサバイバルが克明に描かれます。少女だったローラは、家計を助けるために15歳で教員免許を取り、寄宿生活を送りながら教師として働き始めます。


​ ​内向的なローラは、青年アルマンゾ・ワイルダーと出会います。彼の操る馬車でのドライブを経て二人は結ばれ、新たな小さな家での生活が始まるところで物語は幕を閉じます。

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