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エサリッジ『当世風の男』解説あらすじ

エサリッジ
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始めに

 エサリッジ『当世風の男』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

エサリッジの作家性

 エサリッジに最も深い影響を与えたのは、彼が亡命生活を送っていたフランスの劇作家モリエールです。エサリッジは、当時のイギリス演劇の主流だったドタバタ劇的な要素を抑え、モリエールが得意とした性格の喜劇や洗練された場面構成をイングランドの文脈へと持ち込みました。これが後の王政復古期における風習喜劇の雛形となりました。


​ イギリス国内の伝統的な影響としては、ベン=ジョンソンによる気質喜劇の系譜や、ジョン=フレッチャーが描いた機知に富む対話のスタイルが挙げられます。エサリッジはこれらを融合させ、より都会的で冷笑的な社交界のやり取りへと昇華させました。


 ​また、特定の作家という枠を超えて、フランスのプレシユ文学やサロン文化、そして彼自身の友人でもあったロチェスター伯爵のような放蕩者たちの実生活そのものが、彼の作品における人物像や倫理観に決定的な影響を及ぼしています。特に代表作『当世風の男』の主人公ドリマントは、ロチェスター伯爵をモデルにしていると言われるほど、当時のリアルな社交界の空気を反映していました。

道徳と機知

 テーマは、機知が社会的な権力として機能する世界の冷徹な描写にあります。この作品の舞台となる王政復古期のロンドン社交界では、道徳的な正しさや誠実さよりも、いかに他者を出し抜き、洗練された言語感覚で場を支配できるかが個人の価値を決定する尺度となっています。


 ​中心的なテーマの一つは、社交界という舞台におけるパフォーマンスと真実の乖離です。主人公ドリマントは、複数の女性を同時に翻弄しながらも、常に自らの冷徹な理性を保ち続けるリバティンの象徴です。彼にとって恋愛は情熱の対象ではなく、自らの卓越性を証明するためのゲームであり、戦略的な征服に他なりません。ここでは、愛という高潔な感情が、パワーバランスや自尊心の充足という極めて即物的な力関係へと解体されています。

偽物と本物

 また、この作品は本物の洗練と滑稽な模倣の対比を鋭く描き出しています。タイトルロールでもあるサー=フォプリング=フラッターは、フランス風の流行を過剰に追い求めるフォップ(気取り屋)として登場し、ドリマントの自然で計算し尽くされたエレガンスとは対照的な、中身のない記号としてのファッションを体現しています。ここには、当時の社交界におけるアイデンティティの危うさと、外見的記号への病的なまでの執着が反映されています。

 ヒロインであるハリエットとの関係を通じて、知性による均衡というテーマが浮上します。彼女はドリマントのウィットを見抜き、彼と同じ土俵で渡り合うことで、彼を単なる捕食者の地位から引きずり下ろします。

物語世界

あらすじ

 舞台は17世紀、王政復古期のロンドン社交界です。物語の主人公は、洗練された機知と冷徹な知性を併せ持つ放蕩児のドリマントです。​物語は、ドリマントが現在の愛人であるラビット夫人との関係を清算しようと画策する場面から動き出します。彼はラビット夫人を嫉妬させ、自ら去らせるために、別の女性ベリンダを利用して彼女を公然と辱めます。しかし、ドリマントが真に心を奪われるのは、田舎から出てきたばかりの若く美しい相続人ハリエットでした。彼女は他の女性たちとは異なり、ドリマントの甘い言葉の裏にある不誠実さを即座に見抜き、彼と同等、あるいはそれ以上の鋭いウィットで彼を翻弄します。


 ​この中心的な恋愛模様に並行して、ドリマントの友人である若きベレアとエミリアの純粋な恋の行方が描かれます。ベレアの父である老ベレアは、息子をハリエットと結婚させようとしますが、実は自分自身がエミリアに懸想しているという滑稽な対立が生まれます。また、作品のタイトルロールでありながら狂言回し的な役割を担うサー=フォプリング=フラッターが登場し、フランス帰りの過剰に気取った振る舞いで周囲の失笑を買いながら、当時の社交界の虚飾を体現します。


​ 終盤、ドリマントはハリエットを追い詰めたつもりでいながら、逆に彼女の知性に屈服する形で、彼女を追って嫌悪していた田舎へ行くことを承諾します。放蕩児が初めて一人の女性に縛られる可能性を示唆しつつも、それが真の改心なのか、あるいはより高度な知のゲームの始まりなのかという曖昧さを残したまま終わります。

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