始めに
ブコウスキー『くそったれ! 少年時代』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ブコウスキーの作家性
ジョン=ファンテはブコウスキーにとっての「神」であり、最大の恩人です。ロサンゼルス中央図書館でファンテの『塵に問え』を見つけて衝撃を受けました。俗語、自伝的な語り、滑稽さと哀愁を継承します。
セリーヌの影響も顕著です。代表作『夜の果てへの旅』に見られる、反俗精神と皮肉、そして口語的世界は、ブコウスキーの文体の核となりました。
クヌート=ハムスン 『飢え』は、極限状態にある人間の心理描写や、プライドと惨めさの板挟みになる姿から感化を受けます。
ブコウスキーは後にヘミングウェイを批判することもありましたが、初期の短編におけるハードボイルドからは多大な影響を受けています。他にもドストエフスキー、ツルゲーネフに示唆を受けました。
少年時代の孤独
主人公のヘンリーは、家庭でも学校でも、そして社会全体からも切り離された存在です。思春期に彼を襲った凄まじいニキビは、彼をさらに醜悪な異分子として際立たせます。これは単なる肌荒れではなく、彼と世界の間の壁の象徴です。スポーツ、友情、恋愛といったまっとうな青春の輪に入れないことで、彼は独自の冷笑的な視点を手に入れます。
ブコウスキーは、当時のアメリカが掲げていた努力すれば報われるという神話を真っ向から否定しています。ヘンリーの父は失業していることを隠し、隣人に見栄を張るために毎日仕事に行くふりをします。この中産階級への執着が、家庭内での暴力や抑圧を生んでいきます。大恐慌という背景の中で、富める者と貧しい者の対比が残酷に描かれ、ヘンリーは社会のシステムそのものに不信感を抱きます。
ヘンリーの成長
この作品において、父親は絶対的な暴君として君臨します。些細な理由で繰り返される虐待は、ヘンリーに権威に対する憎悪と痛みに対する麻痺を植え付けます。殴られることでしか世界と繋がれない悲劇が、後の彼の荒んだ生活態度へと繋がっていきます。
苦痛に満ちた現実から逃れるために、ヘンリーが選んだのは何も期待しないことと酒でした。 何かに熱狂することを軽蔑し、あえて負け犬のポジションに留まることで、彼は誰からも傷つけられない聖域を作ろうとします。物語の終盤で彼が図書館で見つける文学や、初めて口にする酒は、残酷な世界を生き抜くための唯一の武器になります。
物語世界
あらすじ
物語は1920年代、大恐慌直前のロサンゼルスから始まります。ドイツ系の家庭に生まれたヘンリーは、失業の恐怖と見栄に憑りつかれた父親から日常的に虐待を受けて育ちます。
父親は近所に自分は成功していると思わせるため、仕事がない日もスーツを着て出かけ、家では些細な理由でヘンリーをベルトで殴り続けます。この時期、ヘンリーは大人は嘘つきで、世の中は理不尽な暴力に満ちているという教訓を骨の髄まで叩き込まれます。
中学から高校にかけて、ヘンリーをさらなる地獄が襲います。顔や体に凄まじい大粒のニキビが噴き出したのです。その見た目の凄惨さから、彼は周囲から化け物扱いされ、さらに深い孤独へと追い詰められます。病院での治療もまた苦痛に満ちたもので、太い針で膿を絞り出されるような日々。この経験が、彼を自分は普通の人間たちの輪には一生入れないという確信へ導きます。彼は鏡を見るのをやめ、周囲の視線を軽蔑という盾で跳ね返すようになります。
高校生になったヘンリーは、スポーツや恋愛に興じる同級生たちを冷ややかに眺めながら、自分なりの生き残り方を見つけます。初めて飲んだ酒が、現実の苦痛を麻痺させてくれることを知ります。偶然入り浸るようになった図書館で、シンクレア・ルイスやドストエフスキーなどの文学に触れ、自分と同じように世界を呪っている奴らが他にもいたことに救いを見出します。
物語の終盤、第二次世界大戦が勃発します。世の中が愛国心に沸き、若者たちが戦場へ向かう中、ヘンリーは冷めたままです。彼は大学を中退し、職を転々としながら、安宿で酒を飲み、社会の底辺を漂い始めます。世間が求める立派な市民になることを完全に放棄し、負け犬としての自分を誇り高く受け入れるところで物語は幕を閉じます。




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