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ブレヒト『ガリレイの生涯』解説あらすじ

ベルトルト=ブレヒト
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始めに

 ブレヒト『ガリレイの生涯』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ドイツ表現主義

 ブレヒトはドイツ表現主義を代表する作家です。フランク=ヴェーデキント、ゲオルク=ビューヒナー、エルヴィン=ピスカトールなどからの影響が大きく、全体的にリアリズム、バロックな発見的機知などをそこから継承します。

 加えて、マルクス主義からの影響が大きく、テーマ性はそこからの影響が大きいです。

叙事演劇

 ベルトルト=ブレヒトは叙事演劇を提唱しました。これは複数芸術である演劇において、具体的な事例を成立するプロセスに関する演出理論です。複数芸術とは、ビデオゲームや演劇など、観客の直接の経験となる事例の創造になんらかの手続きを必要とし、また事例が複数ありうる芸術ジャンルです。それと対照的なのが事例が一つに固定された単数芸術で、小説、映画、絵画、彫刻など多くの芸術をはらむものです。

 そして、ブレヒト叙事演劇は演劇において戯曲や演出に対して俳優が抱く違和感や態度を、演出に取り入れようとするものと言えます。

 ブレヒトの叙事演劇は、俳優が与えられた役になりきるのではなくて、それに対する違和感や相対的な意識を演技に取り入れ、それによって観客の側にも、周知の存在が新しいかたちで発見されたり伝統的なあり方を問い直されるという効果(=異化)を生むことにありました

 本作も、そのようなコンセプトで、論争的なテーマをはらんでいます。

権力と科学

​ 作品の最も表面にあるテーマは、望遠鏡が見せた客観的な事実と、教会が守ろうとする伝統的な教義の衝突です。教会にとって、地球が動くことは単なる天文学の否定ではなく、聖書に基づく社会秩序の崩壊を意味しました。ガリレイが望遠鏡を覗かせようとしても、学者たちはアリストテレスの書物に書いていないという理由で拒絶します。

 劇中では新しい時代が来たという言葉が繰り返されます。中世から近代へ移り変わる中、人々は自分たちが世界の中心ではないという事実に戸惑います。科学がもたらすはずの自由が、現実の政治や経済の中でどう歪められるかが描かれています。

 ​ブレヒトが描くガリレイは、清廉潔白な聖人ではありません。彼はうまい食い物を愛し、自分の生活のために他人の発明を盗用し、物理的な痛みに屈します。この弱さがあるからこそ、彼の犯した沈黙という罪が、観客にとってよりリアルで重いものとして響きます。


​ ​ブレヒトはこの劇を何度も書き直していますが、特に第二次世界大戦後の改訂では裏切りのテーマが強調されました。 ガリレイは拷問を恐れて自説を撤回します。劇の終盤、ガリレイは自分を科学の裏切り者と断罪します。科学が権力者に媚び、民衆を置き去りにすれば、科学はただの新兵器や抑圧の道具になり下がってしまうという警告です。

版による相違

 1938年版のブレヒトは、ナチスの検閲をかいくぐって活動する抵抗派を勇気づけるため、真理を広めるためには、一時的に屈服してでも生き延びる知恵が必要だという肯定的な描き方をしていました。この時点でのガリレイは、教会を騙した勝者でした。

​ 1947年版(アメリカ版)以降では、​1945年の原爆投下を見て、ブレヒトの考えは180度変わります。科学が権力から独立した倫理を持たないと人類を滅ぼすと痛感したからです。 終盤、ガリレイが弟子アンドレアに語る言葉が自己弁護から自己批判へと変わりました。ガリレイが説を撤回した瞬間、科学は民衆のためのものではなく、権力者のための道具に成り下がったのだ、と厳しく描かれるようになりました。

 ​どの版でも、最後に密かに書いた原稿を弟子に託す展開は同じですが、その意味合いが違います。​初期はこれで真理は守られたという希望、​後期は科学の成果だけは渡すが魂を売った犯罪者だという絶望的な孤独がえがかれます。
 

物語世界

あらすじ

​ 17世紀のイタリアを舞台に、一人の天才の発見と挫折を描いています。​数学者ガリレイは、貧乏な生活を送りながら研究に明け暮れていました。彼はオランダで発明された望遠鏡の噂を聞き、それを自作・改良します。望遠鏡で夜空を覗いた彼は、木星の衛星や金星の満ち欠けを発見し、コペルニクスが唱えた地動説が紛れもない事実であることを確信します。


​ ​より良い研究環境を求め、ガリレイは保守的なトスカーナ大公の宮廷へ移ります。しかし、彼の発見はキリスト教の教義である地球こそが宇宙の中心であるという天動説を根底から覆すものでした。


 ローマ教会は彼の説を異端とみなし、調査を開始。ついには地動説を教えてはならないという禁止令が出されます。ガリレイはその後、8年間にわたり沈黙を守ることになります。


​ ​科学に理解のある人物が新教皇ウルバヌス8世として即位したことで、ガリレイは再び研究を再開します。彼は民衆にも伝わるイタリア語で、地動説を証明する著作を出版しました。


 しかし、これは教会の権威を揺るがす大事件へと発展。ガリレイは異端審問所に召喚されます。激しい拷問の道具を見せられた彼は、恐怖に耐えきれず、民衆の前で自説が間違いであったと撤回してしまいます。


​ ​自説を否定したガリレイに対し、英雄としての死を期待していた弟子のアンドレアたちは絶望し、彼を激しく罵ります。英雄のいない国は不幸だ、と嘆く弟子に対し、ガリレイはこう答えます。「いや、英雄を必要とする国が不幸なのだ」と。


 晩年、教会に監視されながら隠居生活を送るガリレイのもとに、成長したアンドレアが訪れます。ガリレイは密かに書き上げていた集大成の書『新科学対話』を彼に託しました。ガリレイは自らを科学を裏切った男と蔑みながらも、真理の火を次世代へと繋いだのでした。

 

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