始めに
本谷『生きてるだけで、愛。』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
語りの構造
本作は等質物語世界の語り手の板垣寧子を設定します。
上京して入学したデザイン専門学校を早々と中退した板垣寧子は、様々な男性と付き合いを繰り返しては別れていました。22歳の時にアルバイト先の本屋で開かれていた飲み会で出会ったのが、雑誌編集者の津奈木景で、彼の自宅に転がり込み、一夜を共にして同棲しました。
寧子はうつ病のようで、慢性的に倦怠感があって情緒不安定です。また双極性障害か境界性パーソナリティ障害を疑わせる極端な気分の浮き沈みがあります。
物語はそんな彼女の視点から、景の元交際相手の安堂のストーカーと社会復帰に悩むなかでの孤独と2人の恋愛の危機、そして再生が描かれます。
タイトルの意味
タイトルの意味はよくわかりません。とはいえなんとなく雰囲気を伝えてはいます。
寧子は最後、バイト先を脱走し、津奈木を携帯電話で呼び出して、マンションの屋上で待ち合わせます。津奈木が駆け付けた時には、雪の降り出した真冬の屋上に寧子は全裸でいました。
この全裸でいた、という展開が寧子の情緒不安定さの象徴でもあり、ありのままの自分をさらけ出すということの象徴と読み取れます。
生きてるだけで精一杯の寧子は、生きているだけで愛してくれる存在を求めていて、そんな自分の傲慢で情緒不安定な性分に嫌気もさしています。
けれども、景は受け止めてくれて、最後は二人の関係の再生を予感させます。
物語世界
あらすじ
上京して入学したデザイン専門学校を早々と中退した板垣寧子は、様々な男性と付き合いを繰り返しては別れていました。
22歳の時にアルバイト先の本屋で開かれていた飲み会で出会ったのが、雑誌編集者の津奈木景です。恋人と別れたばかりの寧子は、酒の勢いで津奈木の自宅に転がり込み、一夜を共にして同棲します。
以後3年間寧子は無職でしたが、編集長となった津奈木は仕事が多忙なために殆ど家に帰りません。
寧子が最近になって思い出すのは、実家の母の紗登子のことです。引きこもり、年中布団の中で「気分が悪い」と臥せっていました。
ある日突然に津奈木の留守中に知らない女性が上がり込んできて、寧子は近所の喫茶店まで連れて行かれます。安堂と名乗る女はかつての津奈木の恋人で、彼が編集長に出世したと聞いて復縁を迫りに来たようです。
安堂は悪態をついた末に津奈木への口止めを念押しして店を出ます。
その日以来安堂は毎日のように津奈木と寧子が同棲しているマンションに押しかけて、インターフォンを連打して、罵声を浴びせます。
寧子は津奈木に相談しますが、締め切りが迫っているため、相手にしてくれません。
いつものように夕方に目を覚ました寧子がコンビニに行くと、安堂に駅前のイタリアンレストランへ拉致されます。職が見つからないために津奈木と別れることが出来ないと言う寧子に、安堂はこのレストランで働くことを提案します。
寧子が「トラットリア・ラティーナ」でアルバイトを始める気になったのは、お店の雰囲気が親しみやすかったからです。オーナーは暴走族あがりの青年、ホール担当はオーナーの妻のミズキ、ウェイトレスはミズキの友達リナ、厨房で料理を作っているのはオーナーの父親と母親と、家族経営です。
仕事終わりにはスタッフが集まって、鍋料理と酒で寧子の歓迎会をします。
しかし寧子が彼らに違和感を覚えたのは、「ウォシュレットが怖い」という彼女の言葉に誰ひとり賛同してくれなかった時です。
場違いなところに来たことを感じた寧子は、店のトイレを破壊し、逃げ出します。
バイト先を脱走した寧子は津奈木を携帯電話で呼び出して、マンションの屋上で待ち合わせます。
津奈木が駆け付けた時には、雪の降り出した真冬の屋上に寧子は全裸でいます。
自分のコートを脱いで寧子の肩にかけた津奈木は、安堂を無視したまま自室に戻ります。
冷え切った身体を温めようとしてエアコンとコタツのスイッチを入れた瞬間に、ブレーカーが落ちて部屋の中は真っ暗闇になります。
扉への激しい殴打とチャイムを聴きながら寄り添う寧子と津奈木は、もう1度やり直せる気がします。




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