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本谷『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』解説あらすじ

本谷有希子
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始めに

 本谷『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

南部ゴシック?

 本谷の世界は南部ゴシックと重なります。

 南部ゴシックとは南部の封建的な因習や文化の残る土地の中での実践を描く作品で、代表格はフォークナーで、それに先駆けてポーやホーソン、メルヴィルのゴシック文脈があります。国内では深沢七郎(『楢山節考』)や中上健次(三部作[1.2.3])が日本版南部ゴシック、ゴシックを展開しました。

 本谷の作品はそのような地方を舞台にすることが多く、田舎の共同体の閉鎖的な逼塞感を背景にドラマが展開されていきますが、本作も同様です。

姉と妹

 本作は和合清深とその姉澄伽のエゴのぶつかり合いを描きます。

 和合清深は、漫画家を目指していて、実は陰では姉を馬鹿にしていてモデルにして漫画にしています。最後もそれによって賞を取って成功します。

 澄伽は病的に自己中心的で、女優を目指していますがうまくいかず、周りの人間も破滅に導きます。

映画版との違い

 映画版とはラストの展開が違います。以下は映画版のラストです。

 残された澄伽は、清深から返された小森宛の手紙を全て破り、待子も楽しそうにそれを手伝います。その後、澄伽は清深の後を追い、バスから逃げ出した清深は、田んぼで澄伽に捕まり、2人は泥だらけになって格闘します。そして澄伽は「漫画にするならちゃんと最後まで見なさい」と言います。2人は泥だらけのまま、一緒に東京行きのバスに乗ます。車内で眠った姉の姿を、清深はスケッチし、清深の描いた澄伽の寝顔は、美しいのでした。

 このように映画はなんだかんだで大団円を迎えます。

 他方で小説版では、澄伽が世界を呪って、人形に金槌を打ちつづけ、物語を締めくくります。正直、こちらのほうが澄伽に対する制裁としてしっくりくる終わり方で、澄伽のせいで宍道が亡くなったりしているので、ハッピーエンドもどうかなと思います。

物語世界

あらすじ

 北陸の山深い田舎町。高校3年生の和合清深は、両親がトラックに轢かれてなくなる凄惨な現場にショックを受けます。

 葬儀の日。兄の宍道と妻の待子は、清深を気遣います。亡くなった両親は再婚同士で、宍道は母親の連れ子です。清深と姉の澄伽は父親の連れ子で、宍道とは血の繋がりがありません。

 東京で暮らしている澄伽は、葬儀が終わった頃に帰ってきます。澄伽は女優志望の派手な女性で傲慢です。しかし、宍道も清深もなぜか澄伽に頭が上がらず、彼女の言いなりです。

 澄伽は、4年前に東京へ出てから仕送りをもらっていました。働き手の両親が亡くなり仕送りを続けられそうにないため、澄伽は激怒していました。父親の遺産を出せと宍道に迫ります。宍道は、父親の借金で遺産は消えたことや、炭焼きの収入だけでは生活するのもやっとであることを説明しますが、。澄伽は引き下がりません。

 雑誌を見ていた澄伽は、海外で映画賞を受賞した小森哲生という映画監督のインタビュー記事を読みます。小森は、新進気鋭の映画監督として将来を期待されており、次回作のヒロインとなる新人女優を探していました。小森が「手紙」に興味を持っていると知った澄伽は、早速彼に手紙を書きます。

 小森の連絡先を知るために芸能事務所に電話をかけた澄伽はクビを言い渡されます。澄伽は、芝居も下手で性格も最悪だと業界内で噂でした。またサラ金業者から借金もしていました。

 自力で小森の連絡先を探すため、澄伽はこの町で唯一パソコンのある文具店へ向かいます。澄伽は小森の住所を調べ、真っ赤なレターセットを購入して帰宅します。

 4年前。高校生だった澄伽は、東京へ出て女優になることを父親に反対され、親子喧嘩を繰り返していました。ある晩、父親から才能がないと言われ、激昂した澄伽は、ナイフを振り回します。その際、止めに入った宍道の額を傷つけ、このことは家族だけの秘密でした。

 中学生だった清深は、そんな姉を密かに観察し、澄伽をモデルにしたホラー漫画を描きます。

 姉をこれで傷つけた清深は深く反省するものの、澄伽は許しません。澄伽は、女優として芽が出ないのは、あの漫画のせいだと不条理なことを言って、清深をいじめ続けます。


 澄伽は、小森に自分を売り込むため、写真を同封して手紙を出します。退屈していた澄伽は、すぐに2通目の手紙も出し、自分をアピールします。

 ある日、石森から待望の返事が届きます。石森は澄伽に興味を示し、文通を続けたいと書いてありました。

 澄伽はその後、清深を熱湯風呂に入れて虐待します。宍道が止めたので、大事には至らなかったものの、澄伽の妹いじめは、エスカレートします。清深は、心配する宍道に、自分が悪いから仕方がないと話します。

 4年前、「女優になれないなら死んだほうがマシ」と言って、自暴自棄になっていた澄伽を、宍道は一生懸命励ましました。澄伽が自分にとって必要な存在であると語ると、澄伽は宍道にキスして、「お兄ちゃんは一生私だけを必要とすること」と約束させます。宍道は誘惑に負けて澄伽と肉体関係を持ち、生真面目にその約束を守っていました。

 澄伽の妹いじめに歯止めが効かなくなってきた頃、石森から「映画のヒロインとして出演を申し込みたい」という手紙が届きます。

 待子は、宍道と本当の夫婦になるため、自ら彼を襲います。最初は頑なに拒んでいた宍道ですが、2人はついに結ばれます。

 小森とのコネもできたので、澄伽はさっさと東京へ帰りたくなります。澄伽は疲れている宍道に、仕送りを続けるよう執拗に迫り、待子に注意されます。澄伽は、待子の変化を鋭く見抜き、宍道が待子を抱いたのだと悟ります。

 真夜中、澄伽は宍道と2人きりになり、彼を誘惑します。澄伽は宍道の喉元にカッターを突きつけ、「私以外の女とやったでしょう」と、兄を責めます。

 その後、ストレスと過労による高血圧性心疾患で宍道はなくなります。

 宍道まで亡くなり、和合家には澄伽と清深、そして待子の女3人が残されます。そんな和合家に、東京の出版社から郵便物が届く。密かに投稿していた清深の漫画がグランプリを受賞し、ホラーコミック雑誌に掲載されたのでした。今度の漫画は、澄伽が女優を諦めるという内容でした。清深は全てを打ち明け、東京へ行って漫画家になると宣言します。

 澄伽に、清深は、いかに澄伽が痛々しいかを語ります。小森宛の手紙も、郵便局でバイトしていた清深が全て配達前に回収していて、澄伽に届いた小森の返事も、清深が書いていていました。清深に「女優の才能はない」と断言され、澄伽は逆上し、清深をナイフで刺します。しかし、それはイタズラ用のおもちゃで、清深は無傷でした。清深はそんな澄伽を嘲笑います。

 すべてに絶望した澄伽が世界を呪って、待子に諭されるまま、人形に金槌を打ちつづけ、物語を締めくくります。

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