始めに
今村夏子『星の子』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
今村の作家性
今村夏子は小川洋子の影響が大きいです。
小川洋子は傾向としてはモダニズムからの影響が大きく、川端、太宰、立原、金井美恵子、大江、春樹、オースター、ブローティガンなどをこのみ影響されました。金井美恵子『愛の生活』が、『妊娠カレンダー』など、初期には特に影響が大きいです。日常を冷徹な観察のまなざしで見つめ、グロテスクな様相を浮かび上がらせる手法が共通します。川端の幻想的世界からの影響も大きく、『雪国』的信頼できない語り手は初期から得意とします。
今村夏子もそのような信頼できない語りと、日常の不穏を得意とします。
集合行為における一個のアクターの視点から描く心理劇
本作品とコンセプトとして重なるのは漱石『こころ』やロブグリエ『嫉妬』、谷崎潤一郎『卍』『痴人の愛』、芥川『藪の中』、フォークナー『響きと怒り』、リンチ監督『ブルー=ベルベット』と言えます。集合行為における一部のアクターを語りの主体にしたり、または一部のアクターにしか焦点化をしないために、読者も登場人物と同様、作中の事実に不確かな認識しか得られるところがなく、限定的なリソースの中で解釈をはかっていくことしかできません。
本作は語り手はちひろという少女です。ちひろは虚弱児で、そこから両親は新興宗教「星の子」にのめり込みます。やがて、カルトを拒んで姉まさみは高校の時に家出します。ラストは「星の子」の年に一度の研修旅行が行われ、結局ちひろが教団を抜け出るのか逃げられないままなのか分からないまま暗示的なラストを迎えます。
成長する少女の視点から家庭の不穏を描く作品にはジェイムズ『メイジーの知ったこと』などもありますが、ちひろはあちらよりも情緒の成長が幼くて、より信頼できない語り手です。
物語世界
あらすじ
虚弱児としてこの世に生を受けたちひろのため、両親は病院を駆け巡る日々でした。生後半年、ひどい湿疹がちひろの肌に現れます。
生命保険会社のサラリーマンだった父親が、職場で零した相談に、同僚の落合さんが「水を変えてみては」とすすめます。
両親は落合さんからもらった「金星のめぐみ」という水を、ちひろの体に塗布します。こうして、ちひろの湿疹は治ります。
「金星のめぐみ」に感動した両親は落合さんにも心酔し、落合さんが入信している新興宗教にものめりこみます。
ある日落合さんの家に招かれたちひろ一家ですが、両親とちひろは大喜びするものの、姉のまさみだけはつまらなさそうです。
訪問の際、落合さんに、口をきくことのできない息子がいると知らされます。
しかし、彼が実は喋れることに気が付いたちひろで、帰り際にちひろを睨み付け、「誰にも言うなよ」という暗黙のメッセージを息子は送ってきました。
小学生になったちひろには、友達ができません。宗教一家のせいであの家の子と遊ばないようにと言われることもありましたが、ちひろ自身も浮いた存在で、周囲よりずいぶん幼い印象を与えるのでした。
体の弱いちひろを心配するあまり、両親は親離れせず、異常に親子の仲が良いのも友達を遠ざけます。
そんなちひろに初めてできた友達が「なべちゃん」です。転校生で、物怖じしない少女です。
ある日、ちひろと姉のまさみをかわいがってくれている、母親の弟である雄三おじさんが家を訪ねてきて、家にしのびこんで「金星のめぐみ」をすべて公園の水道水と入れ替えたと告白します。
「目を覚ましてくれ」と訴える雄三おじさんを、激怒して両親は追い返します。
小学校高学年になったちひろは、相変わらず学校では浮いています。
両親はいつしか仕事を辞め、教団からの紹介先で働き始めます。奉仕の対象も宗教団体へと変わっていきます。
家も次第に小さいものに引越しますが、高校生になった姉のまさみが、家を出ていきます。最後までカルト宗教に馴染めなかったせいです。家出の前日、両親の洗脳を解くために雄三おじさんに協力していたのは、実は姉だったということを知ります。
時は流れ、中学3年のちひろに好きな人が出来ます。大好きな俳優に似た南先生という若い男性教師です。
ちひろは南先生のプロフィールを集め、先生の似顔絵を描きます。
ある日クラス活動で帰りが遅くなったちひろとなべちゃんたちを、南先生が車で家まで送ってくれます。
家の近くまで来たとき「へんなのがいるから車から降りるな」と南先生が慌てて引き留めます。
南先生が指さしたのは、緑のジャージを着て公園のベンチに腰かけたちひろの両親です。ちひろは初めて喋れないふりをしていた落合さんの息子の気持ちを理解します。
翌日、南先生に昨日の不審者は自分の両親だと告げるちひろですが、それから南先生はちひろにきつい態度をとるようになります。ちひろは、他者から見た自分たちの姿を初めて知ります。
親戚の法事の日、一人で出席したちひろ。
久しぶりに会う雄三おじさんと、いとこのしんちゃんから、高校生になったら家を出て、おじさんの家から高校に通わないかと誘われます。
おじさん一家は、ちひろが両親と距離をとったほうがいいといい、何度も自宅に説得にきます。
中学3年生の冬、宗教団体「星の子」の年に一度の研修旅行が行われます。ちひろは両親と参加し、同じ学校の同級生、春ちゃんは、信者ではない交際相手を研修旅行に連れてきます。
研修中、「宣誓の時間」という信者たちが舞台上で宣言を表明するイベントで、春ちゃんの彼氏は「好きなひとが信じる者を、一緒に信じたい」と宣言します。
夜、高原に散歩に出たちひろと両親は、一緒の瞬間に流れ星を見ようと空を見上げるものの、タイミングがあいません。ちひろの見ている星を両親は見ておらず、両親の見ている星をちひろは見つけられません。
その夜、3人はいつまでも星空を眺めるのでした。



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