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スターン『トリストラム・シャンディ』解説あらすじ

ローレンス=スターン
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始めに

 スターン『トリストラム・シャンディ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロマン主義的形式実験

 スターンに大きな影響を与えたのはラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』です。そのユーモアとヒューマニズムは、スターンに大きな影響を与えています。

 また17世紀と18世紀の代表的な思想家や作家への言及を多くはらみます。アレクサンダー=ポープとジョナサン=スウィフトは大きな影響を与え、ポープとスウィフトの風刺は本作も継承します。

 他にもセルバンテス、モンテーニュ『エセー』、『憂鬱の解剖』 、スウィフト『書物の戦い』、『マルティヌス・スクリブレスの回想録』へのオマージュや引用が見えます。

 またセルバンテスの影響も顕著です。ロシナンテなど登場人物やセルバンテスへの言及、そして『ドン=キホーテ』第2部に大きく影響を受けたメタフィクションとしての構成などに影響が見えます。

ピカレスク小説

 本作はピカレスクのモードを踏まえる内容です。

 ピカレスクはスペインの文学ジャンルで、特徴としては自伝的な記述の一人称で書かれます。社会的地位が低いアウトローの主人公が機転を利かせて立ち回る、小エピソード集の形式です。平易な言葉やリアリズム、風刺などがしばしば見えます。「悪漢小説」と訳されるものの、ピカレスクの主人公が重大な犯罪を犯すことは少なく、むしろ世間の慣習や偽善に拘束されない正義を持ったアウトローとして描かれやすいです。主人公は性格の変化、成長はあまりしません。

 本作に影響した『ドン=キホーテ』もこのジャンルの様式を多く兼ね備えていて、ストーリーは一応一続きで大きな流れはあるものの、小エピソードが連続する形式です。騎士道物語のパロディとして風刺的内容になっていて、ドン=キホーテは異端者でありアウトサイダーではあるものの、うちに秘めた正義は本物です。主人公が機転を働かせたりして引き起こすドタバタが繰り返されます。

 本作も同様で、一人称的自伝形式をとっていて、風刺を孕むエピソード集のスタイルです。

ロックの認識論

 この小説は、ジョン=ロックの経験主義を下敷きにします。

 ロックは生得論をとらず観念が発生する以前の心の状態が白紙(タブラ=ラーサ)であるとしました。あらかじめ感性のうちに存しなかったものは、知性のうちになく、観念はすべて経験に由来するとしました。外界からの感覚現象とそれへの心理的作用により観念は発生し、それを悟性が統合します。観念には「単純観念」とそれを組み合わせた「複合観念」があり、観念の連想的な関連で任意の観念が自然に他の観念を呼びおこし心に現前させる種類の結合は観念連合といいます。

 このロックの認識論を踏まえて、観念連合的な連想により物語は綴られていき、ほとんど統一的なプロットを失い、脱線のなかで展開されていきます。

物語世界

あらすじ

 ヨークシャーの地主階級に属する紳士トリストラム=シャンディが、1718年11月5日に生まれた自分の半生を回想します。 

 完璧な自伝を目指すトリストラムは、人生の始まりを語るにあたって、誕生の瞬間ではなく、自分が精子の小人として射精される瞬間から語ろうとします。そのため話は脱線を重ねます。

 前半においては物語の中心人物はトリストラム本人より、その誕生に関わる父のウォルター=シャンディおよび叔父のトウビー=シャンディです。

 50代半ばのウォルター=シャンディはかつてレヴァント会社でトルコとの貿易に携わり、今は引退してヨークシャーの屋敷にいます。古代ギリシア=ローマから現代の書物に触れて博識かウォルターは、書物から得た知識に基づき、自分の跡取り息子を神童に育てようとします。子どもは完璧に大きな鼻を持ち、完璧な名前を持ち、完璧な教育を受ける必要があると考えました。

 しかしウォルターが子どもの分娩のために選んだ産科医スロップは、うっかり赤ん坊の鼻をつぶします。ウォルターは生まれた息子のためにヘルメス=トリスメギストスにちなんで「トリスメジスタス」という完璧な名前を選ぶものの、女中が複雑な名前を覚えられないために、息子は誤って「トリストラム」(「悲しみ・憂鬱」)と名付けられます。

 さらにウォルターは息子を教育するためのマニュアル『トリストラピーディア』(トリストラム百科事典)を執筆するものの、執筆している間に息子は勝手に成長します。

 ウォルターの弟トウビー=シャンディは退役軍人であり、兄の屋敷の居間で過ごします。かつて大尉として従軍したナミュール包囲戦で股間に重傷を負い、退役しました。トウビーは見舞客に包囲戦を物語ろうとするのものの、話に築城術の専門用語が頻出するために話を完全に理解してもらうことができず、トウビーは苦悩します。

 地図を使って視覚的に説明することを思い付いたトウビーは、ナミュールの地図を築城術的に研究するものの、見舞客への説明という目的は忘れ去られ、城郭都市の地図のコレクションを作って築城術の研究に没頭します。

 やがてトウビーは包囲戦をよりリアルに追体験したくなります。トウビーの部下のトリム伍長は、屋敷の庭の一角に城郭都市の巨大な模型を作り、2人で包囲戦を完璧に再現することを提案します。

 それ以来トウビーとトリムは、進行中のスペイン継承戦争で行なわれている包囲戦を新聞報道に基づいて再現しようとし、城郭都市や大砲などのミニチュア制作と、庭に築いた城郭都市での包囲戦ごっこに熱中します。

 しかし1713年のユトレヒト条約で戦争は終結し、再現する包囲戦がなくなります。落胆するトウビーに、隣家に住む妖艶な未亡人ウォドマン夫人が接近します。やがて彼女への愛に目覚めたトウビーは、求婚しようとトリムとともにウォドマン夫人の屋敷に向かいま。しかし理想の夫を求めていたウォドマン夫人は、トウビーに惹かれながらも、トウビーは夫としての身体的機能を果たすことができるのか不安です。

 トリストラム自身も、重大な苦境にあります。完璧な自伝を目指して、自分の人生に関わることを連想するまま書き連ねる文章はいっこうに終わりません。ベストセラーとなった『トリストラム=シャンディ』も巻を重ねるなかで売上げが落ちていきます。

 次第にトリストラムは、作者ローレンス=スターンの分身のようになっていきます。作者自身と同様に結核を病んで体力を消耗していくトリストラムは、ついに死神の訪問を受けます。しかし陽気な笑いの力によって死神を追い払い、さらに追ってくる死神から逃れるために、イギリスを離れてフランスからイタリアへと旅します。

 話はスターンの死により、未完のまま終わります。

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