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フランク・ヴェーデキント『パンドラの箱』解説あらすじ

フランク・ヴェーデキント
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始めに

フランク・ヴェーデキント『パンドラの箱』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ヴェーデキントの作家性

 ビューヒナーは​ヴェーデキントに最も決定的な影響を与えた一人です。ビューヒナーの代表作『ヴォイツェク』に見られる、断片的でエピソード的な構成や、社会の底辺に生きる人間を冷徹かつグロテスクに描く手法を継承しました。


​ ​ヴェーデキントはニーチェの思想、特に生の肯定や既存道徳の打破に強く共鳴しました。キリスト教的な禁欲主義や、ブルジョワジーの偽善的な道徳を否定する姿勢です。彼の作品の根底には、本能や生命力を抑圧する社会への反抗があり、これはニーチェ的な超人思想やディオニュソス的なエネルギーの追求と重なります。


​ ​ドイツの詩人ハイネからも、その毒のあるウィットと風刺の精神を受け継いでいます。スウェーデンの劇作家ストリンドベリとは、同時代のライバルに近い関係でありつつ、強い影響を受け合いました。


​ ヴェーデキントは見世物小屋のような、生々しくエネルギッシュな大衆娯楽を愛しました。これが、彼の劇に見られる突飛な展開や、誇張されたキャラクター造形につながっています。若き日にパリで過ごし、現地の自由な芸術文化やキャバレー文化に触れたことが、ドイツの閉塞的な演劇界を打破する原動力となりました。

ルルの転落

 『地霊』でのルルは、男たちを支配する女神や魔女のような存在でした。しかし本作では、彼女は単なる交換可能な商品へと突き落とされます。脱獄したルルを、かつての愛人や詐欺師たちが強請り、売春宿に売り飛ばそうとします。かつては彼女の武器だった美しさが、本作では彼女を縛り付け、切り売りさせるための呪いとして機能します。

 ​舞台はドイツからパリの博打場、そしてロンドンの貧民街へと移ります。上流社会のサロンから、不潔な屋根裏部屋へと没落していく過程を通じて、ヴェーデキントは文明社会の裏側にある醜悪さを容赦なく暴き出します。


​ 彼女を取り巻く男たちは、もはや彼女を崇拝すらせず、どうやって彼女を利用して金を稼ぐかしか考えていません。

タイトルの意味

 ​本作で最も重要なテーマの一つが、レズビアンの貴族ゲシュヴィッツ令嬢による自己犠牲です。ルルを所有しようとした男たちに対し、彼女だけはルルのために身代わりとなって投獄され、全財産を失い、最後は彼女を守ろうとして命を落とします。ヴェーデキントは、この物語で唯一真実の愛を貫いた彼女を、最も無惨で報われない結末に置くことで、世界がいかに残酷であるかを強調しました。

​ 結末に登場する切り裂きジャックは、単なる殺人鬼以上の象徴的な意味を持ちます。欲望の対象として消費され尽くしたルルにとって、ジャックは「自分を女として(欲望の対象として)ではなく、ただの肉塊として破壊してくれる存在でした。男性社会が女性の生命力を飼い慣らそうとした結果、最後に行き着くのは死という徹底的な破壊である、という痛烈な皮肉が込められています。


​​ 神話のパンドラの箱からはあらゆる災厄が飛び出しますが、最後に希望が残るとされています。しかし、ヴェーデキントのこの戯曲において、最後に残ったのは虚無と、ゲシュヴィッツ令嬢の絶叫だけでした。

物語世界

あらすじ

​・第1幕:シェーン博士殺害の罪で懲役12年の判決を受けたルルは、獄中で重病を装います。ここで活躍するのが、ルルを盲愛するゲシュヴィッツ令嬢です。彼女は自ら病気に感染して入院し、病院でルルと入れ替わるという命がけの身代わり作戦を決行。脱獄に成功したルルは、シェーンの息子でありながら彼女の虜となったアルヴァを連れて、国外へ逃亡します。


​・第2幕:舞台はパリの華やかなカジノへと移ります。ルルは貴族を装って生活していますが、彼女の正体を知る者たちが次々と現れ、彼女を商品として扱おうとします。​カスティ=ピアーニは密告屋で、ルルの弱みを握り、金を払うかさもなくばカイロの売春宿に身を売れ」脅迫します。​ロドリーゴは彼女をサーカスの見世物にしようと金を要求します。かつて男たちを跪かせたルルの美貌は、今やいくらで売れるかという値札を付けられる対象に成り下がってしまいました。警察の追っ手が迫る中、彼女は男装して再び逃亡します。

​・第3幕:​物語の終着点は、霧に包まれたロンドンの不潔な屋根裏部屋です。かつての輝きを失ったルル、病に冒されたアルヴァ、そして一文無しになったゲシュヴィッツ令嬢。飢えと寒さをしのぐため、ルルはついに街娼として道に立ちます。ルルが連れてきた客の一人と争いになり、アルヴァは殴り殺されてしまいます。絶望的な状況の中、ルルは最後の一人として、ある紳士を部屋に招き入れます。その男の正体は、当時ロンドンを震撼させていた殺人鬼切り裂きジャックでした。ルルは彼によって無残に解体、殺害されます。彼女を助けようと飛び込んだゲシュヴィッツ令嬢もまた、ジャックのナイフによって命を落とします。ジャックが手を洗って立ち去った後、瀕死のゲシュヴィッツがルルの名を呼びながら絶命し、物語は幕を閉じます。

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