はじめに
ウルフ『歳月』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
一人称的視点のリアリズム、意識の流れ。プラグマティズム、現象学
モダニズム文学に典型的な手法が意識の流れです。ジョイス『ユリシーズ』、フォークナー『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』、本作などに見える意識の流れの手法は、現象学(フッサール、ベルクソン)、精神分析などの心理学、社会心理学、プラグマティズム的な知見を元に、伝統的な小説にあった一人称視点のリアリズムをラディカルに押し進めたものでした。意識的経験の時間軸のなかでの全体性を描きます。
人間の意識的経験やそれにドライブされる行動は、時間軸の中で全体性を持っています。主観的な時間の中で過去と現在と未来とは、相互に干渉し合って全体を形作っていきます。過去の経験や知覚が因果になり、さながら一連の流れとも見えるように、意識的経験は展開されます。こうした時間論的全体性を描くのが意識の流れの手法です。現実の社会における実践はこのような個々のエージェントの主観的経験が交錯するなかでその時間的集積物として展開されます。
たとえばプルーストは現象学のベルクソンの親戚であり、その思想から顕著な影響を受けました。ベルクソンの思想とその現象学は一人称的視点の集積として世界や社会を解釈しようとするプラグマティズム、システム論的なものでしたが、『失われた時を求めて』は一個のエージェントの視点から、社交界における実践を記述しようとします。一人称視点の主観的なタイムトラベルが繰り返される中で、失われた時の中の過去が綴られていきます。
他方で本作は異質物語世界の語り手を設定し、複数の視点から物語を展開します。
語りの構造
本作は異質物語世界の語り手を設定し、複数の焦点化人物を設定して、50年くらいのながいタイムスケールで物語を添加していきます。
『灯台へ』とも重なるものの、本作はさらにながい時間を描きます。
また時間のなかに、戦争の影を描く演出は『ダロウェイ夫人』『幕間』『灯台へ』など、多くの作品と共通します。
本作はウルフの作品のなかでもとりわけ物語的因果が乏しく、主人公らしいキャラクターも設定されていないのが特徴です。
物語世界
あらすじ
1880年:アベル・パージター大佐は、郊外に住む愛人のミラを訪ね、その後、子供たちと病弱な妻ローズのいる家に戻ります。長女エレノアは20代前半の善良な女性で、ミリーとデリアは10代。長男モリスはすでに弁護士です。
デリアは母親の病気に悩み、母親の死を待ち望んでいます。10歳のローズは12歳のマーティンと口論し、おもちゃ屋に一人でこっそりと出かけます。
家族が寝る準備をしているとき、パージター夫人は死にかけるものの、回復します。
オックスフォードでは雨の夜、パージター家の最後の兄弟である大学生のエドワードは『アンティゴネ』を読みながら、恋している従妹のキティ・マローンのことを考えます。
オックスフォード大学の寮長の娘である従妹のキティは、ルーシー・クラドックという貧しい女性学者のもとで勉強し、エドワードを退けてさまざまな結婚のことを検討します。彼女が母親と一緒に座っているとき、パージター夫人が亡くなったと知らされます。
パージター夫人の葬儀で、デリアはチャールズ・スチュワート・パーネルのロマンチックな空想に気を紛らわせます。
1891年:キティは裕福なラスウェイド卿と結婚し、ミリーはエドワードの友人ギブスと結婚します。
ロンドンでは、30代になったエレノアが父親の家を切り盛りし、貧しい人々に慈善事業を行っています。馬車に乗ってロンドンに向かい、慈善事業の案件を訪ね、マーティン(2からの手紙を読み、モリスの弁論を聞くために法廷を訪れます。モリスはセリアと結婚していました。
街に戻ると、エレノアはパーネルの死のニュースを読み、今もこのアイルランドの政治家を熱烈に支持しているデリアを訪ねようとするものの、デリアは家にいません。
パージター大佐は弟のディグビー・パージター卿の家族を訪問します。ディグビーはウジェニーと結婚しており、マギーとサラ という 2 人の小さな娘がいます。
1907年:ディグビーとユージェニーはダンスパーティーでマギーを家に連れて帰り、そこで彼女はアフリカから帰ってきたマーティンと話します。
家ではサラがベッドに横になり、エドワード訳の『アンティゴネ』を読みながら、通りの向こうでダンスパーティーがあるのを聞いています。
マギーが家に到着すると、2人は母親の恋愛の過去についてからかうのでした。
1908:現在 40 歳のマーティンは、ディグビーとウジェニーの突然の死後に売却されていた家を訪ねます。彼は現在 50 代になっているエレノアに会いに行き、独身で変わり者のローズも立ち寄ります。
1910年:40 歳のローズは、安アパートで一緒に暮らしている従妹のマギーとサラ (またはサリー) を訪ねます。ローズはサラをエレノアの慈善活動の会合に連れて行きます。マーティンのほか、従妹のキティ=ラスウェイドも来ます。
そのあとキティはオペラを見に行きます。その晩の夕食で、マギーとサラはエドワード 7 世が亡くなったという叫び声を聞くのでした。
1911年:マギーはフランス人のルネ(レニー)と結婚し、南フランスで赤子を授かろうとしています。
イギリスでは、パージター大佐が亡くなり、家族の古い家は売りに出ています。エレノアは、ノースとペギーという名の 10 代の息子と娘がいる兄のモリスとセリアを訪ねます。独身のエレノアが若い頃に浮気相手だったウィリアム・ワットニー卿も訪ねてきます。
またローズが婦人権利運動でレンガを投げたために逮捕されたという噂が流れます。
1913年:パージター家の家は売却されることになり、エレノアは家政婦のクロスビーに別れを告げます。クロスビーはパージター家の地下室で 40 年間暮らした後、下宿屋の一室を借りることになります。
クロスビーは新しい下宿からロンドンを横断する列車に乗り、45 歳になっても独身のマーティンの洗濯物を取りに行きます。
1914年:第一次世界大戦の勃発の2か月前です。
セントポール大聖堂を通り過ぎて、マーティンは30代前半になった従妹のサラ(またはサリー)に偶然出会います。一緒にチョップショップで昼食をとり、その後ハイドパークでマギーとその赤ん坊に会う。マーティンは妹のローズが刑務所にいることを話すのでした。
マーティンは一人で、レディ・ラスウェイド(従妹のキティ)が開くパーティへと向かいます。パーティで、彼は10代のアン・ヒリアーとトニー・アシュトン教授に出会います。アシュトン教授は1880年に学部生としてマローン夫人のディナーパーティに出席していたのでした。
パーティが終わると、キティは夜行列車で夫の田舎の邸宅に行き、その後自動車で夫の城にいきます。彼女は夜が明ける頃に敷地内を歩くのでした。
1917:戦時中、エレノアはフランスからロンドンに逃れてきたマギーとレニーを訪ねます。彼女は、ポーランド系アメリカ人で、同性愛者である友人のニコラスと出会います。サラは遅れて到着し、ノースとの口論に腹を立てています。ノースは前線に出発しようとしており、サラはノースの兵役を軽蔑します。
爆撃があり、一行は夕食を地下室に持ち込みます。
1918:高齢で足に痛みを抱えたクロスビーは、新しい雇い主たちと仕事から帰宅します。
突然、銃声とサイレンが鳴り響き、戦争が終わったと伝えます。
現在:モリスの息子ノースは30代で、戦後アフリカで牧場を経営したあと、帰国します。彼は50代で安宿に暮らすサラを訪ね、友情を思い出すのでした。
ノースの妹ペギーは30代後半の医師で、70歳を超えたエレノアを訪ねます。エレノアは旅行好きで、現代に興奮していますが、人間嫌いのペギーは、叔母のビクトリア朝時代のロマンチックな話を好むのでした。
2人はトラファルガー広場のエディス・キャベル記念碑の前を通り過ぎ、そこで戦争で亡くなったペギーの兄チャールズについて触れられます。
現在60代のデリアは、ずっと前にアイルランド人と結婚して引っ越しましたが、ロンドンで家族のためにパーティーを開きます。
参考文献
・ナイジェル=ニコルソン『ヴァージニア・ウルフ』




コメント