始めに
オースティン『ノーサンガー・アビー』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
リアリズム作家として
しばしば勘違いされますが、ジェーン=オースティンは、ヴィクトリア期の作家ではなく、またシャーロット=ブロンテ(『ジェーン=エア』)のようなロマン主義に括られる作家でもなく、摂政時代の風刺的な喜劇作家です。
オースティン『傲慢と偏見』などにおいても、登場人物のグロテスクなまでのリアリズムで、社交界の実態を嘲笑する描写はドストエフスキー(『罪と罰』)や、オースティンに私淑した夏目漱石(『こころ』)とも重なります。
本作もリアリズムの視点から、ゴシック文学の仰々しさを風刺します。
ゴシック文学のパロディ
作家ホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』がゴシック小説の先駆となり、以降はこのジャンルが連綿と継承されました。
このジャンルで有名なのはポー『アッシャー家の崩壊』などで、ポーはこのジャンルを代表する作品を多く手掛け、ゴシック小説や墓地派を思わせる暗いムードやグロテスクな作風が特徴的です。
本作はゴシック文学を特徴づける古典主義的建築(払い下げられた元修道院のお屋敷)を舞台に、ヒロインのキャサリンが妄想をこじらせる姿が描かれていて、このジャンルのパロディになっています。
キャサリンはゴシック小説『ユードルフォの秘密』を愛していて、本作はそのパロディでもあります。
喜怒哀楽が激しく空想好きなヒロインキャサリンは、『エマ』などと並んで、オースティンの長編の主人公では個性が強く特に印象的なキャラクターです。
階級という制度の中での戦略的コミュニケーション
本作はアッパーミドルクラスの世界に生きる人々の結婚を巡る物語になっていて、家族をとりまく人間関係が詳細かつ丁寧に描写されています。
他の作品では例えば冨樫義博『HUNTER×HUNTER』、ハメット『マルタの鷹』『血の収穫』、谷崎潤一郎『卍』、エドワード=ヤン監督『エドワード=ヤンの恋愛時代』などに近いですが、エージェントが制度や共同体のなかでそれぞれの選好、信念のもと合理性を発揮し、これが交錯する中でドラマが展開されていきます。
物語世界
あらすじ
17歳の少女キャサリン・モーランドは、地元フラートンの隣人であるアレン夫妻と、バースを訪れるのに同伴します。
やがてキャサリンは舞踏会で魅力的な若い男性、ヘンリー・ティルニーを紹介されます。
またイザベラ・ソープが兄のジョン・ソープとキャサリンを結婚させようと画策するのですが、キャサリンはこれには興味がなく、ソープ兄弟とティルニー兄妹の両方との友人関係を維持しようとします。
その間、イザベラはキャサリンの兄であるジェイムズと婚約するもの、彼女はジェイムズがさほど裕福でなかったので不満です。舞踏会でジェイムズがいない間に彼女は、ヘンリーの兄のフレデリック・ティルニーに出会い、フレデリックと浮気を始めます。
ヘンリー、エレノア、ティルニー将軍は、自分たちの家であるノーサンガー・アビーへキャサリンを招待します。数多くのゴシック小説を読んだキャサリンは、ノーサンガー・アビーのイメージを膨らませます。
しだいにキャサリンはノーサンガー・アビーが感じの良い屋敷で、ゴシック風でないことにがっかりします。しかし、ノーサンガー・アビーには今まで誰も入ったことな不思議な続き部屋があり、キャサリンはそれが9年前に亡くなったティルニー夫人の部屋であると知ります。キャサリンは空想好きなため、ティルニー将軍について、彼は妻を殺したか、屋敷に監禁していると考えます。
キャサリンはエレノアを説得してティルニー夫人の部屋を案内してもらいますが、突然そこにティルニー将軍があらわれます。また廊下を通りかかったヘンリーに出くわし、ティルニー将軍についての自身の推測を伝えます。ヘンリーはキャサリンの妄想を否定しました。
キャサリンは泣きながら立ち去り、ヘンリーが自分とは関わりたくないかもしれないと不安になります。ジェームズは、イザベラに欺かれ、彼女がフレデリック・ティルニーと浮気をしたために婚約を破棄したことを、手紙でキャサリンに知らせます。ティルニー兄妹はショックを受け、キャサリンもイザベラに失望します。
キャサリンはティルニー家で更に数日過ごします。ある夜、ティルニー将軍が不意に帰宅し、エレノアはキャサリンに、ティルニー家のことでいろいろあり、キャサリンはもうこれ以上滞在出来ないと告げます。そのためキャサリンは故郷に戻ります。
故郷に帰ったキャサリンでしたが、数日後、ヘンリーが説明しにきます。ティルニー将軍は、ジョン・ソープから、キャサリンは女子相続人であるという誤った情報を伝えたことだけが理由でキャサリンに惹かれ、ヘンリーと結婚させようとしました。ロンドンで彼はジョンに再び遭遇し、キャサリンは貧窮状態にあると伝えたのでした。
ティルニー将軍はキャサリンを追い出すために家にやって来ますが、ヘンリーはまだキャサリンと結婚したいと告げます。結局、エレノアが裕福で爵位のある男性と婚約したために、ティルニー将軍はヘンリーの結婚にも同意したのでした。



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