始めに
太宰治「トカトントン」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
等質物語世界の語り手
本作はもっぱらある男がある作家(太宰治の分身か)に向けて書いた身の上話の手記という体裁になっています。
そのため等質物語世界の語り手「私」を設定した書簡体小説になっています。
私はあるときからトカトントンという金槌の音が不意に聞こえてきて、熱中しようとしてもそれが冷めてしまうため、この正体を作家に訊ねているのでした。
聖書との関係
この手紙に対し「某作家」(太宰治の分身か)は気取った悩みであると一蹴し、『新約聖書』こマタイ十章・二八(「身を殺して霊魂
をころし得ぬ者どもを懼
るな、身と霊魂
とをゲヘナにて滅し得る者をおそれよ」)を引用して、このイエスの言に霹靂を感ずることができれば「私」の幻聴は止むはずだとします。
この一節の意味は、「肉体を殺す事ができる相手ではなくて、肉体と魂を消しうる神をこそ敬え」くらいの内容です。本作との関連で言えば、羞恥心のようなもの(トカトントンの音)に従って自己完結するのではなくて、絶対的なものの存在を信じて、それに従ってただ行動せよ、くらいのところでしょうか。
とはいえこのアドバイスが的確なのかは、テクストのなかでもこの作家について「無学無思想」とされているので(自分の分身のような作家なので自虐混じりという感じですが)、何とも言えないところです。
またトカトントンという金槌の音は、イエス=キリストを十字架に掛けるときの杭を打つ音として解釈することができ、つまり絶対的なものに対する疑いの心理を象徴するものになっています。語りての私が、報国、恋愛、仕事などに邁進しようとするとき、その音が聞こえてきます。
物語世界
あらすじ
若者である「私」は、好んで読んでいた作品の「某作家」へと身の上話を記した手紙を送ります。
敗戦を迎え「私」は、徹底抗戦してお国のために死ぬべきという若い中尉の演説に感銘をうけるものの、その時聞こえてきた「トカトントン」という金槌の音を聞いて何故か白々しくなります。
それからの「私」は、小説を書こうとしたり、仕事も恋愛も頑張ろうとするものの、熱意が高まるたびに「トカトントン」が聞こえて冷めてしまいます。
手紙はこの「トカトントン」は一体なんなのだろうか、と尋ねる内容でした。
この手紙に対し「某作家」は気取った悩みであると一蹴し、マタイ十章・二八(「身を殺して霊魂
をころし得ぬ者どもを懼
るな、身と霊魂
とをゲヘナにて滅し得る者をおそれよ」)を引用して、このイエスの言に霹靂を感ずることができれば「私」の幻聴は止むはずだとします。
参考文献
・野原一夫『太宰治 生涯と作品』




コメント