始めに
ドストエフスキー『分身』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ゴーゴリからバルザック風のリアリズムへ
ドストエフスキーはキャリアの初期には特に初期から中期のゴーゴリ(「鼻」「外套」)の影響が強く、『貧しき人々』も書簡体小説で、繊細かつ端正なデザインですが、次第に後期ゴーゴリ(『死せる魂』)やバルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)のリアリズムから影響されつつ、独自のバロック的な、アンバランスなリアリズム文学のスタイルを確立していきます。
初期のゴーゴリ、ホフマン風のロマン主義、リアリズム
本作はゴーゴリ(「鼻」「外套」)、ホフマンのロマン主義文学からの影響が顕著にあります。ゴーゴリ、ホフマン風の幻想文学でありつつ、リアリスティックな心理劇を展開しています。
ホフマン「ドッペルゲンガー」ハイネ「ドッペルゲンガー」など、ロマン主義の作家にドッペルゲンガーのモチーフは好まれましたが、本作も分身を扱う物語です。
本作では主人公ゴリャートキンの分身が現れ、ゴリャートキンを出し抜き劣等感を抱かせ、最終的な破滅へと導きます。分身の正体はゴリャートキンの妄想という解釈もすることができますが、正体は分かりません。
フォロワーのカフカ(『変身』)もこうした、ファンタジーなどの非現実的な要素と絡めてリアリズムを展開する手腕に長けています。またドストエフスキーとカフカを愛したハイスミス(『ふくろうの叫び』『太陽がいっぱい』)なども手法的に重なります。
艷笑コメディとして
本作品はドストエフスキーの得意な、性と愛をモチーフとする艶笑コメディとなっています。
本作においてゴリャートキンはクラーラへの敵わぬ恋から周りの人間への不信感を募らせて疑心暗鬼になり、被害妄想に襲われています。やがてそんな彼の目の前に自分の分身が現れて、出し抜いていくのでした。分身は実在するとも、被害妄想が生んだ幻覚とも捉えられます。
物語世界
あらすじ
九等文官ヤーコフ・ペトロヴィッチ・ゴリャートキンは、馬車で出かける途中、上司や同僚とすれ違います。ゴリャートキン氏の様子に彼らは驚いた表情を見せたものの、ゴリャートキン氏はただ馬車で通り過ぎます。
彼は、リテイナヤ街の医師クレスチャン・イワノーヴィッチの所に寄ります。医師からは、社交的になるよう言われます。医師と話す中でやがてゴリャートキン氏は泣き出します。自分には敵がいて、その敵は私を破滅させようとしていると言います。敵とは職場の上司のアンドレイ・フィリッポヴィッチや、その甥で八等官のウラジミール・セミョーノヴィッチでした。ゴリャートキン氏は彼の恩人でもある五等文官のオルスーフィイ・イワーノヴィッチの一人娘クラーラ・オルスーフィイェヴナに恋をしていたものの、彼女はウラジミール・セミョーノヴィッチと婚約しているそうです。しかもウラジミールは伯父のアンドレイと一緒になってゴリャートキン氏をドイツ女性との醜聞で破滅させようとしているといいまふ。医師は、しっかり薬を飲むように言い聞かせ彼を帰します。
その後、ゴリャートキン氏は、馬車でイズマイロフスキー橋のオルスーフィイ・イワーノヴィッチ邸に向かいます。そこではクラーラ・オルスーフィイェヴナの誕生祝いが行ありました。ゴリャートキン氏はオルスーフィイ・イワーノヴィッチ邸に入ろうとするものの、断られまふ。そこでゴリャートキン氏は屋敷の裏階段から入った台所口で中の様子を伺っていました。屋敷の中ではゴリャートキン氏の上司である六等文官のアンドレイ・フィリッポヴィッチが主賓で、その甥のウラジミール・セミョーノヴィッチはクラーラに寄り添っていました。ゴリャートキン氏の直属の上司アントン・アントンノーヴィッチも来て祝辞を述べます。
ゴリャートキン氏はやがてサロンに顔を出します。もちろん一同は彼の姿に驚くが、彼はとりあえず挨拶して祝いの言葉を述べた。アンドレイ・フィリッポヴィッチがあきれて罵ります。ゴリャートキン氏はクラーラをダンスに誘おうとその手を取るものの、彼女が悲鳴を上げ、みんなが飛びかかって彼女をゴリャートキン氏から引き離します。ゴリャートキン氏は誰かに引っぱられ家の外に追い出されます。
ゴリャートキンがイズマイロフスキー橋の近くのフォンタンカの河岸を走ると、自分とそっくりの男に出会います。それは自分の分身でした。分身は仇敵たちの策謀とゴリャートキン氏は考えます。
その翌日、分身は役所に現れ、同姓同名を名乗ってゴリャートキン氏の真ん前に座ります。初めは仲間のように振る舞い、ゴリャートキンも彼を自宅に招き、彼に二人でうまく敵の策謀を暴こうと提案し、敵の秘密まで喋ります。しかし次の日役所ではその新ゴリャートキン氏は、仕事では彼を出し抜き、同僚の信頼も得て、ゴリャートキン氏を追いつめます。
ゴリャートキン氏は新ゴリャートキン氏の出現によって追いつめられ、職場の同僚のヴァフラメーイェフからも絶交されます。ゴリャートキン氏もかつてヴァフラメーイェフとともにドイツ女性のカロリーナ・イワーノヴナの館に下宿していて、その頃ゴリャートキン氏はこのドイツ女性に入れ上げていました。しかし、ゴリャートキン氏はその後下宿を出て、高嶺の花であるクラーラ・オルスーフィイェヴナに恋しました。それは初めから望みのない横恋慕であった。
ゴリャートキン氏は、ヴァフラメーイェフの下宿先から届けられたクラーラ・オルスーフィイェヴナからの手紙を受け取ります。それには、望まない結婚を父親にさせられそうなので助け出して欲しい、今晩九時きっかりにオルスーフィイ・イワーノヴィッチの家の窓の下に馬車を用意して待っていてください、と書かれていました。
ゴリャートキン氏は馬車を借り、そこに現れます。ゴリャートキン氏は、みんなの前に引き出されます。そして彼はそこにやって来た医師のクレスチャン・イワノーヴィッチに引き渡され、そのまま精神病棟に収容されます。
参考文献
・桑野隆『バフチン』
・トロワイヤ『ドストエフスキー伝』




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