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有島武郎『或る女』解説あらすじ

有島武郎
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始めに

 有島武郎『或る女』解説あらすじを書いていきます。

 

背景知識、語りの構造

自然主義、白樺派

 有島武郎はイプセン(『民衆の敵』『人形の家』)など自然主義の作家からの影響が強く、リアリスティックな心理が特徴です。 

 また白樺派に括られる作家で、これは学習院の同人誌白樺の作家を中心とするグループに与えられる名前であって、志賀直哉(『城の崎にて』)、里見とん(『多情仏心』)、武者小路実篤(『友情』)など、おのおの作家性もまちまちでしたが、理想主義や人道主義を掲げ、またこのコミュニティでは広くトルストイやニーチェは読まれて共有されていました。

 本作はトルストイ『アンナ=カレーニナ』のような、ファムファタル的な、新しい女である葉子を描きます。

トルストイと本作の理想主義

 『アンナ=カレーニナ』のトルストイはクリミア戦争における従軍経験があり、それに由来する反戦思想と農奴制への批判的な発想が起こりました。カフカース地方での生活とクリミア戦争への従軍経験が民衆の偉大さを発見し、それを搾取する構造を持つ戦争という事象と、農奴制に抗いました。トルストイはルソーの自由主義思想の影響も大きく、それが反戦にもつながっていると思われます。

 このような、民衆という存在と彼らの実践に立脚する保守主義、プラグマティックな思想がトルストイ文学のルーツです。

 『アンナ=カレーニナ』においては民衆の利他的な日常実践の中に救いを見出して公共的な徳を獲得するリョーヴィンが描かれる一方、公共圏の中での実践から承認欲求や欲望をエスカレートさせることで逸脱し破滅していくカレーニナとヴロンスキーが対照的に描かれます。

 本作も同様に、公共圏の中での実践から承認欲求や欲望をエスカレートさせることで逸脱し破滅していく葉子を描き、彼女は公共的徳という理想を獲得できずに孤立します。

モデルの佐々木信子

 本作のモデルは佐々木信子です。国木田独歩(「竹の木戸」『武蔵野』)に恋されて結ばれるものの、生活に耐えかねて、結婚後5か月で出奔します。父・本支の死後、森広と結婚のため鎌倉丸に乗るものの、船の事務長武井勘三郎と恋に落ち、シアトルへ到着後、そのまま同船で帰国しました。このあたりの経過は『或る女』と一致するものの、帰国後は武井と佐世保で旅館を経営し、71歳で亡くなるまで穏やかに暮らしました。

 有島は森広の友人であって、そちら側のスタンスなので、だいぶ信子に批判的な描写であって、トルストイ『アンナ=カレーニナ』やフローベール『ボヴァリー夫人』を連想させる悪女に描かれています。

自伝としての本作

 佐々木信子は不倫ののち穏やかな生活を送りましたが、実際には本作のように、姦通という醜聞から攻撃されて死へと追いやられてしまったのは有島武郎自身だったのでした。波多野秋子との不倫の果てに、二人で心中を選んだのでした。

ボヴァリー夫人』は作家フローベールの自伝的背景も色濃いですが、本作もある女とは、有島自身だったのかもしれません。

 

物語世界

あらすじ

 十代の頃に、作家の木部孤笻(きべこきょう)と恋愛し結婚したものの、木部の俗っぽさに失望して結婚を破綻させた早月葉子。彼女には木部との間に定子という幼い娘がいるものの、木部には隠し、乳母に預けています。

 娘や妹たちを日本に残し、亡くなった母の示唆により、米国シアトル滞在中の実業家、木村貞一と結婚するためアメリカ行きの船に乗ります。見送りには木村の友人での古藤が同行し、改心するように忠告するものの、葉子は嘲笑します。葉子の母は女権拡張運動を行っていましたが、葉子は妖婦として悪評になり、母の友人であるキリスト教指導者、内田にも見放されています。

 葉子は船内で葉子の世話を依頼されていた上流階級の貴婦人の田川夫人を嘲弄し、岡という若く富裕だが、どこか気弱で初心な、留学生の青年を魅了します。また婚約者があり野性的魅力を持つ、船の事務長倉地と恋におちます。葉子はシアトルで木村に会うと失望して、病気を口実に帰国の船で日本へ帰り、倉地と生活をともにします。

 二人は隠れ家で愛に満ちた二人だけの生活を送ります。しかし田川夫人により新聞に報道され、倉地は職を失い、葉子は親戚から絶縁されます。ここで葉子は木村にアメリカから送金させます。

 次第に倉地の失業と葉子の贅沢により、生活は困窮します。また葉子は倉地から飽きられる恐怖を感じだします。葉子は妹の愛子と貞世を寄宿舎から引き取り、生活に活気を出そうとします。またそこに船中で知り合った岡が訪ね、それから岡と交流が始まります。

 この頃倉地は友人の正井などと、海軍の機密情報を外国に売ることで生計を立てるようになっていました。葉子は衝撃を受けるものの、倉地の愛を感じ、自分への誇りを感じます。しかし古藤が訪ねてきて、木村を利用している葉子を責めます。

 葉子は子宮の病によって衰弱します。また倉地への嫉妬と妄想を強めます。病により衰えていく自分の容姿にひきかえ、妹たちに嫉妬と憎悪を持ちます。自分に反抗的で倉地のお気に入りで、自分への岡の愛を奪った愛子には辛く当たります。また倉地も破綻しだし、正井から葉子は脅迫され金を奪われます。

 さらに貞世が腸チフスで入院するにあたり、葉子は錯乱し、貞世と倉地に暴力をふるい、葉子は入院。そのあと倉地が失踪し、愛子や岡も見舞いに来なくなりました。

参考文献

・佐渡谷重信『評伝 有島武郎』

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