始めに
有島武郎『お末の死』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
自然主義、白樺派
有島武郎はイプセン(『民衆の敵』『人形の家』)など自然主義の作家からの影響が強く、リアリスティックな心理が特徴です。
また白樺派に括られる作家で、これは学習院の同人誌白樺の作家を中心とするグループに与えられる名前であって、志賀直哉(『城の崎にて』)、里見とん(『多情仏心』)、武者小路実篤(『友情』)など、おのおの作家性もまちまちでしたが、理想主義や人道主義を掲げ、またこのコミュニティでは広くトルストイやニーチェは読まれて共有されていました。
トルストイと本作の理想主義
トルストイはクリミア戦争における従軍経験があり、それに由来する反戦思想と農奴制への批判的な発想が起こりました。カフカース地方での生活とクリミア戦争への従軍経験が民衆の偉大さを発見し、それを搾取する構造を持つ戦争という事象と、農奴制に抗いました。トルストイはルソーの自由主義思想の影響も大きく、それが反戦にもつながっていると思われます。
このような、民衆という存在と彼らの実践に立脚する保守主義、プラグマティックな思想がトルストイ文学のルーツです。
そうした立場からトルストイは『クロイチェル=ソナタ』において、女性に対する歪んだ支配欲と嫉妬で、相手の自由を侵害する振る舞いについて否定的に描きました。
本作も家族の中で、理不尽な扱いを受けて、孤立して悩む女性の苦悩を描きます。
女性の苦悩
有島に影響したイプセンには『人形の家』があります。
これは初期のフェミニズム文学と言われていて、弁護士の妻ノラが人形のように可愛がられ、けれど借金のことで夫になじられ、やがて現実に目ざめ、人形ではなく人間てして生きるために家を出ていくという話です。
本作も家族の中で辛く当たられ、一人の個人として苦悩し、最後は死を選んでしまう少女の物語を描いていて、苦悩の主体としての女性を描いています。
物語世界
あらすじ
お末は「不景気」という言葉を口にするようになります。お末の家は4月から9月までに四つも葬式を出していました。最初の二人は父と二番目の兄でした。長男の鶴吉は家族の中で一番、お末を可愛がってくれます。
二度目の天長節であった8月31日、お末は弟の力三と姉の子供を連れて豊平川に行き、熟してない胡瓜を食べます。その頃赤痢が流行っていました。やがてその子供と力三が死んでしまい、家族の雰囲気は重くなります。お末は罪の意識に苦しみます。
やがて家族、殊に母と姉はお末にきつく当たります。
力三の四十九日にあたる10月24日、お末は友人と無限軌道の試験を見に行きます。これに対して母はお末をひどく叱り、死んでしまえ、言います。お末も母に反抗して姉の家に逃げこむものの、姉からもなじられ絶望したお末は死ぬことにします。
翌日お末は実家から猛毒の昇汞を持ちだし、姉の家で飲むのでした。鶴吉は医者を探して奔走し、姉は治療費をかき集めます。母も最期にはお末のために晴れ着を用意します。
しかし、お末は14歳でこの世を去りました。最後には、自分の家族みんなに見守られていました。
参考文献
・佐渡谷重信『評伝 有島武郎』




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