始めに
又吉直樹『火花』の解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
等質物語世界の語り手、徳永
本作品は等質物語世界の語り手、お笑いグループスパークスの徳永が設定されています。これがおそらくは作家の分身のような存在で、売れない芸人という設定です。
そんな徳永が、あほんだらというグループの神谷という先輩芸人に惹かれ、次第に疎遠になって、別の道を歩む内容です。
『ボヘミアン生活の憧憬』的な芸術家の青春物語
本作品はミルジェール『ボヘミアン生活の憧憬』に似た、芸術家の青春物語になっています。
『ボヘミアン生活の憧憬』でも、ブルジョワ社会での立身出世を夢見て若者たちが無名のボヘミアンとして右往左往する姿が描かれますが、本作も漫才という話芸に魅せられその道で生きることに憧れた主人公たちの青春が描かれています。
徳永も神谷もそれぞれ挫折して、お笑いの道ではなかなか成功できないものの、最後にはそれでもお笑いに魅せられ続ける2人を描きます。
可もなく不可もない作品
正直本作は、タレント本や映画によくあるド素人臭い変な感じは出ていない一方で、取り立てて良くも悪くもない凡庸な内容になっています。
まずお笑いの世界の描写が薄味で(ブラックな部分は描きにくいでしょうが)、プロのお笑い芸人でなくても誰でも書けそうな内容です。異業種作家の最大の強みは、業界へのディープな知見や専門的な情報の密度で勝負しうる点だと思いますが、本作にはそれがまったくありません。
また異業種作家には町田康(「きれぎれ」)や百田尚樹(『夢を売る男』)みたいに、異業種で培ったノウハウを創作に転用するというルートもありえますが、そういうのもほとんど感じさせません。町田康には音楽で培った口語的語り口のスタイル、百田尚樹には放送作家で培った企画とエンタメとしてのパッケージ化の要領のセンスが目に見えてありますが、それが全くないです。
それとロマン派臭い大仰な描写が煩いです。大木惇夫(「大地讃頌」の作詞)かよとツッコみたくなります。
また小説よりもエッセイのほうが面白かったです。
芥川賞受賞作品の中では下の上くらいの内容で、他の候補作の島本理生『夏の裁断』が取るべき回でした。
物語世界
あらすじ
売れない芸人の徳永は神谷という男と出会い、弟子入りを志願します。神谷から「俺の伝記を書いて欲しい」と言われ、神谷の言動をノートに記録していきます。
徳永のスパークスが大ブレイクすることはありませんでしたが、徐々に劇場の観客に名前を覚えてもらったり、お笑い雑誌で取り上げられます。
その頃、徳永に神谷から連絡が来ます。神谷が、徳永のいる東京に拠点を移すというのです。神谷は真樹という女性の家で生活をします。そして芸人の仕事の合間に、よく三人で会います。
徳永は、いつか神谷と真樹が結婚するものだと思っていましたが、真樹は神谷とは別の男と交際します。
神谷は中々世間に評価されないものの、スパークスは深夜番組に出演したり、注目の若手として雑誌に取り上げられます。
神谷の相方の大林から、神谷が多額の借金を抱えていることを徳永は知らされます。そんな中でも徳永と会うと神谷は必ず奢るため、徳永は神谷のためにと疎遠になります。
そんななか、スパークスが出演していた漫才番組が一年で終了し、さらに、相方の山下からコンビ解散を求められます。山下と同棲相手が籍を入れたそうです。
スパークス最後の舞台での漫才が行われ、神谷も舞台を見届け、号泣します。その後、徳永も芸人を辞めて不動産屋に就職します。
そんな時に、大林から神谷の居場所を訊かれます。神谷の住んでいたアパートに徳永は向かいますが、すでにそこにいませんでした。
ある日、仕事を終えた徳永に、着信があり、神谷からでした。徳永は、神谷が飲んでいる居酒屋へ向かいます。そこにすでに神谷がいました。一年間何をしていたのかと徳永が尋ねると、借金返済の金をためていたこと、自己破産したことを教えられます。
また神谷は胸が大きかったら面白いと考え、シリコンを注入してFカップになっていました。徳永はトランスジェンダー差別だし世間に受け入れられないと、冷静に否定します。徳永だけには、笑って欲しかったと神谷は言いながら、涙を流します。
そんな神谷を、徳永は熱海へ温泉旅行に誘います。宿泊した温泉旅館で、参加型のお笑い大会のポスターを発見します。そして二人はネタ作りを始めるのでした。
参考文献
・今橋映子『異都憧憬 日本人のパリ』




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