始めに
アイスキュロス『縛られたプロメテウス』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
専制と個人
テーマは、新興の神ゼウスによる専制的な力と、プロメテウスによる不屈の意志の対立です。 ゼウスは法や正義ではなく、力と暴力によって支配する暴君として描かれます。 プロメテウスは肉体的に拘束されながらも、ゼウスが知らない秘密(ゼウスの没落の予言)を保持することで、精神的な優位を保ちます。
プロメテウスが罰を受ける理由は、天界から火を盗み、人間に与えたことです。これは単なる窃盗ではなく、人間に知恵と技術を授けたことを意味します。プロメテウスは人間に数、文字、航海術、医術、占いなどを教えたと語ります。彼は未開の状態にあった人類を文明化させた救済者です。神々の都合よりも、滅びゆく人類の存続を優先した彼の行動は、自己犠牲を伴う究極のヒューマニズムを提示しています。
運命
劇中では、全能に見えるゼウスでさえも、運命の三女神(モイライ)や復讐の女神(エリニュス)が司る必然性には逆らえないことが示唆されます。プロメテウスは、自分がいつか解放されること、そしてゼウスの支配がいずれ危機に瀕することを確信しています。先見の明(プロメテウスの名前の由来)を持つ彼は、自分の苦しみを知りながらもそれを受け入れます。知る者が負うべき重荷もまたテーマです。
劇の冒頭で、プロメテウスはクラトス(力)たちに罵倒されながら岩山に縛り付けられますが、彼らが去るまで一言も発しません。彼の沈黙は、圧倒的な暴力に対する最大の拒絶です。保身を図るオーケアノスや、ゼウスの犠牲者であるイーオーとの対話を通じて、プロメテウスの孤高の苦しみがより際立たせられています。
物語世界
あらすじ
この物語は、全能の神ゼウスの怒りに触れたプロメテウスが、世界の果てにあるコーカサスの岩山で拷問を受けるところから始まります。
ゼウスの家来であるクラトス(権力)とビア(暴力)、そして鍛冶の神ヘパイストスが、プロメテウスを連れて荒野に現れます。ヘパイストスは友であるプロメテウスを縛ることに気が進みませんが、ゼウスの命令には逆らえず、彼を岩壁に鎖で固く打ち付けます。プロメテウスは彼らが去るまで、一言も発さず沈黙を貫きます。一人残されたプロメテウスが天と地に自分の苦しみを見よと訴えると、その声を聞きつけたオケアノスの娘たち(合唱隊)が駆けつけます。プロメテウスは彼女らに、自分が罰を受けている理由を語ります。
ゼウスが人類を滅ぼそうとした際、自分だけが反対し、人間に火と希望、そしてあらゆる技術(文明)を与えて救ったこと。そこへ、海神オーケアノスがやってきて、ゼウスに謝罪して許しを乞うべきだと忠告します。しかしプロメテウスはその妥協案を拒絶し、オーケアノスを追い返します。そこへ、牛の姿に変えられた王女イーオーが迷い込んできます。彼女はゼウスに愛されたためにヘラの嫉妬を買い、執拗なアブに追われて世界を彷徨っていました。プロメテウスは先見の明を用いて、彼女の今後の苦難と、最終的にはエジプトで救われることを予言します。
さらに、イーオーの末裔(のちの英雄ヘラクレス)が、いつか自分をこの束縛から解放するだろうと告げます。プロメテウスは、ゼウスがある結婚によって、自分を凌ぐ息子をもうけて没落するという秘密を握っていることを公言します。これを聞いたゼウスは、伝令の神ヘルメスを送り込み、秘密を明かすよう脅します。しかし、プロメテウスは激しく拒絶します。「ゼウスに仕えるくらいなら、この岩山に縛られている方がましだ」と。
交渉が決裂した瞬間、ゼウスの雷電が轟き、地震が岩山を砕きます。プロメテウスは合唱隊の娘たちを巻き込みながら、底なしの奈落へと沈んでいくところで劇は幕を閉じます。



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