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ビオイ=カサーレス『モレルの発明』解説あらすじ

ビオイ=カサーレス
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始めに

 ビオイ=カサーレス『モレルの発明』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ビオイ=カサーレスの作家性

 ビオイ=カサーレスの文学的アイデンティティを語る上で、ボルヘスは欠かせません。1930年代に出会って以来、二人は共同でH・ブストス・ドメックなどの変名を用いて執筆し、互いの作品を批評し合いました。推理小説的な厳密なプロット、虚構と現実の境界を曖昧にする形而上学的な主題、そして心理主義的リアリズムへの反発を共有します。


​ ​ビオイ=カサーレスは、ウェルズの科学的ロマンスを高く評価していました。代表作『モレルの発明』の序文でボルヘスが完璧なプロットと評した背景には、ウェルズ的な設定の妙があります。突飛な設定を、論理的な一貫性を持って構築する手法。『モレルの発明』における記録装置という発想は、ウェルズ的SF設定の極致と言えます。


​ スティーヴンソンにおける​物語の語りの純粋さと、冒険小説が持つ力強いプロットに魅了されていました。簡潔で無駄のない文体、そして二重性やアイデンティティの不確かさといったテーマの扱いなどを継承します。


​ ​チェスタトンの逆説に満ちた文体と、ブラウン神父シリーズに見られる一見超自然的な現象を論理的に解明する構造を好んでいました。


​ ヘンリー=ジェイムズの​心理描写の積み重ねではなく、視点の操作によって読者を幻惑する手法に注目していました。語り手の信頼性の欠如や、曖昧な状況が生み出す恐怖や不安の表現。

認識の不確かさ

 テーマは完璧な再現は現実と区別できるのかという問いにあります。モレルの発明した機械は、視覚、聴覚、触覚、嗅覚のすべてを完璧に記録し、再生します。しかし、記録される側はその過程で命を奪われます。投影された影は、朽ち果てていく実体よりも美しく、永遠に活力を保ち続けます。ここでは、オリジナルの欠陥を克服した複製の方が、より真実味を持って立ち現れるという逆転現象が描かれています。


​ ​島で繰り返される一週間の記録は、ニーチェ的な永遠回帰の機械的な具現化です。 記録された人々は、自らが死んでいることも、同じ行動を無限に繰り返していることも知りません。この不死は、変化や成長を拒絶した静止した時間であり、一種の美しい地獄として提示されます。システムが稼働し続ける限り、彼らの意識は保存されますが、それは外部からの干渉を受け付けない閉鎖的な回路の中にあります。

孤独

 ​主人公である逃亡者が抱く、投影された女性ファウスティーヌへの恋心は、究極の孤独を象徴しています。逃亡者は彼女の隣に座り、語りかけますが、彼女はあくまで過去の記録であり、彼を認識することはありません。彼は最終的に、自らも機械に記録されることで、彼女の記録の中に侵入しようと試みます。これは客観的な現実を捨て、愛する対象と同じ層に自己を同期させることで孤独を埋めようとする、悲劇的で独我論的な選択です。


​ ​物語の構造自体が、主人公の日記という形式をとっており、経験された事実と記録された解釈の乖離がテーマとなっています。 主人公は断片的な情報から島の秘密を推論していきます。これは、バラバラの感覚データから、一つの整合性のある世界モデルを構築しようとする意識の働きそのものの暗喩とも言えます。

物語世界

あらすじ

 ベネズエラ出身の「逃亡者」である語り手は、終身刑から逃れるため、病気が蔓延すると噂され誰も近づかない無人島ヴィリングス島に辿り着きます。


 ​ある日、島に突然、大勢の避難民のような男女が現れます。彼らは古いレコードをかけ、1920年代風の服装でダンスやテニスに興じています。見つかれば捕まると恐れる語り手は身を隠しますが、彼らの振る舞いには奇妙な点がありました。凍えるような寒さの中で彼らは水泳を楽しみ、二つの太陽や二つの月が同時に現れるといった異常事態が発生します。


 語り手は勇気を出して、その中の一人、美しい女性ファウスティーヌに接触を試みますが、彼女は語り手が目の前にいても、全く気づかないかのように振る舞います。


​ ​語り手は島にある巨大な地下施設を探索し、この現象の首謀者である科学者モレルが、滞在者たちに語って聞かせている記録を発見します。そこで驚愕の事実が明かされます。モレルは、視覚・聴覚だけでなく、触覚や嗅覚までも完全に再現し、魂(意識の情報の総体)を捉える機械を発明していました。島にいる人々は、かつてモレルと共に島を訪れた友人たちの一週間分の記録が無限にループ再生されている投影(シミュラクル)だったのです。この機械で記録された生体組織は数日で破壊され、死に至ります。モレルは、永遠の生を求めて、友人たちに無断で彼らを記録し、自分もその中に加わることで永遠のループを完成させたのでした。島の住民がすべて過去の影であることを理解した語り手は、絶望的な孤独に直面します。ファウスティーヌはすでに死んでおり、目の前にいるのは実体のない映像に過ぎません。


 ​しかし、彼は一つの決断を下します。自分も機械によって記録されることです。彼はモレルの記録された一週間のスケジュールを完璧に把握し、その映像の中に自分が自然に溶け込めるよう、タイミングを合わせて自らを撮影し始めます。


 ​肉体が朽ち果てていく中で、語り手は投影された世界においてファウスティーヌの隣に座り、彼女と見つめ合っているかのような偽りの幸福を手に入れます。彼は日記の最後に、将来この機械を発見する者に対し、自分とファウスティーヌの意識を統合し、一つの幸福な物語として再編してほしいという願いを記して、物語は閉じられます。

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